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「地域で育てる社会的養育への転換を」(視点・論点)

全国児童家庭支援センター協議会 会長 橋本 達昌

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貧困や虐待、保護者の疾病などにより家庭での養育が困難となった子どもたち、いわゆる要保護児童は、住み慣れた地域や慣れ親しんだ友達と離れ、主に乳児院や児童養護施設で養育されてきました。しかし今、この制度のあり方が大きく変わろうとしています。今日はその政策変化の方向性と新たな支援の在りようについてお話しします。

平成28年に改正された児童福祉法は、児童相談所によって施設へ措置することを機軸として設計されていた「社会的養護システム」を改め、これを地域の多様な支援者らが織りなすファミリーソーシャルワークによって、家庭やそれに近い環境で子どもを育もうとする「社会的養育システム」へ転換しようとするものでした。
またこのことは、社会的養護制度に内在していた問題や制限の解消や緩和をめざしたイノベーションであったとも言えます。
残念ながらこれまでは、要保護児童を発見した場合、在宅のままでしばらく様子を見ようとするか、親子を分離するかの白黒思考的な判断が即座に求められ、さらに親子分離を決定した場合には、施設に措置するか里親に委託するかの二者択一を迫られました。また実務的には、児童相談所一時保護所の入所定員や、施設や里親の受け入れ可能人数によって、社会的養護制度を利用する子どもたちの総量が規制され、行き先が決定するという実態もあったように思います。
そもそも私は、支援の入り口段階で、在宅のまま様子見をするか、親子分離をするかという極端な選択肢しかなかったこと自体が、制度の不備であり、悪しき不作為であったと考えます。
仮に在宅のままであっても、そこに支援者が足繁く訪問し、学習支援や食事提供、家事援助を実施しつつ、些細な子どもの変容にも目を配るケアシステムとしての在宅措置制度が確立され、広く活用されるようになれば、状況は大きく変化するでしょう。

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さらに従来は、「施設か里親か」といった地域の貴重なリソース同士の対立を、いたずらにあおるような選択を強いられてきましたが、このことにも大いに疑問があります。
むしろ右の図のように実家庭の脆弱さを、近くの里親が、週末や夜間に子どもを一時的に預かることによって補っていく。施設は、そのような実親と里親との共同養育の中で生じる子どもの発達課題や養育者の疲弊を、専門スキルや24時間365日対応できるケアワーク機能を活かして解消・緩和していく。このような“ケアラーや支援者を支援する”重なりや厚みのある仕組みが構築されれば、地域社会全体の養育力は飛躍的に向上していくでしょう。
ところで先の児童福祉法改正では、市区町村が子ども家庭総合支援拠点を創設し、要保護児童対策の強化をはかっていくことも示されました。地域の養育力の源泉となるべき市区町村の子ども家庭福祉施策が、いかなる進化を遂げ、どのように充実していくのか、目下この点にも関心が集まっています。

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従来の制度設計では、主に都道府県等の設置する児童相談所が、警察や市区町村からの虐待通告を受けて動き出し、施設入所や里親委託を決定していました。しかし地域の情報が詳しく手に入り、家庭環境の変化が瞬時に捕捉できる市区町村が中核となり、自ら実施している子育て支援や母子保健事業、障害児者や生活困窮家庭への支援制度等を総動員して子ども家庭支援に乗り出していけば、これまで児童相談所があまりケアできていなかったケース、例えば、望まない妊娠や育児困難が懸念される特定妊婦、親や兄弟を介護しているヤングケアラー、施設退所後の生活環境にリスクを抱えている青年や生活困窮児童などにも支援は行き届き、その守備範囲は一気に拡大するでしょう。
また最近、地域では子ども食堂や学習支援拠点などが、市民ボランティア組織等の尽力によって盛んに創出されてきています。さらに今次のコロナ禍を契機として、見守り支援活動も活発化しています。
ちなみに福井県越前市では、国からの補助金に加え、民間企業や篤志家からの寄付を原資に、行政保健師や民生・児童委員、民間相談支援機関である児童家庭支援センターや社会福祉協議会の運営する児童センターの職員、学習支援拠点等に集う市民ボランティアらによって、食の提供を通した見守り支援活動が市内全域で一斉展開されました。

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ご覧いただいている写真は、越前市民の方々が、学習支援や食の提供を通して見守り支援活動を行っている様子です。
なお、見守り支援活動の裾野を拡げている民間機関や市民組織のスタッフには、気がかりな子どもやその保護者と親和的に繫がっているケースが少なくありません。彼らは、ともすると上から目線で息苦しくなりがちな行政の直接的な支援とは対極の、いわば関係が途切れないという意味で息の長い、求め過ぎないという意味でゆるい支援を展開しています。
他方、我が国のほぼすべての市区町村には、子どもを守る地域ネットワーク組織として、要保護児童対策地域協議会が設置されています。このネットワークは、市区町村が児童虐待の予防や早期発見、再発防止策を講じていく際の要となるシステムですが、残念ながら現状は、各機関の実施する啓発活動や相談件数の報告等が会議のメインを占めるなど、その形骸化が指摘されています。
もとより守秘義務や個人情報保護に絡む情報共有へのしがらみを乗り越えるために創設されたという経緯から、官主導・行政機関中心で運営されてきた協議会ですが、しかしかような表層的で硬直的な運営から脱却していくには、その構成自体を根底から覆すようなイノベーションが必要ではないでしょうか。
その手始めが、このような民間機関や市民組織のスタッフらに協議会へ参画してもらい、支援実践現場のリアルな情報を共有し合うことであると考えます。朗らかなキャラクターで、柔らかく包み込むように子ども達と繋がっている彼らの存在そのものが、次代の地域ネットワークシステムの象徴となることに期待します。

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さらにこのような地域ネットワークが、官と民と市民の有機的な連帯を育むまでに深化すること、より具体的にいえば、官である基礎自治体が、地域人材の活躍に期待して整備した制度体系をベースに、社会福祉法人等の民間事業者が、相互に連携しつつ‟支援のプロ集団”として公益的な取組を行い、併せて市民ボランティア組織に属する市民も、地域独自のカルチャーや人間模様を良く知る‟地域のプロ”としてナチュラルに市民自治的実践を繰り広げていく。多様な支援者らが互いを信頼しながら連動し、地域福祉を豊かにしていこうとする姿勢には、地域共生社会やSDGsの萌芽を感じます。 
加えて今後の要保護児童対策には、自立支援の各フェーズにおいて、子どもの権利擁護、すなわち当事者である子ども自身の参加や意見表明権を保障していくための仕組みづくりが不可欠です。例えば自己決定・自己選択を尊重するための当事者と支援者との対話機会の確保やアドボカシー制度の導入、各種行政計画策定の際の当事者参画の徹底などがまたれています。
このように地域社会を舞台としたファミリーソーシャルワークやネットワーク、子どもの権利擁護制度などを焦点化することによって、子どもをど真ん中に据えた自立支援スキームを構築していこうとする試みは、「子どもの最善の利益のために」「全ての子どもを社会全体で育む」という社会的養護の基本理念を実効化するとともに、“地域で育てる社会的養育”へのパラダイムシフトを一層加速させていくこととなるでしょう。

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