「『ひきこもり』を深く理解するために」(視点・論点)
2019年10月22日 (火)
KHJ全国ひきこもり家族会連合会 共同代表 伊藤 正俊
KHJ全国ひきこもり家族会連の共同代表しております、伊藤正俊と申します。
ひきこもりを抱えた家族及び本人、兄弟姉妹を含めて当事者の会として、1999年から全国活動をしております全国で唯一の会です。
当会は発足当時から、この問題は社会問題であると言い続けてきました。しかしながら当初は、相談した人が責められることが多くあり、相談することにちゅうちょすることが多く、社会に理解していただくのに苦労し続けてまいりました。
それでも最近では大分「ひきこもり」と言う状態像に理解を示してくれる方が多くなってきましたが、まだまだ偏見や中傷が多くあることは否定できません。
本日は、当事者からみたひきこもりの現状とアンケート調査から見えてきたことについてお話いたします。
平成27年度に内閣府が行った調査によりますと、15歳から39歳までのひきこもり状態の人は54.1万人という結果でした。40歳以降の調査を行なって頂きたい旨の申し入れをし、平成31年度に実施された調査では40歳から64歳までの人が61.3万人との報告がありました。つまり全体で115.4万人の方々がひきこもり状態であるとの結果であり、中高年の方々の割合が若い世代より多い事になり、多世代にわたりひきこもっている方々がいる事が明らかにになりました。
当会では以前から「ひきこもりは長期化傾向」にあり、親子共々高齢化が進み親子共倒れの危険性が増す問題であるという事を発信してきたことが内閣府の調査で裏付けられた結果となりました。
家族会に参加している方々に対して行ってきたアンケート調査によりますと、2002年の調査開始時では、平均年齢が26.6歳でしたが2018年、35.2歳となり、ここ16年で8.6年、年齢を重ねていることが分かります。
つまり、解決の糸口が見付られず時間が経過していることが見て取られ支援に有効な手立てがない事に気が付きます。
一部の方々が自分の経験値で関わっている事もありますが、誰でも支援が出来るような事にはなっておらず、行政に相談してもわからず、相談者が担当と思われる部署をたらいまわしにされることも多々あり、相談途絶に陥った原因となっています。
医療と言えば精神科や心療内科になりますが、家族が相談に行っても、本人を連れてくるように言われ、ひきこもりの本質を理解できない医療関係者が多くいる事も長期化の一因になっていたと思います。
問題の解決が長期化する事は当然ご家族も一緒に時間を過ごすことになり、ご家族の高齢化も問題になるのですが、そこに新たな問題も発生します。
それは、長期化により家族の心労が続くことで抑うつや不安症、睡眠障がいと言ったご家族の健康にも影響が出てくることも分かってきました。
また、ご家族の高齢化も進んでいます。2006年では60.1歳でしたが、2018年では65.9歳になり、退職年齢から再雇用年齢を越してしまっている現状が分かり、ほとんど年金生活でひきこもっている子どもと生活をしている状況になり、経済的に困窮しているご家族がたくさんいます。
現実には40歳代の子どもと70歳代で働いて何とか生計を保っている方々の存在があり、それ以上の年齢になると、体力や気力が減退し親子共倒れが現実味を帯びてくることが報告されています。
当会で厚生労働省から事業委託され、生活困窮者相談窓口に行ったアンケート調査で分かった事は、40歳以上の方々の調査では60%以上に就労挫折体験や就活失敗体験等があり、つまり職場でのパワハラや就職氷河期の就職活動の問題があったとの報告がありその方々が自分の意にそぐわない形でのひきこもり状態に陥っている事が判明しました。
一度そのような状況に陥ると自分の努力だけでは回復できずにひきこもり状態が継続し「80・50」問題に移行してしまう可能性が高いことが分かってまいりました。
それから今までの支援策が若者の問題としかとらえてなく、支援と言えば「就労」と言った選択肢のない偏った支援策にあった事も長期化になってしまった背景があると思います。
当会では以前から「心の傷」の手当てをしなければ回復にはならないと発信してきました。それが現実に分かってきたところに、今回の調査の意味があります。
それから一度勇気を出して家族が相談に行ったけれども「育て方が問題だったのではないですか?」や「甘やかして育てたからそうなったのではないか?」等といった言葉に相談者が傷ついて、また相談に行きづらくなり時間だけが経過してしまった事例が寄せられ、ひきこもりの理解を社会に啓発していかなくてはならないと思い活動をしております。
それから、先ほどの調査研究事業で分かった事は、当事者や家族が求めているのは「訪問支援」「家族会」「居場所」となっておりました。
「訪問支援」は当事者が一番いやな支援として挙げておりますが、実は求めている支援にもなっており当事者の葛藤を物語っているのではないかと思います。ここに難しい対応があり「訪問支援」はこれと言った特別な事はなく地道に家族と共に本人を支えていき、本人が安心して生活をしていく延長線上に回復という事があるのだという事でこの問題をとらえていく事が寛容な考え方になります。
そのような意味で、「家族会」が必要で、家族会で様々な事を学び、多くの家族の方々に支えてもらうことが大事な役割と考えております。
次に大事な支援に「居場所」があります。かたくなに自分一人の問題と捉えている方々が多く、同じ思いをしている人が目の前に現れた時に初めて現実と向き合うことになり、全身から力が抜けていく様を多く見ており、「居場所」が重要な支援になっていると認識しております。
「居場所」は本人が安全な場所と感じ、安心な感情を育む環境を提供し、自分の自尊感情が醸成され、自分は自分で良いのだという自己肯定感を作っていく時空と捉えています。
「居場所」では就労や学習などの条件はなく、あくまでも自分の時間を感じるだけで良く、そこに同じ体験経験をした仲間がいて誰も責めず、否定もされず、排除がない場所であることです。
そこの「居場所」にいるスタッフは何も言わずそっとたたずむが、必要とした時には、必要な部分にさりげなく手を差し伸べることが出来る人間環境がある事も本人にとっては必要な支援になり、このような支援を「伴走型支援」と位置付けていきたいと思います。
終わりになりますが、ひきこもり問題は現代社会の縮図のような問題であり様々な支援機関をフル稼働し、ひきこもっている方の「生きる権利」を尊重し、誰もが自分らしく生きることが出来る社会を作っていく事が私たち家族会の目的でありそのような共生社会を目指す活動を広く社会に啓発し続けていきたいと考えております。
つまりひきこもり支援は第一に「生き方支援」から始まり、その後は緩やかな就労支援があれば、自分で選択しながら社会参加を考えていくものと思います。