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「令和の時代 イノベーション促進とグローバリズム定着の戦略を」(視点・論点)

東洋大学 総長 福川 伸次

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1.平成から令和へ

 我々は1989年将来への飛躍を予感しながら「平成の時代」を迎えました。当時は欧米諸国との貿易摩擦を越えてやがては米国の経済規模に達するかもしれないとの期待を抱くほどの成長ぶりでした。ところが、その後日本社会では政治、行政、企業に奢りの気持ちが広がり、改革への意欲が弱まっていきます。1990年にはいわゆる「バブル経済」が破綻し、日本経済は「失われた20年」と言われた停滞に陥ったのです。

 1989年10月には東西冷戦を象徴した「ベルリンの壁」が崩壊し、世界は「グローバル時代」の到来に沸きました。しかし、これは国際経済の多極化を招き、米国、EU、日本などの先進国経済が停滞し、アジア諸国などが目覚ましい経済発展を遂げることになります。
米国では、2017年にトランプ大統領が出現して「米国第一主義」を展開します。英国が「Brexit」でEUからの離脱を決め、EU自体も移民問題などで内向きの傾向を強めます。一方、1978年に「改革と開放」政策に転じた中国は、米国と経済、技術、通貨、軍事などで覇権を争うまでに発展しています。ロシアも軍事力を強めています。その結果、主要国間の信頼と協調が揺らぎ、国際連合などの国際機関はその機能を低下させ、世界にはガバナンス・リスクが高まっています。
「令和の時代」を迎え、日本がどのような社会を目指し、国際社会にどのような役割を果たすかが問われているのです。

2.日本経済はなぜ停滞に陥ったか

 日本経済は1968年以来世界第2の経済規模を保ち、一時1994年には世界経済の17.8%の比率を占めました。その後経済が停滞し、2010年にはそれが6.4%に下がり、中国に第2の地位を譲り渡しました。2017年にはそれが6.0%に下がっています。
 こうした経済力低下の背景には、第1に、社会的要因があります。先ず少子化と高齢化という人口動態構造の変化です。日本の人口は2012年に1億2,826万人を記録しましたが、2060年には1億人を下回り、65才以上の高齢者が約40%に達すると見込まれます。これにより需要、供給の両面から市場が縮小します。同時に日本社会には二番手発想から新規分野への挑戦を避け、海外展開をためらう内向き志向が広がっていました。
 第2に、企業経営の消極性があげられます。かつては「20世紀の奇跡」と言われる程拡大した日本企業でしたが、バブル経済崩壊後は企業の維持に汲々として、イノベーションへの挑戦に消極的になったのです。
スイスにある経営開発研究所(IMD)の国際競争力比較では、1991~93年には日本はトップにランクされていましたが、2019年には30位となっています。生産性の比較を見ると、2017年にはOECD36か国中20位で、主要7か国中最下位です。日本が得意としてきたモノづくりの力も低下し、2017年に開催された直近の技能オリンピックでは日本の金メダルの獲得数が9位に下がっています。
 第3の要因は、政策力の低下だと思います。日本は1980年代の欧米諸国との貿易摩擦から内需拡大政策をとりましたが、バブル経済の弊害が高まっても海外からの批判を恐れてその引締め策が遅れ、不況に陥っても政策転換の時期を失していました。
1990年代には行政不信から政治主導の政策展開となったのですが、1993年に自由民主党の一党体制が崩れ、政権交代、連立時代となり、ポピュリズム志向を招いたのです。これが財政構造を悪化させ、先進国で最低となりました。加えて研究開発への政策が軽視されたのです。

3.イノベーション主導で質の高い経済の実現を

 世界では、激しいイノベーション競争が展開されています。その研究領域が情報通信を軸に生化学、高度医療、素材、宇宙、海洋、エネルギー、環境などに広がっています。それは、米国が主導し、中国、ドイツ、イスラエルなどが追っています。
 残念ながら日本は、その流れに立ち遅れています。
日本の最大の問題は、21世紀に入って研究活動が停滞していることです。

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2000年から2015年にかけての推移を見ますと、先ず、研究関連投資では16.3兆円から18.9兆円と10%増加していますが、その間、米国は20%の増加、中国は何と8.2倍となり、その規模はそれぞれ日本の2.7倍及び2.21倍になっています。これを支える研究従事者は、その間、日本が11%増に止まっているのに対し、米国は38%、中国は32%増加しているのです。
 研究開発の成果である特許出願は日本では15年間に49.1万件から45.5万件へと減少しているのに対し、米国は28.1万件から53万件に、中国は2.6万件から何と101万件へと急増しています。自然科学部門の論文発表数では、日本が7.4万件から7.6万件へとほぼ横ばいであるのに対し、米国は50%増、中国は9.4倍でそれぞれ日本の4.6倍、3.7倍の水準です。

日本がイノベーション主導で質の高い経済を実現するには、研究開発の改革が必須です。それには日本が技術開発について自前主義からの脱却、縦割りの打破、失敗の許容、産官学の連携、国際共同研究の拡大、外国研究者の招へい、留学の促進などを総合的かつ戦略的に進める必要があります。同時に、ベンチャー企業、ベンチャー・キャピタルの育成なども不可欠です。更に、高等教育の充実を図るとともに、新分野に挑戦する若手研究者、女性研究者の育成を進めなければなりません。

4.グローバリズム定着への戦略構築を

もう一つ重要な戦略は、グローバリズムの定着と進化です。グローバリズムは、19世紀から20世紀前半に広がっていた拡張主義、重商主義、保護主義、イデオロギーの対立を超えて人類が漸く手に入れた英知の所産なのです。その基礎は、正義、法治、民主、自由、市場、そして人間価値の尊重にあります。
 最近、世界のガバナンス・リスクが高まっています。とりわけ、米国と中国は貿易戦争を通じて激しい覇権争いを展開しています。米国は日本にとって日米安全保障条約を基礎とする同盟国であり、中国は2000年に及ぶ交流を持つ隣国です。これらの国にどのような行動をとるべきか、政治は重要な判断が迫られています。 
 私は、国際社会にグローバリズムを定着させることを基本に置くべきだと考えます。保護的な措置は一時的に国民の支持を得られるかもしれませんが、その継続は所詮経済を破壊することを歴史が教えています。また、高度情報社会を形成するための合理的なルール作りにも積極的に貢献する必要があります。要するに日本としては、集団安全保障体制のもと、自由貿易の維持促進と成長持続への条件整備に重点を置き、グローバリズムの定着と進化に向けて国際世論を形成すべきであります。
イノベーションの促進とグローバリズムの定着、これこそが「令和の時代」に日本がとるべき戦略です。

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