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「認知症の人に適応した社会づくりを」(視点・論点)

NPO法人認知症フレンドシップクラブ 理事 徳田 雄人

こんにちは。NPO法人認知症フレンドシップクラブの徳田です。
みなさん、認知症の人はいま全国に何人いるかご存知ですか?
2019年現在、およそ600万人の方が、認知症とともに暮らしているとされています。これは、日本全国の小学生の数に近い数字です。多くの人にとってそうした実感はないかもしれませんが、みなさんが暮らすそれぞれの地域に、小学生とほぼ同じ人数の認知症の方が暮らす時代に突入しています。今日は、認知症の人が多く暮らす時代に、どのような社会設計が必要なのか、ということについてお話したいと思います。

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このグラフは、年代別に、認知症の人の割合を示したものです。
75歳を超えると、その世代に占める認知症の人の割合は、急激に高くなっていきます。
85歳以上になると、およそ二人に一人は認知症となります。
認知症というと、特殊な病気と考える方もいらっしゃると思いますが、長寿化が進む中で、脳の機能が低下し、生活になんらかの支障がある人が増えるのは、ごく当然のことと言えます。

認知症は、決して、特別なものではなく、長生きをすると、誰しもが経験しうることだということです。私たちが認知症になると、どのようなことが待ち受けているのでしょうか。

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調査によると、認知症の人のおよそ7割が、認知症となってから、外出や交流の機会が減ると言われています。例えば、友人や知人と会う機会が減った方が69.2パーセント。電車やバスなどの利用が減ったと答えた人が、67.8パーセント。その他、買い物や外食に行く機会も減ったと答えています。
同じ調査では、外出や交流の機会の減少の理由も尋ねています。症状そのものを理由としてあげた方もいますが、同時に環境面の理由をあげた方も半数いらっしゃいました。

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例えば、駅構内で迷ったり、目的のバス停を探すのが難しい、あるいは、ATMや券売機などの機械操作が難しいといった理由です。これらは、外国など初めていった場所で、私たちが体験することと似ています。機械はどのように操作するのか、バス停を乗り過ごしてしまったらどうしよう、こうした不安から、外出を控え、家に閉じ困ってしまう人が多くいます。
誰しもが認知症になるとすると、当然、私も長生きすれば、いつか認知症になります。
その時に、どのような社会であって欲しいのか。
認知症になったからといって、外出や交流をせず、自宅や介護施設だけで生活するのは、望む生活ではありません。

こうした中、注目されるのが、認知症フレンドリー社会という考え方です。
認知症になっても、特殊な環境に閉じこめられるのではなく、これまでと同じように、地域や社会とつながり、なんらかの役割をもって生きていける社会を作っていこうという考え方です。日本だけでなく、世界各国で、こうした社会の設計についての議論が活発になっています。

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これは、英国のアルツハイマー病協会が示した認知症フレンドリーについての図です。
ここには、医療や介護のことだけではなく、町全体の様子が描かれています。
左下に描かれているのは、バスです。認知症の人に適した交通や移動手段が示されています。また、右上には、お店が描かれています。企業やサービス業が、認知症を持つ顧客に対応していくことが示されています。右下の横断歩道は、認知症の人もわかりやすい表示や標識などのことが示されています。

以前、私が英国のアルツハイマー病協会を訪ねたときに、担当者が言っていた言葉が非常に印象に残っています。それは、認知症フレンドリーという考え方は、認知症の人に優しくしましょうという意味ではないということです。認知症であってもなくても、誰もが社会生活を営む権利があります。認知症の人が暮らす上で、障害となっている環境を改善することは私たちの義務だというのです。日本では、認知症の人に優しい社会と訳されることが多いですが、ここでいうフレンドリーとは、認知症の人が多くいることに適応した社会をつくること。そして、認知症の人が高い意欲と自信をもって地域や社会で貢献できることを指しています。

さて、それでは、こうした社会をつくるためには、私たちには、どんなことができるのでしょうか。私は、2つのことを提案したいと思います。

一つ目の提案は、認知症の人と出会うことです。

わたしたちのNPOで実施している事業の中に、RUN伴というものがあります。

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地域の人とそこに住む認知症の人がタスキをつないでリレーしていくイベントです。
身近な家族などを除くとほとんどの人は、認知症の人がどのような暮らしをされているのか知る機会がありません。1本のタスキをつなぐ経験を通じて、顔見知りになり、身近にそうした人々が暮らしていることを実感していただこうと開催しています。
RUN伴は、2011年から始めて、毎年開催箇所が増えていき、いまでは日本全国そして台湾でも実施しています。出会いを通じて、認知症の人の暮らしに障害となっていることに気づき、地域環境が変わるきっかけが各地で生まれればと思っています。

認知症と聞くと、医療のことや介護の制度のことなどきちんと勉強してからでないと、その人と話をしたり、交流してはいけないと考える人もいます。しかし、医療的な知識が先行すると、認知症の症状や行動の特性だけに関心が向いてしまい、その人自身や暮らしに関心が向かなくなってしまう傾向もあります。私は、親戚や職場、地域の集まりなど、まずは身近な場所で、認知症の人と出会い、話をするところから始めるのがよいと思います。

2つ目の提案は、仕事を通じてできることを探すということです。

認知症の問題について何かをするとなると、休みの日にボランティアをする、といったことを思い浮かべる方も多いと思います。それも大事なことですが、私は、皆さんひとりひとりの仕事や立場を通じてできることを探すことが大事ではないかと思っています。

例えば、接客をお仕事にされている方であれば、自分のお店にやってくるお客さんの中に、認知症の人はいないか想像してみてください。すでに、お店の中で何か困りごとを抱えた人にあったことがある人もいるかもしれません。その中に、認知症と思われる人はいなかったでしょうか。そうした人たちがもっとお店を使いやすくなるためにできることはなんでしょうか。
あるいは、企画やものづくりをされている方は、600万人の認知症の人がいることを前提にされているでしょうか。デザインやマニュアルを少し変えるだけでも、多くの人が使いやすくなることもあります。私たちよりも、一足先に、認知症となった先輩たちに教えをこいながら、社会の仕組みや環境をひとつずつ改善していくことが大切だと思います。

昨年、4つの団体が核となって、認知症未来共創ハブという組織が設立されました。
私もその運営に関わっています。

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この組織には、認知症のご本人や家族、企業や自治体、学術機関、非営利団体などが幅広く関わっています。まず、当事者参加型パネルと呼ばれる場で、認知症のある人たちが暮らしの中で体験されていることを広く集めます。その情報を、研究者などが分析、整理します。そうした情報は、政策提言や認知症の人が使いやすい商品やサービスの開発、まちづくりなどに役立てられます。認知症の人の視点から出発し、様々なセクターの人たちが一緒に、社会を作っていこうという試みです。

認知症フレンドリー社会は、いま世界各国で議論が始まったばかりです。
これをすれば解決できるというわかりやすい設計図はいまのところありません。
しかし、時代は、認知症の人が当たり前にいる社会へと突入しています。
自分たちの未来は自分たちでつくる。
認知症の人たちとともに、新しい社会の設計を考えていきたいと思います。

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