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「自動運転の現在地」(視点・論点)

自動車ジャーナリスト 清水 和夫

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 いよいよ自動運転車が実用化されます。今回は自動運転についてその現在地を分かりやすく説明したいと思います。ちょうど二年前の2018年11月に、この視点・論点で「車社会が大きく変わる」というテーマでお話しましたが、その大きな変化が実現することになりました。実は自動運転車が実際に認可されたことは、世界でもはじめてのことですが、ここでは自動運転の現在地を整理してみたいと思います。

私は内閣府が主催するSIP自動走行の構成委員を2014年から努めておりますが、自動運転といっても、現在政府の目標は大きく分けて4つの領域があります。

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まず、一番目に挙げるのはオーナーカーの自動運転です。今回、ホンダのレジェンドという乗用車が11月11日、正式に国土交通省の型式認定を受け、いよいよ市販されることになりました。これには、安全運転を支援するシステムを含みますが、詳しいことは後ほど述べます。

 二番目は地方で暮らす人々の移動手段として期待される自動運転のサービスカーです。将来はドライバーレスの自動運転サービスを目指しますが、日本中で多くの公道実証実験が行われます。ゴルフカートを使ったものから、タクシーやバスの自動運転も期待されています。

 三番目は大型トラックの高速道路におけるコンボイ走行です。物流の世界ではドライバーの人材不足が深刻化しているので、複数のトラックを一人のドライバーで電子的に連結して走る隊列走行です。

 四番目はコロナ禍で注目されるようになった、食材などを運ぶデリバリーロボットです。ちょうど小型冷蔵庫くらいの大きさのロボットが無人でモノを運ぶデリバリーロボットです。当面は歩道を走ることになるので、警察庁の道路使用許可と国土交通省の認可が必要となります。

このように自動運転に資する技術は、様々なニーズに対応できると期待されています。今回は正式な認可を取得した乗用車の自動運転について詳しく説明します。

■自動運転のレベルの定義

 自動運転を考えるとき、専門家はレベル0~5の6段階の定義を使います。

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これはアメリカの自動車技術学会SAEが定義したものであり、自動化システムをカテゴリー化したもので、クルマという製品の優劣を表すものではありません。

 レベル0は加速・減速・操舵の自動化がないものを指し、レベル1は加速と減速の自動化です。最近話題となるサポカーの自動ブレーキはこのレベル1に相当します。レベル2はこれにハンドル操作を自動化したものですが、ここで過信しやすいのは、自動でハンドルが操作されると、人は「自動運転」と勘違いしてしまうことが心配されます。レベル2が高度に行われても、ドライバーが前方をしっかりと監視し、とっさの時にはすみやかに対応する必要があります。

 過信を避けるためにSAEの定義では高度なレベル2でも、自動運転とは呼ばないということが決まりました。
よって自動運転と呼べるのはレベル3からですが、このレベルはシステムが走行条件を満たさないとき、ドライバーが運転を代わることが求められます。このため人とシステムの間で権限と責任が移譲されるので、今度は法律や保険などこれまでの制度を変える必要が出てきます。

■ホンダ・レジェンド 世界初の自動運転

 それではレベル3として正式に日本政府が世界初として認可したホンダ・レジェンドはどんな機能を持っているのでしょうか。実はレベル2と3では技術的にも法制度でも大きな違いがあります。まずは法律から見てみましょう。

 内閣府が主催するSIP自動走行委員会では、当初から法改正が必要だという認識をしていました。そのためにドライバーの義務やクルマの技術基準を議論する国際会議で、日本政府は積極的に取り組んできました。日本は自動車メーカーやサプライヤーの数が多く、日本の経済を牽引する自動車産業への期待も高く、自動走行の領域でも世界をリードするという意識があります。そこでSIPでは2020年のオリンピック・パラリンピックの年を一里塚として、産官学を挙げて自動運転技術の開発と法改正に向けた議論を熱心に取り組んできたわけです。

法改正に関しては2018年に法制度の整備大綱を発表し、2019年に道路運送車両法と道交法の改正を交付し、2020年4月1日に施行されました。WP29といわれる国際基準が施行されるのが2021年1月を予定していることから、日本の法改正は世界をリードしたことになります。

 その内容を要訳すると、今回認可されたホンダの場合、高精度地図のある高速道路で渋滞時に、時速30キロ以下で自動走行レベル3が利用でき、時速50キロを超えると終了します。そして運行設計領域(センサーなどの走行条件)から外れるとき、ドライバーはすみやかに運転できることと定められています。すこしわかりにくいですが、ドライバーが運転を代わらないときのリスクを考慮し、システムが自動で停止する「ミニマム・リスク・マニューバー」という最低限の安全性を確保しています。システムから運転交代の警報がなってから10秒後にこの措置が実行されることと法律で定めています。

 また警察庁が所管するのが、道路交通法であり、システムが操作する自動運転も「運転」という概念に含めることと、自動運転中のドライバーの安全運転義務を明確化しました。ドライバーは安全運転だけではなく、事故が起きたときの被害者救護義務もあることが明記されているわけです。さらに運転中の作動状態を記録するデータを保存することも法律で求めています。

 ここまでがドライバーのレベル3での役割ですが、ここからレベル2とレベル3の技術面での違いについて考えたいと思います。

 さきほど、高精度地図を装備することと述べましたが、自動車そのものにおいても、高度なシステムが求められます。例えばパワー・ステアリングなどの重要な機能の電源が喪失しても、安全性を確保するシステムの冗長性が必要となります。さらにドライバーをモニターするシステムも不可欠です。つまり、レベル3を満足させるためには、より信頼性や安全性を高める必要があります。

 ところで専門家の中でも、レベル3は「システムと人」の間で権限移譲が繰返されるのでかえって危険になると主張する方もいます。レベル2を高度化するべきと主張する方もいますが、ただ私はあるメーカーの実験車に試乗したことがありますが、高度で親切なレベル2は、あたかも自動運転車のように振る舞うので、過信してしまう心配もありました。

 最後にレベル3はどんなメリットがあるのか考えてみました。今のところ、高速道路の渋滞を想定しているので、追突のリスクが軽減されるとともに、レベル3が増えれば、前後の車間距離が一定に保たれ渋滞緩和にも貢献します。また、ドライバーの疲労低減にもなるとともに、レベル3ではドライバーはスマートフォンや車載TVなどを使用することも可能になります。

 7年間にもわたるSIPの議論に参加してきましたが、次世代モビリティを考えるとき、ルール作りと技術開発で先回りしていくことが必要で、SIPのようなオールジャパンの開発体制が極めて重要だと思いました。自動運転が目指すべき社会的価値を見つめ、それを実現するための取り組みは今後も続くと思います。今日の自動運転の実用化は、その長い道のりの出発点だと思いますが、事故が起きたときの法的責任も議論しながら、私達ユーザーが安心して利用できる自動運転車の社会普及を願っています。

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