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「日韓は輸出管理協力を再起動できるか」(視点・論点)

安全保障問題専門家 古川 勝久

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経済産業省が7月1日に発表した、韓国に対する「輸出管理の運用の見直し」に、韓国が大きく反発しています。
もとより、日本と韓国の間では、2000年代以降、継続的に輸出管理面での協力が行われていました。
日本政府が韓国を、輸出管理で信頼できる「ホワイト国」として認めたのは2004年。
それから15年後、日韓両国の輸出管理面での協力関係は事実上、途絶しています。
日韓協力の再起動の必要性について考えるためにも、今回の日本の措置について説明し、実際に考えられうる影響について整理します。

まず、ここでは輸出管理を次の通り定義します。

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「自国の国益、および国際社会の平和と安全を守るために、自国から輸出される武器および軍事転用可能な民生目的の物品や技術が、非友好国、または大量破壊兵器を志向する国々、あるいはテロ組織や犯罪組織などの「非国家主体」にわたらないよう、輸出規制をおこなうこと」
日本の輸出管理は、外国為替及び外国貿易法に基づいて行われており、次の2つの規制から成ります。

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一つ目は「リスト規制」です。軍事転用可能な物品や技術の中でも、特定の品目やスペックを輸出する場合には、原則輸出許可の取得が必要とされます。これらの物品や技術は、政令や省令等で定められています。もともと、韓国も参加する国際的な輸出管理レジームで規制対象と定められた物品や技術が大半です。
二つ目は、「キャッチオール規制」です。リスト規制で定められていない物品や技術であっても、兵器目的で転用されることがしばしばあります。
通常、輸出許可が不要な物品でも、海外の取引相手や貨物の用途次第では、兵器転用の懸念を払拭できない場合があります。この場合、輸出許可の取得が必要になります。
「輸出許可」を与えるのは、経済産業省です。また、経産省に輸出許可を申請するのは日本企業であって、海外企業ではありません。

「輸出許可」には「個別許可」と「包括許可」の二種類があります。

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原則は個別許可です。日本企業は、海外の顧客との輸出契約ごとに、経産省から輸出許可を取得します。
これに対して、契約にかかわらず3年間という一定期間、ずっと利用可能な許可を「包括許可」といいます。
輸出許可は契約単位で下ります。誤解されがちですが、輸出許可は、あくまでも輸出契約ごとに取得するものであって、出荷ごとに必要なものではありません。
通常、一度、許可を得れば、契約に基づく貨物であれば、原則としてその有効期間中に何回でも輸出が認められます。例えば、韓国企業との年間契約に対して輸出許可が下りれば、日本企業は契約に基づく貨物を毎月、輸出することが可能となります。

以上を踏まえたうえで、今回の日本の措置について要点を説明します。
ひとつが経産省が発表した、「リスト規制」に関する措置です。

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「リスト規制」対象の物品のうち、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目の化学製品について、これまで韓国向け輸出に対して「包括許可」を認めていたのを「個別許可」へと切り替えました。
もとより、これら3品目については、ホワイト国向けも含めて、輸出の際には経産省の輸出許可が必要とされています。ホワイト国を含む特定の信頼できる国々に輸出される場合のみ、3年間有効の包括許可が認められています。この度、韓国向けについては、3品目についてのみ、包括許可は認められなくなりました。
ただし、そもそも輸出の際、事前に輸出許可が必要な状況は以前と変わりません。個別許可が必要になるので、許可申請件数は増えるでしょう。
それでも、全体としてみれば、韓国は依然として台湾やアセアンよりも優遇された状態にあります。

もうひとつが、いま日本政府が検討しているのが、韓国の「ホワイト国」からの削除です。8月にも決定する見通しです。これは、先に説明した「キャッチオール規制」にかかわる措置です。

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「ホワイト国」とは、大量破壊兵器拡散の懸念がなく、キャッチオール規制で懸念されるような取引が行われていない国をさします。
もし仮にそのような取引が見つかっても、「ホワイト国」の政府当局が適切に対応してくれることが期待できる国、です。いわば「輸出管理の有志連合国」といえます。
そうした国とみなされるためには、その国が国際的な輸出管理レジームに参加し、厳格に輸出管理を実施し、実効性あるかたちでキャッチオール規制を履行していることが求められます。
世耕・経済産業大臣は、7月3日付けのツイートで、韓国にはキャッチオール規制の実効性の面で問題があり、「不適切事案も複数発生していた」と指摘しています。
韓国がホワイト国から外れると、日本の輸出企業は韓国側との個別の契約ごとに、「キャッチオール規制に関する輸出許可が必要となるか」、自ら確認しなければなりません。ただし、キャッチオール規制で許可が必要となる輸出は実際には極めてまれで、許可申請件数はほとんど増えないと思われます。
なお、日本にとって韓国以外の「ホワイト国」は現時点(7月23日)で26カ国あります。貿易相手国の大半は「非ホワイト国」です。もし韓国がホワイト国から除外されても、対韓輸出にかかる手続きがノーチェックではなくなる、というだけです。それでもアセアン諸国や台湾向けの輸出に比べれば事務手続き面での負担は軽いといえます。

ホワイト国や包括許可対象国の選定に関する国際的な決まりはありません。各国が自国の裁量に基づき国内法の下、輸出管理を運用しています。今回の措置が国際法違反ではないことは明白と思われますが、韓国政府は、今回の日本の措置を不当だと、WTO=世界貿易機関で訴えています。
新しい輸出管理措置の運用が始まると、経産省と日本企業の業務量が増えるので、当初、事務が滞る可能性はありますが、だから韓国経済に大打撃を与えるというのは、問題を誇張しすぎとの感が否めません。事実、より厳しい扱いを受けている台湾やアセアン諸国では、そのような被害など起きたことはありません。今回の日本の措置が韓国側に正確に理解されていない可能性が懸念されます。
もちろん、輸出管理面での懸念を払拭できない韓国企業との取引に対しては、日本の経産省は輸出許可を与えられません。輸出管理体制がおろそかな韓国企業との取引は難しくなるでしょう。そのような企業のかわりに、日本企業は他の企業とのまっとうな取引を進めるべきです。

輸出管理では「自国から輸出される物品や技術が、意図せずに他国で兵器転用される懸念を払拭できるか」の一点が重要です。
日本政府によると、先の3品目が韓国企業へ輸出された際、「懸念される事案」が複数発生していたのに、韓国政府も韓国企業も日本の協力要請に応じなかったとのことです。韓国政府も、これを否定していません。
軍事転用可能な物品や技術を輸出する際には、事前にしっかりと最終需要者と用途を確認することが不可欠です。
貨物が韓国に輸出された後、韓国政府が協力してくれないのであれば、日本から貨物が輸出される前の時点で、取引相手の韓国企業や物品の最終用途等についてしっかり確認するしかありません。従来のように韓国を「ホワイト国」扱いして、輸出の際に何もチェックしないままの状態を続けるわけにはゆかないことになります。

本来、輸出管理を巡り、日韓両国が協力しあうべき課題は山のようにあります。科学技術の急速な進歩とともに、様々な汎用の製品や技術が軍事転用可能となっています。
日本の措置に対して韓国側に正確に理解してもらい、然るべき是正措置を講じてもらったうえで、日韓両国は輸出管理協力を再起動させるべく、あらゆる努力を続けるしか他ありません。

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