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「新型コロナウイルス 地域の流行状況のとらえ方と今後の対応」(視点・論点)

国際医療福祉大学 教授 和田 耕治

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新型コロナウイルスの感染が国内でも拡大しています。そうした状況をもとに、政府は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対策本部を設置しました。今後状況に応じて緊急事態宣言がなされる可能性があります。

今回は、新型コロナウイルスの地域での流行状況のとらえ方と、それに応じた必要な対応についてご紹介します。

4月1日には、新たな年度を迎え、学校の再開なども予定されています。しかし、地域によって感染拡大の状況は様々です。
そのため地域での感染者のデータをもとに、地域の流行状況を確認することが必要となります。

目安としては、過去2週間の感染者数を参考にすると良いでしょう。報道でよく見かける、都道府県別のデータは、1月中旬からの陽性患者数が示されることが多いです。そのため最近の傾向がわかりません。また、この数週間程度は海外からの帰国者が地域で診断されることも増えています。地域内での感染された方の数を参考に判断するとよいでしょう。
例えば、北海道は、1月15日から3月28日では171人が報告されましたが、この2週間の3月15日から28日で海外からの帰国者を除くと25人でした。

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これは、地域ごとの感染状況のとらえ方の例として示したものです。
過去2週間のデータで、海外からの渡航者の陽性例は除いて考えるとよいでしょう。
1.一例も確認されていない(地域未発生期)
2.複数例あるが概ね感染者のつながりが確認されている(地域発生早期)
3.地域での継続的な感染が確認されている(地域感染期)

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地域はどこまでの広がりを含めるのかは生活圏などを考慮する必要があります。都道府県でも、距離的に離れているところまで同じ対応ということにはならないでしょう。

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過去2週間の間に一例も確認されていない地域であれば、学校の再開も比較的安心してできそうです。しかし、手洗いの励行や、具合の悪い人を休みとするなどの感染対策が必要です。またこうした地域でも、3つの密といわれる「密閉」「密集」「密接」が重なる場は徹底的に減らします。

複数例あるが概ね感染者のつながりが確認されている状況であれば、地域でより感染対策の強化が必要になります。感染者に対して詳細な調査を行うことで、クラスターと呼ばれる感染者のつながりが見えてくる可能性があります。クラスターは、群れや集団と訳されます。
ウイルスは人から人へと渡っていきます。そのため、イベント、施設、家庭や職場において感染が拡大し、クラスターと呼ばれる集団が発生します。こうしたクラスターは地域の保健所の職員が、患者さんやご家族、関係者の協力をいただき、特定することができます。

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こちらの図は、和歌山県で特定されたクラスターの図です。このようにどのような関係性のなかで感染が広がっているかということをもとに、必要な方々へ検査や自宅待機などの介入を行います。こうしたことには、保健所の負担も多いですが、できる限り丁寧に行われています。

感染した方には、発症してから診断されるまでに、どういうところに行ったかをお聞きして、感染させた可能性のある場面や対象者をおたずねします。コンサートや、声をだすようなイベント、共用物の多いスポーツジムなどに参加されていた場合には感染リスクが高いです。そのため、より丁寧に聞き取りを行い、一緒に参加した人に呼びかけるなどして感染した恐れのある人を探すこともあります。
これが大規模であったり地域をまたいだりしていると、調査は困難を極めます。そのため、大規模イベントや地域を超えたイベントは自粛するように要請されています。
米国では、3月15日には50人以上の会合をしないようにとしましたが、16日には流行が拡大し10人以上の会合はしないようにとホワイトハウスから国民に求められています。
日本では、具体的な数字が示されていませんが、50人程度を目安としてそれ以上の会合はできるだけ減らしていただく必要があると考えています。また、流行の拡大とともに、次第に集まれる人数はよりすくなくなるでしょう。
さらに、感染した方には発症する前の2週間にどのような場所に行ったのかもお聞きします。つまり、どこで感染したかもできる限り特定します。最近では、夜の会合が感染の機会になったという報告が増加しています。そのため、できるだけ夜は出歩かないようにという呼びかけもされています。
個人情報は保護されますが、接触した方への連絡は個別に必要となるため、その範囲では個人的に迷惑をかけてしまうという可能性があります。そのため、こうした聞き取り調査に協力をいただけないことがあります。しかしながら、ご協力がいただけないと、感染者の関係がわからないということになります。このような方を感染経路不明者と呼びます。地域で感染経路不明者が増えているとなると、地域での流行が拡大しているということが疑われるようになり、より厳しい対応が必要になります。そのため、ぜひ調査にはご協力をお願いします。

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地域での感染が拡大して、感染経路不明者が増えてきた段階で、地域での継続的な感染が確認されている(地域感染期)となります。こうした状態になった場合には、社会的介入を早期に行う必要があります。その介入が遅れると地域での流行の拡大がさらに広がる可能性があります。

現在の、東京都はまさにこの地域感染期にはいろうとしています。

新型インフルエンザ等特別措置法に基づいて、緊急事態宣言がなされるのはこうした地域での継続的な感染が確認された時です。措置としては、不要不急の外出の自粛の要請や建物の使用制限などの対応が行われる可能性があります。

例えば、今日明らかになった感染者数は、潜伏期間と診断されるまでの期間を合わせた10日から2週間ほど前に広がった感染をみているのです。そのため、地域での患者の増加がわかった場合には、必要な措置は、明日からといったようにすぐの対応を求められる可能性があります。また、院内や施設での集団の感染が増加傾向にありますが、そうしたことがあると数が急に増えます。「どこで」ということにも注目して地域での流行状況の判断が必要です。

患者の数の増加に伴い、学校も閉鎖になる可能性があるので、地域で複数例あるが概ね感染者のつながりが確認されている段階から、職場や生活での備えが必要となります。また、地域での患者の増加は急に明らかになることもあるため、学校が急に閉鎖になるかもしれません。

この感染症は人と人との距離が保たれることにより感染拡大が収まることがすでにわかっています。そのため、まずは外出の自粛を呼びかけています。

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そうしたこともあり、世界中で、できるだけ家にいるようにというキャンペーンを行っています。私も仲間とこのようなポスターをつくって呼びかけているところです。家族や自分を守るため、そして医療への負担を減らすためにも大事です。

新型コロナウイルスの確認から約3ヶ月が過ぎました。様々な不安もあるかと思います。世界中に広がった以上は、年単位での対策が必要です。また大都市だけでなく、あらゆる場所で感染拡大は起こりえます。
引き続き、地域で、そして世界とも連帯してこの困難を乗り越えていく必要があります。

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