「少年野球をアップデートし続ける」(視点・論点)
2019年10月30日 (水)
NPO法人BBフューチャー 理事長 阪長 友仁
いま、子どもたちやスポーツを取り巻く環境が大きく変化しています。私が関わっている少年野球も、野球人口の減少や、投球過多によって手術を必要とするような若年層の怪我の発生など、様々な問題を抱えています。
私はスリランカやタイなど、海外の野球ナショナルチームの指導、ドミニカ共和国の野球の指導・育成法を学ぶなどする中で、日本にも取り入れるべき点が多くあると感じるようになりました。
そこで今日は、日本の少年野球・アマチュアスポーツの指導法としくみをどう更新、アップデートしていくべきか、お話ししたいと思います。
私は高校野球で甲子園に出場し、大学では主将を務めました。大学卒業後、一般企業に2年勤めた後に、ボランティアで海外へ渡りました。
最初は2006年にスリランカへ、野球ナショナルチームのコーチとして指導に携わりました。野球がマイナー競技のスリランカは、大会などもほとんどありません。そんな中で野球をやりたいという選手たちは、技術は高くないものの、とにかく野球が大好きでした。日本の子どもたちより野球が好きだと感じるほどです。技術的に教えることはありましたが、それ以上に、野球を愛する気持ちの大切さに、改めて私は気づかされました。
私自身、好きで野球を始めたはずが、いつの日かプレーすることが苦しくなり、「雨で練習が中止にならないかな…」と思うことが幾度もありました。いつからか義務に感じてしまう。これは日本の多くの野球選手が経験していることではないかと思います。
私はその後、タイ、ガーナ、コロンビア、グアテマラへと渡り、そしてドミニカ共和国の野球を学ぶことになりました。
ドミニカ共和国は、アマチュア世代は世界的に強くはありませんが、人口1000万人の国から毎年100名以上のメジャーリーガーがプレーしています。一般的には身体能力の違い、ハングリー精神の違いと言われますが、実際に現地での指導法や育成システムを見てみると、日本と真逆のことをやっていて、最初は驚きの連続でした。
何度も足を運ぶうちに、なぜこのようにたくさんのメジャーリーガーが生まれるのか、徐々に理解できるようになりました。そしてそれは日本でも実施可能なことで、育成の考え方や大会の運営方式、指導法を変えれば、日本の選手たちの持っている能力ももっと引き出せると思うようになりました。
私は今、堺ビッグボーイズという中学硬式野球チームの監督をしています。堺ビッグボーイズは、かつては全国制覇を2年連続達成したチームです。
その背景には、厳しい指導、長時間の練習があり、全国優勝という短期的な結果は得られましたが、卒業後の選手の伸び悩み等、将来的な活躍は期待していた通りではありませんでした。周りのチームも同様にこうした問題が潜んでいました。そのような状況を鑑み、10年前、当時の監督が指導法を変え、勝利至上主義から育成主義へと変更させました。
なぜそのような状況になってしまうのか。私は日本のアマチュアスポーツの価値観にあると思います。指導者の【選手の将来の活躍よりも、目の前の結果を重要視する】という考えです。
例えば、小・中・高・大学、どこでも言えることですが、一人の投手がたくさん投げて、全国大会で優勝します。すると周囲が指導者も選手も評価します。しかし怪我や伸び悩みによって、次のステージで選手が苦しむケースが多いのです。
逆に小・中・高の時には目立たず、あまり投げていなかった投手が、長年プロ野球の世界で活躍するというケースも多くあります。
「勝ってはいけない」、「勝たなくてよい」ということではなく、【勝つために子どもたちの未来をつぶしてはいけない】ということを指導者は意識しなくてはいけないと思います。
ではなぜ【目の前の結果を重視する】という考えに陥ってしまうのでしょうか。一つの要因は、トーナメント制にあると思います。
海外の野球は、ほとんどがリーグ戦です。野球は本来、リーグ戦で行うべき競技です。
これは、ここ10年のプロ野球公式戦の優勝チームの勝率です。
黄色の部分が、勝率5割7分1厘以下、つまり4勝3敗以下のペースでも優勝しているケースです。いかに多くあることがお分かりいただけると思います。
そのような、勝ったり負けたりしながら優勝を競う競技にも関わらず、トーナメント方式では、負ければ後がないために、1人の選手に負担がかかったり、思い切ったプレーができなくなったりしてしまいます。内容より結果が重視されるため、青少年のスポーツを指導する上で、一番大切なポイントが置き去りになっているのです。
アマチュア世代では特に、トーナメントによる結果より、リーグ戦で勝ち負け両方のたくさんの経験を積むことが重要だと考えます。
ドミニカ共和国で学んだことの中に、【指導者から選手への敬意(リスペクト)】という概念があります。
日本では選手は指導者の指示に従う、上下関係、主従関係が基本になっていますが、ドミニカ共和国ではこの概念を良しとしていません。指導者と選手は、立場は違うけれども対等でなければならないと考えられています。
日本では、選手が指導者をリスペクトするという概念はありますが、指導者が選手をリスペクトするという概念はあまりありません。しかしドミニカ共和国では、まず指導者が選手をリスペクトする必要があると考えられています。
本来選手達は常に良いプレーをしたい、チームの勝利に貢献したいという思いでプレーしています。しかしスポーツは相手もあり、人間である以上ミスもあって、必ずしも良い結果になるとは限りません。そこで結果だけにこだわってしまうと「何でこうできないんだ!」と、叱ってしまうことになります。
本来は、次に上手くプレーできるようにサポートするのが指導者の役目だと思います。
全てうまくプレーできる選手に、指導者は必要ありません。うまくできない選手がいるからこそ、指導者が必要になります。常にチームに貢献したいと思う彼らの行動をリスペクトし、前向きな言葉をかけ続けることで、自然と選手から指導者へリスペクトが返ってきて、初めて信頼関係がうまれます。
日本では、選手は指導者をリスペクトしていると思いがちですが、もし指導者から選手へのリスペクトがなければ、選手はただ怒られないようにという恐怖で動いているか、ロボットのように指示に従っているだけという危険性をはらんでいます。
指導者として大切なことが2点あります。忍耐力と観察力です。感情的に怒りたくなるところをグッとこらえる忍耐力。いいプレーや変化を見逃さず、結果が出なかったとしても、彼らのチャレンジを認めて「今のプレーは良かったよ!継続していればきっと良い結果につながるよ!」と伝えられる観察力が必要です。
野球は失敗の多い競技です。例えば、打者は10回中3回打てれば好打者です。逆に言えば半分以上は打てないわけです。だからこそ、指導者は常に前向きな言葉かけ、選手に接するべきでしょう。そして思い切ってプレーし、失敗しやすい環境を作ってあげることが大切です。
私は現在も、ドミニカ共和国の野球指導法の調査・研究を続けています。これからも海外の指導方法を見て、良い点はさらに日本に取り入れて、現場で活かしたいと思っています。