「SDGs 若い世代と未来をつくる」(視点・論点)
2020年10月13日 (火)
一般社団法人シンク・ジ・アース 理事 上田 壮一
ある授業で、小学生の子どもたちに、地球の絵を描くとしたら何色のクレヨンを使いますか?と聞くと、元気よく「青!」「白!」「緑!」「茶色!」などの返事が返ってきました。いまの子どもたちの心に浮かぶ「地球」はフルカラーの映像です。
でも、この青く美しい地球の姿は、100年前には誰も知りませんでした。いったいいつ頃から私たちの心にあるようになったのでしょうか。
初めて地球のカラー写真が撮影されたのは1967年の秋です。
アメリカの人工衛星が撮影したこの写真は翌1968年に創刊された「Whole Earth Catalog」という雑誌の表紙を飾りました。
同じ1968年12月には、アポロ8号が月の地平線から昇る「地球の出」という有名な映像と写真をクリスマスプレゼントとして地球に送り、世界で話題になりました。わずか半世紀前のことです。
人類が初めて宇宙から見た地球の姿は多くの人々の心を動かしました。心が動くと行動が生まれ、社会が変わります。1970年にアメリカで初めての「アースデー」が開催され、1972年には科学者からの提言としてローマクラブが『成長の限界』という報告を発表しました。また、国連が始まって以来、初めて地球環境をテーマにした国連人間環境会議が開催されました。
この会議のテーマが「One and only Earth」、日本語では「かけがえのない地球」でした。
人と地球の未来を考える切り口として、1980年代に「持続可能な開発 Sustainable Development」という考え方が提案されました。わかりやすく言えば「子どもや孫など、未来世代の幸せを奪わずに、いまの私たちの幸せを追求する」というような意味になります。日本には「足るを知る」という言葉がありますよね。際限のない欲望に身をまかせるのではなく、子どもたちが生きる未来のことに配慮して生きよう、という考えは多くの日本人にも馴染みのあるものだと思います。
その後、人類は、1992年から10年おきに開催されている地球サミットなど、何度も話し合いを重ね、ついに2015年、国連に加盟するすべての国が合意して2030年までの「持続可能な開発目標SDGs」が採択されました。
国境を越え、利害を超えて人類共通の目標が合意されたことに、当時私も心から感動しました。
人類は、いま瀬戸際に立たされています。SDGsが決議されたのはなぜでしょうか。それは、このまま何もしなければ、気候変動、貧富の格差、紛争や暴力などの危機を乗り越えることができず、この美しい地球を子どもたち、あるいはさらにその先の世代に引き継ぐことができない、という強い危機感があったからです。SDGsの採択をきっかけに、いま世界で無数の動きが始まっています。この動きが大きなうねりとなって、これからの地球と人間の未来に希望を見せてくることを私は強く願っています。
さて、SDGsの採択に感動した私は、2017年から有志の教員のみなさんと一緒に「SDGs for School」という活動を始めました。折しも学習指導要領が新しくなり「持続可能な社会の創り手の育成」がその前文に謳われ、教育界でも関心が高まっていました。SDGsは学校とリアルな社会をつなぐ架け橋になると思い、2018年5月に副教材として『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』という本をつくり、公募により、これまでに全国700校に届けました。
そのほかには、全国の教員があつまって持続可能な社会をテーマに、これからの教育について話し合う「ティーチャーズ・ギャザリング」。マレーシアのボルネオ島でパームオイルに関する環境や社会問題の現場を、中高生と教員が一緒に体験するツアー型授業。子どもと大人が出会い、新しい価値や文化を発信する場として、学校や世代を超えた文化祭「超文化祭」を開催するなど、先生や生徒たちの想いを実現する手助けをしています。
SDGs for Schoolを一緒に立ち上げた一人の教師が「学びは本来、楽しいはずなのに、試験が目的になってしまうと、子どもたちから笑顔が消えていく」という話をされ、ショックを受けました。確かに「試験のための勉強」だけでは笑顔になれる生徒はほんの一部です。全員が高い順位を目指す教育は、本来の教育の目的とはずれているのではないか、と感じている教師は案外多いのです。しかし、SDGsという世界共通の、未来への約束を知ることで、「未来をつくるために学びたい」という気持ちが湧き、目が輝き始める子たちがいます。この学びの先にある進路のこと、仕事のこと、人生のことを真剣に考え始めます。SDGs for Schoolは、試験のためではなく「未来をつくるために学ぶ喜び」を全国の学校に届けたいという想いで続けています。
SDGsが記された決議書のタイトルは「Transforming Our World = わたしたちの世界を変革する」という言葉です。世界を変革するためには、子どもたちのストレートで柔らかな発想がとても大切です。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「若者は明日のリーダーではなく、今日のリーダーだ」と言っています。SDGs for Schoolで出会った子どもたちを見ていると、まさにその通りだなと思います。
たとえば、「やさしいせいふく」という活動は、自分たちが学校で着る制服を持続可能なものに変えたい!という想いから始まった活動です。仲間を集め、企業とも協力しながら、着々とその実現に向けてプロジェクトを進めています。
また決議書に謳われている「誰も置き去りにしない No one will be left behind」という言葉は、弱い立場の人たちへの視線を忘れず、他者を認め、思いやる心をもとうと呼びかけています。
神奈川県の中学生が始めた「チョコプロ」は、自分たちと同世代のアフリカの子どもが児童労働で苦しんでいることを知り、この問題を多くの人に知って欲しいという想いから始まったプロジェクトです。2020年2月にはクラウドファンディングを使って資金を集め、児童労働問題を伝える大きなイベントを実現しました。こうした他者への優しさと、実行する勇気と、クリエイティビティを兼ね備えた子どもたちの行動は、大人たちの心も強く動かすのだと感じました。
もちろんSDGsは万能薬ではありません。取りこぼしている課題もたくさんあります。新型コロナウイルスが日常を大きく変えてしまったように、世界の課題は刻一刻と変化して、SDGsでは到底解決できない事態になってしまう可能性もあるでしょう。今の子どもたちは「ポストSDGs」世代です。いま15歳の子どもは2030年には25歳ですから、ちょうど社会人になりたての頃です。SDGsの次のゴールづくりに参加しているかもしれません。SDGsを越え、2030年よりさらに先の未来を、大人と子どもが一緒に考えて行動することが大切だと思っています。
日本でのSDGsの認知度はまだ3割程度です。言ってみれば知識については「大人も子どもも、まだ1年生」です。地球の未来を子どもたちに丸投げするのではなく、子どもたちと学びあいながら一緒につくっていくという姿勢がSDGs for Schoolの考え方です。私は「子どものアイデアとフットワーク」と「大人の経験とネットワーク」とを掛け合わせることで、変革を加速することができると思っています。逆に子どもたちから見れば、社会のために行動する、たくさんのかっこいい大人たちと出会うことで、「未来は生きるに値する場所」だと信じることができ、勇気づけられるのではないでしょうか。