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「途上国のプラスチック汚染の現状と課題 ~カンボジアからの報告~」(視点・論点)

国連開発計画 環境スペシャリスト 齋藤 紋衣子

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今日は、プラスチックごみによる深刻な環境汚染について、途上国の視点からお話ししたいと思います。

先月のG20大阪サミットで、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が合意されました。これは、「2050年までに 海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロとすること」を目指しています。
海洋プラスチックごみの多くは、アジア地域から発生しています。しかしなぜアジアからの流出が多いのでしょうか。そこで、カンボジアの事例をもとに、途上国の現状と課題についてお伝えしたいと思います。
世界的な問題になっているプラスチックごみによる海洋汚染。年間少なくとも800万トンものプラスチックごみが海に流れこんでいます 。2050年には、海では魚よりもプラスチックの量の方が多くなるという、研究報告もあります 。
海洋では、多くの哺乳類、魚類、鳥類がプラスチックを誤って摂取したり、あるいはプラスチック製品に絡まったりといった事例が続発しています。また、プラスチックに含まれる有害な化学物質は、食物連鎖を経て、私たちの身体にも入ってきているという研究報告もあります。私たちの健康をも脅かし始めているのです。

では、海洋プラスチックごみはどこが発生源なのでしょうか。
学術雑誌「サイエンス」の推計 によると、海洋プラスチックごみの7割ほどが中国や東南アジアの国々が発生源です。

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また海洋プラスチックごみのおよそ9割は、世界の10本の主要な河川から流れ出たものです。その内の8本がアジアの河川なのです。その一つが、中国や、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムなど東南アジアを流れるメコン川です 。

では、実際、どのような経路で、河川からプラスチックごみが海に流れ出ているのでしょうか。
そこでまずカンボジアのごみ、中でもプラスチックごみが、どんな状況なのか、お伝えしたいと思います。

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東南アジアに位置する、開発途上国、カンボジア。世界遺産のアンコール・ワットや美しい南国のビーチで有名な観光名所でもあります。
近年、カンボジアは、GDP成長率7%を維持するなど、急激な経済成長を遂げています。首都プノンペンなどでは、次々とビルやマンションが建設され、活気にあふれています。
ご覧のように都市の中心部は、ごみ収集や清掃が行き届き、整然としています。
しかし急激な経済成長と人口増加で、プラスチックを含めたごみの量は近年急激に増加、大きな社会問題になっています。
カンボジアで、プラスチックが使用され始めたのはおよそ25年前。今では、日常生活に欠かせないものになっています。首都のプノンペンでは毎日、ビニール袋がおよそ1,000万枚消費されていると言います。市街地のごみの量も急激に増加。2004年に比べ、2017年には、5倍以上の年間150万トン以上に達しています。

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プノンペンの市街地では、毎日2500トン以上のごみが排出され、その内の8割がごみ収集業者によって運搬され、処理されないままごみ埋立地に処分されています。プノンペンなどの主要都市のごみ埋立地は、ごみが山積みになっていて、数年中に、埋立地の許容量を超えると懸念されています。
プノンペンのごみ埋立地のごみの内訳を見ますと、半分以上が有機物、2割ほどがプラスチック、つまり、7割以上が再利用できる可能性があります。
日本などの先進国では、プラスチックごみはリサイクルされるか、熱回収されエネルギーとして再利用されています。しかし、途上国のカンボジアには、まだ大規模なごみ焼却場やリサイクルができる施設の整備が進んでいません。

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これはプノンペンの、ごみ収集サービスが行き届かない貧困地区を流れる水路です。プラスチックなどの多くのごみが水路や道路に捨てられています。こうしたごみが、最終的には、メコン川を通って、海洋に流出しているのです。

農村でも、ごみ収集サービスの行き届かない地域が数多くあり、プラスチックごみの多くはそのまま捨てられるか、野外で焼却されています。焼却は、ダイオキシンなどの有害物質が発生するため、健康被害をもたらすリスクがあります。更に、海岸沿いの地域では、投棄されたり、漂着したりしたプラスチックごみが山積みになっています。

では、途上国、先進国には、何ができるのでしょうか?
今、世界の100以上の国と都市が、「使い捨てプラスチック」に対して、何らかの政策を取り始めています。カンボジアでも、昨年4月、プラスチックレジ袋を有料化しました。プノンペンに進出しているイオンカンボジアによると、この規制により、プラスチックレジ袋利用が5割以上減少したといいます。
さらに、カンボジア政府は、本年度より、スウェーデン政府を始め、私たち国連開発計画の資金、技術協力のもと、循環型経済システムの構築を目指すプロジェクトを立ち上げました。

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このプロジェクトは、プラスチック汚染問題の有望な解決策として、4つのR、使用拒否、使用量削減、再使用、再生利用の実現を目指しています。その目的は、使い捨て・大量生産・大量消費の経済システムから環境に優しい循環型経済システムへの転換です。
さらに、今年4月に特別対策委員会を設け、今年中に4つの大きな目標を掲げ、動き出しました。

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一つ目は、使い捨てプラスチックの使用削減を積極的に推進する政策の導入。
二つ目は、長期的な取り組みが必要なため、住民、特に次代を担う若い世代の意識の改革です。国連開発計画では、カンボジア政府と共同で、環境教育や広報活動を通じて、プラスチック汚染の深刻さを理解してもらうとともに、「買い物袋の持参」や「使い捨てプラスチックの使用削減」といった、個人ができる取組みに対する啓蒙活動も行っています。
三つ目は、循環型経済システムへの移行です。運用には、住民を含む全ての関係者の協力と連携が必要です。現在、国連開発計画では、カンボジア政府、世界銀行、NGO、民間企業などと提携し、プラスチックの使用削減、リサイクル、ビジネスネットワークの構築など
幅広い啓蒙活動を行っています。
四つ目は、リサイクルなどの産業の育成・発展です。しかし、カンボジアでは、それを支える技術力、設備、人材が整っていません。

カンボジアの例に見られますように、途上国でのプラスチックごみ対策は、決して容易なことではありません。カンボジアでは、現在、日本政府の援助の下、日系企業によるリサイクルビジネスが参入し始めています。自治体でも、北九州市が、プノンペンとの都市提携を結び、ごみ処理の技術支援を進めています。
 プラスチックごみ問題は今や地球規模の問題です。抜本的な解決のためには、途上国と先進国が一体となって取り組むことが必要です。
公害など数々の環境問題を乗り越えた日本には、カンボジアなどの途上国に対して、技術や資金、人材育成の支援をするだけではなく、先進国にしかできない最先端技術の開発にさらに力を注ぐとともに、より一層のリーダーシップが求められていると思います。 

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