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「ニホンウナギの規制と資源管理」(視点・論点)

早稲田大学 客員准教授 真田 康弘

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今年も間もなく土用の丑の日がやってきます。暑い夏にはウナギ。大伴家持が「石麻呂にわれ物申す夏痩せに良しという物ぞ鰻(むなぎ)取り食(め)せ」と万葉集で歌ったように、ウナギが暑い夏に適した食であることが奈良時代から知られています。江戸時代中・後期頃から土用の丑の日にウナギを食べる習慣が生まれ、ウナギは現在我が国の食文化として根付いています。
しかし、このウナギ資源は現在危うい状態にあります。

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農林水産省の統計によりますと 、1961年には3千4百トン近くあった内水面での天然ウナギの漁獲量は、2015年にはその僅か2%の70トンにまで激減、2013年に環境省はニホンウナギを絶滅危惧種に指定、翌年には国際NGOの世界自然保護連合・IUCNも絶滅危惧種指定しました。

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完全養殖が実用化されていない現在、ウナギの養殖には天然の稚魚を用いますが、稚魚の漁獲量は1960年代には200トンを超えていたものが、今年の漁期は3.7トンと過去最低を記録しました。

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ウナギ稚魚の価格は高騰し、2003年にキロ当たり16万円だった価格は、今年はその13倍以上の219万円に達しました。当然これはウナギの小売価格の値上がりに直結します。
国内の採捕量ではウナギ養殖業者の需要を満たせないことから、多くのウナギの稚魚を輸入しています。問題なのは、その輸入先です。

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財務省貿易統計によりますと、今漁期の池入れに用いられる去年の11月から今年の3月までに輸入されたウナギ稚魚約1万1千7百キロのうち、99%の1万1千5百キロは香港から輸入されています。しかし、香港にウナギの稚魚が遡上する川はありません。香港からのウナギ稚魚輸入が急増するのは2007年になってからですが、この年はそれまでウナギ稚魚の主たる輸入先であった台湾が輸出を原則として禁止した年に当たります。

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以来台湾のウナギ稚魚は一旦香港に密輸され、香港から日本に再び輸出されるという「ウナギロンダリング」が行われています 。今年池入れされた稚魚の輸入は過去最高の76%にのぼっており、輸入の99%は香港からのものであることから、池入れされた稚魚の4分の3は違法な「ウナギロンダリング」を経た台湾産である可能性が高いことになります。

問題をさらに悪化させているのが、密漁の横行です。水産庁によりますと、2018年漁期の水産庁が算出した採捕量が8.9トンであるのに対し、各都府県から報告された採捕量は5.3トンに過ぎず、約4割に当たる残りの3.6トンの出自が不明であり、これらは違法に捕獲されたか、報告されていないものと考えられます。

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2018年にワシントン条約事務局が公表した報告書によると 、2017年漁期に池入れされたウナギ稚魚の57%は違法や無報告の漁獲、あるいは違法取引にある可能性が高いと指摘されています。同様の統計を用いた場合、今年池入れされた稚魚の実に85.5%が密輸・密漁・未報告由来の可能性が高いという状態にあります 。以上を鑑みた場合、現行の国内的・国際的規制・対策は失敗していると言わざるを得ません。

ではどのようにすべきか。国際的規制、国内的規制、資源増加のための取り組み、経済的なインセンティブ、そして流通・消費者からのアプローチ、この5つが考えられます。

まず国際的規制です。ニホンウナギについては現在、日本、中国、韓国、台湾で関係国協議を開催しており、2014年には法的拘束力ある枠組み設立についての検討が合意されていますが、中国は2015年以降非公式協議を欠席しており、地域的な法的拘束力ある枠組みの議論は全く進んでいません。
この状態を打破するため、日本自らが率先して動植物の輸出入を規制するワシントン条約において附属書掲載を提案すべきであると考えます。すでにヨーロッパウナギは附属書Ⅱに掲載されていますが、商業的輸出入が禁止される附属書Ⅰ掲載種とは異なり、輸出がその種の存続を脅かすことがない場合には、輸出側は輸出許可書を発給することができます。附属書Ⅱの掲載は、商取引の禁止ではなく、資源の持続可能な利用を目的にするものとも言えます。もしニホンウナギが附属書Ⅱに掲載されれば、香港からの輸出に対して許可書の発給は困難となり、「ウナギロンダリング」の阻止に貢献します。日本がこうした毅然とした態度を取れば、国際的規制に消極的な中国などにも範を示すことになり、こうした国々に対する圧力ともなるでしょう。

第二は国内的規制です。現在ウナギの採捕は都道府県が制定する漁業調整規則等により規制されていますが、漁業法に定める当該規則の罰則上限は六月以下の懲役若しくは十万円以下の罰金に過ぎず、暴力団員が直接関与した極めて悪質な事例でも、執行猶予付きの判決で済んでいます。ウナギの稚魚を違法に採捕した場合、その利益は場合によっては数十万円から百万円単位となることから、現行の罰則は違法操業を抑止するものとして弱すぎると言わざるを得ません。昨年改正された漁業法では罰則の引き上げが行われ、農林水産省令で特に指定された水産物を密漁した場合、三年以下の懲役または三千万円以下の罰金に処すことができるようになりました。ウナギもこの厳しい罰則が適用されるようにすべきです。或いは、漁業法をさらに改正し、漁業調整規則等の罰則上限を大幅に引き上げるべきと考えます。

第三は資源増加のための取り組みです。環境省が委託した調査によりますと、ニホンウナギの遡上を阻害する堰やダムなどの河川横断工作物がウナギの個体数密度に相関があることが示されています。したがってまず手始めに必要不可欠でない河川横断工作物の撤去、あるいは魚道の整備、あるいはウナギを下流からくみ上げ、ダムや堰の上流に再放流するなどの対策を行うべきと考えます。その一方、科学的にその効果がほぼ全く証明されていない養殖ウナギの放流、あるいは「石倉かご」と呼ばれる人工物の設置は再考を要します。効果が全く不明なこうした事業に対して、高い説明責任が問われるはずの税金を投入すべきではありません。

第四に経済的インセンティブです。一部の地域では、ウナギ稚魚の採捕者が十分関与できないかたちで、できるだけ安く買いたい養鰻業者主導で買取価格が設定されています。安く買い叩かれたと考える採捕者は、高く買ってくれる闇業者に横流しします。ここで闇流通を発生させているのは、市場価格を歪めている、不必要な介入です。採捕者と買い手側の相互行為に基づく自由な市場価格形成を阻害すべきではありません。

最後に流通・消費者の役割です。例えば日本最大手のスーパーは静岡県と浜名湖養魚漁業協同組合などとの協力を得て、完全にトレーサビリティを確保したウナギを今年発売しました。我々消費者も、トレーサビリティが確保されたウナギを買うといった購買行動により影響力を与えることができるでしょう。
シラスウナギ稚魚の歴史的不漁が去年も今年もニュースで報じられている現在、事態は緊急を要します。我々の父祖から連綿と受け継がれてきた、伝統ある我が国のウナギ食文化と美しい自然を後の世代に残してゆくために、持続可能なウナギ利用のための対策が、今まさに必要とされているのです。

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