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「新型コロナ第3波 求められる対策」(視点・論点)

東邦大学 教授 舘田 一博

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新型コロナウイルスの日本での感染者は、10月の末から第3波を迎えているような状況ですが、きょうは、この感染症に関して、これまでにわかってきたこと、現在の状況とこれから、そして感染症に強い社会を創り上げるために、という3つの項目でお話ししていきたいと思います。

1.これまでに分かってきたこと
・マイクロ飛沫による感染伝播
最初はまったく未知の病原体で、何もわからないところからスタートしたわけですが、この11か月の間にいろいろなことが明らかとなってきました。

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もともとコロナウイルスとしては風邪の原因としての4つが知られていますが、その感染様式としては咳・くしゃみを介する飛沫感染、そして汚染した手指を介した接触感染で広がることと考えられていました。しかしこの新型コロナウイルスでは、これらに加えて「おしゃべりや会話」のときにでる小さな飛沫、マイクロ飛沫と呼ばれる粒子を吸い込むことによる感染で伝播することが明らかになってきました。そしてこのマイクロ飛沫対策として、マスクが非常に重要な意味をもっていることが証明されてきているのはご承知の通りです。今では、米国のCDCやWHOもマスクの重要性を認め、これを推奨するようになっています。

・血管に感染することによる全身への影響
新型コロナウイルスは、今お話ししましたように、マイクロ飛沫を吸い込むことにより肺に定着し、肺炎を引き起こしてきます。一方で、このウイルスは血液の中に入り込み、全身の血管にも感染を起こすことが明らかとなってきました。血管の細胞にこのウイルスが付着する受容体があり、血管の細胞が障害され、そして血液の塊が形成され、いわゆる血栓症を引き起こしてくることが明らかとなっています。そうです。この新型コロナウイルス感染症では、肺炎はもちろんのこと、心臓や腎臓、肝臓や脳まで、体中のたくさんの臓器で血栓が形成され、これにより多彩な臨床症状が引き起こされることが明らかとなっています。新型コロナウイルス感染症は全身の病気であることがわかってきて、それに対する治療法に関してもいろいろと新しい知見が得られだしています。

2.現在の状況とこれから
・第三波を乗り越えるために
7月の末から始まった第二波のときは、夜の繁華街でクラスターが多数報告され大きな問題となりました。現在では、これら地域の多くの皆さまのご協力によりこのクラスタ―は沈静化しています。しかし、ウイルスは少しずつ市中に広がりだし、また地域も拡散して、札幌や大阪、名古屋、東京などの大都市圏で新しい広がりを示しています。

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これが第三波とよばれる流行を形成しているのですが、クラスターの種類が多様化して、友達や仲間同士の会食や、職場における休憩時間、あるいは集団生活を行う寮、さらには家族内感染なども多数報告される状況になっています。

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そうした状況の中で、感染リスクを高める5つの場面を厚生労働省が発表しています。具体的には、飲酒を伴う懇親会など、大人数や長時間におよぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わりなどが重要であるといわれています。
町の中のいたるところにウイルスが存在する状況になってきており、マスクを付けないでおしゃべりが行われる場所、特にお酒を飲みながらの会食の場でこのウイルスの感染が広がっていることが明らかとなっています。この広がりを抑えるためには、人と人との濃厚接触を減らすこと、人の動きを抑制すること、多人数の長時間にわたる会食などを出来るだけ減らすこと、が重要です。ただし、このウイルスは町の中で通りすがりで感染するものではありません。たとえ電車の中で隣どうしになっても、マスクをして会話もしなければ感染が広がるというリスクは極めて低いと考えて良いと思います。通勤や通学、あるいは医療機関への受診などの行動はいつも通り行いながら、不要不急の外出や多人数での外食などはできるだけ抑えることが重要になるものと思います。気温が低い冬はコロナウイルスが死滅しにくくなる、すなわち生き残りやすくなる季節です。この12月から2月頃までは感染の蔓延に十分に注意して行動する必要があります。

・治療法やワクチンについて
新型コロナウイルス感染症の治療薬として、エボラ出血熱の治療薬であるレムデシビルが承認されています。またインフルエンザの治療薬であるアビガンという薬の臨床研究が進行中です。この感染症では、体の中の炎症が過剰に進行する病態が生じることが知られているのですが、これに対して炎症を抑制するステロイドという薬の有効性も報告されてきました。さらに前述した血栓の形成を抑制する薬剤の有効性も報告されています。このように、新型コロナウイルス感染症に対してまだ特効薬と呼べるような薬剤の開発はみられていませんが、いくつかの薬を併用することにより、第一波のときに比べて、第二波・第三波では重症化をある程度抑制できる可能性が出てきています。
 一方、ワクチンの開発に関しても新しい成績が多数報告されてきています。しかし、そのエビデンスはまだ限定的であり、また副作用に関する検討も十分とは言えません。ワクチンの開発はこの感染症の制御に極めて重要でありますが、今の段階では過剰に期待することなく、冷静に臨床試験の結果を見守っていくことが重要であると思います。来年の春頃に日本でもワクチン接種が始まる可能性がありますが、接種の優先順位を含め、慎重かつ冷静な対応が必要です。

3.感染症に強い社会を創り上げるために
・差別や偏見のない社会へ
新型コロナウイルス感染症は、人や社会、そして国に分断を引き起こしやすいウイルスです。そしてその分断が差別や偏見を引き起こしていることが大きな問題となっています。残念ながら、感染した人やその家族、患者さんを診療している医療従事者に対する差別や偏見の事例が多数報道されています。これをどのように抑えていくのか、政府の分科会でも専門の委員会を立ち上げて対応を急いでいるところですが、医療従事者やマスコミなどメディアの方々、そして何よりも市民の1人1人がこの問題に関して真剣に考えていくことが必要だと思います。新型コロナウイルスはすでに町の中に広く蔓延している状況であり、誰が感染していてもおかしくないし、誰からうつされてもおかしくない状況になっています。この感染症に関連して差別や偏見が生じないように、私たち一人一人の意識を変えていくことが重要になります。

・ピンチをチャンスへ
新型コロナウイルス感染症の大流行により、私たちは大変厳しい状況にあることは間違いありません。しかし、この感染症の流行によって、感染症に対する新しい診断法、治療法やワクチンの開発が加速していることも事実です。新型コロナウイルスのような新しい病原体の出現は、これからも続くと考えておかなければなりません。そういう意味では、今回の感染症の大流行の経験を次のパンデミック感染症に対する備えとして生かせるように、市民、社会、政治、そして世界が取り組んでいくことが重要だと思います。この新型コロナウイルス感染症を乗り越えたとき、今までより一層、感染症に対して強い社会になっていなければなりません。ピンチをチャンスに変えるきっかけにできるように、私たち一人一人の行動変容と協力が、今求められているものと思います。

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