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「女性と共に歩んだ 私の中のテレビ」(視点・論点)

NHK元アナウンサー 鈴木 健二

今、タイトルに出ました私は、昭和の終わり、まさに私が36年間の勤めを終わって、60歳で定年退職になって、このNHKを去る直前のものでございます。私、30年ぶりにNHKのテレビに登場してまいりました。この30年間、じゃあ、どういう風に世の中が変わってきたかということを話するには、あまりにも長い歳月が流れました。でも今、思い出しますと、例えばですね、ご覧になっている方に女性の方がたくさんいらっしゃると思います。昭和38年でした、オリンピックの前の年でした。突然私に4月からテレビニュースをやれという命令が下りました。私、それまでは他に忙しくてニュースを読んでいる暇がなかった。

 ところがですね、尊敬に値するテレビ話術を持っていらっしゃる女性の先輩アナウンサーが何人もいらっしゃるのに、その方達がニュースを読んだりしている姿を見たこともなければ聞いたこともないです。どうしてかなと思って、報道局へ行きまして、どうしてって聞きましたら、いや、男女平等の民主主義の手前、女性のアナウンサーにも読んでいただきたいんだが、片方には女性が読むニュースを日本の男達が信頼するだろうかという、そういう気分もあるんだ、そこでためらっているんだって、男女平等の民主社会ができてからもう既にですね、20年近くが経過している、しかもですね、情報の最先端にいる放送局にしてからが当時、そんな雰囲気だったんですね。
 しかし私は申し上げました。オリンピックが終わったら、画面が全部、今の白黒からカラーに変わるっていう話です。そしたらテレビに登場する女性の方は全部ファッションカラーを身につけて登場するでしょう、で、テレビのお客様の一番多いのは家庭の奥さんです。奥さん達は、その映像を見て、あ、自分達もと言って、皆さん、華やかな色に変わっていくでしょうと、それも僅かな時間の間です。つまり、テレビに出てくる女性の皆さんのファッションを情報として受け止めるわけです。情報の中には、そういう風にですね、見る人、あるいは聞く人を後ろから影になって押していく力がある場合があるものです。
 案の定、今どうですか、アナウンサーもキャスターもですね、テレビの司会者から何からほとんど女性じゃないですか、百花繚乱の趣がありますよね。その中でもですね、私が特に印象に残っているのが、あの女子バレー、東洋の魔女と言われた方達の優勝の瞬間でございます。全国の女性の方があの一瞬を見ました。それ以前のスポーツでの女子の話題と言ったら、私の大先輩であります河西三省アナウンサーのあの、「前畑ガンバレ!前畑ガンバレ!ガンバレ!ガンバレ!前畑勝った! 勝った! 勝った!勝った!」あれが思い出として残っているだけなんです。しかしあのバレーは、女性の方が集まって、1つのチームを作って、集団で世界ナンバー1に上り詰めていった。女性が集まればあれだけの力があるんだということを、たぶんテレビをご覧になっていた日本中の女性の方がそうお思いになっただろうと、私はテレビの内側から、あの一瞬に想像しました。
 つまり情報にはですね、そうした集団の、あるいは社会を後ろから影にまわって押していく力があるんですね。今どうですか、スポーツを、水上で、テニスで、野球で、バドミントンで、あらゆる種類に女性の方が世界のトップを占めていくではありませんか。そこまでにですね、約50年の歳月が経ってきたわけです。その間にずーっと女性の方は、ご自分の力を溜めていらっしゃったわけですね。情報にはそうした様々な力がありますが、しかし今、私がテレビを離れて、そして見ておりますと、注意すべきことがあります。私は36年間のこの放送の生活の間で、いっぺんひょっと驚いたことがある、先程の女性の方にお話を伺う番組「こんにちは奥さん」と申しました。全国からお集まりになりますが、ある日です、私がスタジオに入って、そして並んでらっしゃる皆さんに、おはようございますと言います。
 そうするとですね、その時に、立って、にこっと笑ってお辞儀をなさる方、これは商店の奥さんです。いつもお客さんに接していらっしゃいますから、そしてしかもまだコンビニだの自動販売機がない頃でございますから、話題をたくさん持ってらっしゃる。同じく立ち上がるんですが、真面目にお辞儀をされる方、農家の奥さんです。ご自分で生産もなさるし、その販売もなさる、しっかりと自分の意見を持ってらっしゃいます。それからサラリーマンの奥さんの方、椅子から立ち上がることありません、座ったままですね、にこっとお辞儀をなさいます。そしてサラリーマンの奥さんの方はテレビ、新聞、週刊誌とかたくさんの情報を受け止めておりますが、それは既にテレビや新聞で1つ前に言い古された情報ですが、しかしそれをたくさん持ってらっしゃいます。
 ですから私は初対面にもかかわらず皆さんからご意見を伺う時に、あ、ここで1つ意見をまとめたいなと思ったら、農家の奥さんにマイクを向けました。話題を転換したいなと思ったら商店の奥さんに、そして、この問題についてのご意見はどうですか、賛成ですか反対ですかっていう時にはサラリーマンの奥さんに向けますと、何かの覚えた情報の話をしてくださいました。これで7年間やりましたが、私、7割から8割、見当違いはなかったという風に、未だに自信を持っております。
 ただし、いっぺんだけビックリしたことがあります。ある日、スタジオに入りました。そうしたらですね、スタジオに並んでらっしゃる奥さんが前の週と違って、いっぺんにですね、ミニスカートになって、スカート丈が膝上になっていたということ、へえ、どうしたんですかって言ったら、いえ、テレビに出てらっしゃる方がみんな短いもんですからって、そうすると実に短い時間の間に女性の方は、日常生活の中での様々な変化を受け止める力があるんだってことは、私、そこで勉強さしていただきました。はい。
 ですからそういう風にですね、情報というものは様々な形で相手の中にこう、入っていきますね。しかし私、自ら戒めて、これだけは守っていこうと36年間、自分で通したことがあります。それは、他人からもらった資料は事実の半分しか物語っていないのだ。あとの半分は自分で歩いて探してくるのだと。他人からもらった情報は事実の半分です。あとの半分は自分で集めるんです。そして初めて情報になるんですが、じゃあ、その方法は何かというと、テレビ、スマートフォン、新聞、週刊誌、そこから集まってくる情報は広いですが薄いです。情報で対処するのは深いことです。それを深めるのは何かといったら、私は70歳から75歳までの間、図書館の館長を務めましたが、その間ですね、「自分で考える子になろう」というテーマを旗印にしまして、小学校を押しかけ授業をして歩きました。
 自分で考えなさいと、そしてその図書館で本を読むことによって、今まで集まった情報は深くなる。情報は深く知っていることが大切なんですね。そのために私は今、「日本人を読書が救う」という考え方を今、私、数え年の91歳でございますが、今、深く思っております。今日はテレビの生活の中から思いつきで、女性への点だけ絞ってお話をいたしました。ご覧下さいまして、ありがとうございました。

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