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「万葉集から読み解く『令和』」(視点・論点)

奈良大学 教授 上野 誠

新しい元号が決まりました。新しい元号が「令和」と決まりました。
新しい元号がどんな元号になるのか、これはもう国民的な関心事でありましたし、政府の側も大変な厳戒態勢と言っていいでしょうか。そういった中で新しい元号が定まったわけです。

そもそも元号の制度というのはどういうものかといいますと、元々は中国の皇帝制度に由来をしています。皇帝、王が自分達が支配をしている地域で、この元号を用いなさいということを行うようになります。これが東アジアの諸地域でこの元号というものが行われるようになります。中国から朝鮮半島、更にはベトナム、西域諸国に至るまで、その元号というもの、どういう元号を使うかは別ですけれども、元号の制度というものが浸透していくことになります。日本もこの元号の制度を採用しているわけですけれども、今回は非常に大きな、ある意味で元号の制度の転換点となりました。

それは何かといいますと、日本で書かれた書物からこの元号が取られたわけです。従来は中国の皇帝制度に由来をしているものですから、四書五経と言われるような儒教経典から取られているわけなんですけれども、今回は万葉集から取られているわけです。
万葉集は8世紀の半ばにできた歌集です。現存する最古の歌集と言うことができます。4516首、これが20巻に歌が収められているわけですが、歌だけではなくて、その歌ができた由来を説く部分。例えばですね、題詞と言われる部分とか更には序文と言われる部分があって、これらは漢文で書かれています。
この万葉集の巻の第五の梅の花の宴の歌、32首の序文からとられているわけです。ちょっとこの序文、どのようになっているか、元号がとられているところを見てみたいと思います。

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天平2年730年の正月13日、現在で言えば2月の8日にあたりますけれども、「初春の令月にして 気淑く風和ぐ」からとられているわけです。
簡単に言うと、天平2年730年の正月13日に大伴旅人の邸宅、この時、大伴旅人は九州大宰府に赴任をしておりましたから、その大宰府の邸宅にみんなを集めて宴会をしたんですね。その宴会は梅の花を愛でる宴会。梅の花といいますのは、当時は外来植物で珍しい花であったわけです。ですからその大宰府の長官、トップである旅人の邸宅にその梅の花があった。そこでみんなが集まってきたわけです。そこでその梅の花見の宴というものを行ったわけです。その時の様子がこの序文には書かれているわけですよね。
皆さん、お花見をするんだったらどんな時がよろしいですか?例えば、やっぱりこう時期が良くないといけませんよね。それで、天気もやっぱり晴れたほうがいいでしょうね。雨とかそんなだったら大変なことですよね。この「初春の令月」というのは、令月、おめでたい月ですから、お正月でおめでたい月、現在の2月8日ですけれども、梅の花が咲いたというわけですね。それでですね、この時は気淑よく天気が良いっていうんですね。天気が良くて、風が暖かで柔らかである。もう寒い風、冷たい風、速い風、嵐、そういう時は、花見には向きませんよね。
更には、もう梅の花の白さといったら鏡の前にある白粉のようだっていうわけです。鏡の前にある白粉のように真っ白だ、もうその匂いといったら、これは匂い袋のようだと言っているわけですね。お花見というのは天気が良くて風が柔らかでも、花が咲いていなければいけませんから、もうこれ以上の時はないということですね。

ここでちょっとその注意しておきたいことがあるんです。一部の報道で歌から引用されたという風に言われていますけれども、これは32首の歌を束ねる序文からとられているので、漢文であるということを忘れてはいけません。このことは重要なことなんですね。

実は私、万葉集の研究に身を投じて30年近く経ったわけですが、今回の元号のことで色んな方から、一言で万葉集というのはどういう書物か、言ってくださいという風に言われるんですよね。そうすると、色んなことをこう、8世紀の半ばにできた歌集で、これは大伴家持という人が編さんされたものですよとか、色んなことを言うんですけれども、私はこういう風に言いたいですね。
最も日本的で最も中国的な歌集。つまり最も日本的で最も中国文化の影響をよく受けた歌集であって、中国の文化の特に漢文の影響を受けています。これ、山上憶良という歌人、この人は中国に留学もしています。遣唐使になって留学もしています。大伴旅人という人、この人も漢文が大変よくできます。そして、その息子である大伴家持も漢文を読むことができて、中国の文学の影響というものを受けているわけです。

そこで私が考えた、新元号創案者の思いということを最後に述べてみたいと思います。1つは日本の国の書物ですが、アジアとも関わり合いが深くて、世界とも繋がっている、アジアと世界が意識される年号である。そしてお花見の景色ですから、これは平和を表すでしょう、お花見はもう平和な時ですよね、そして九州大宰府の歌ですから地方の時代がやってくる、それがこの元号に込められた意味だと思います。

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