NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「アポロから50年 月・惑星探査の未来」(視点・論点)

会津大学 准教授 寺薗 淳也

いまから50年前の1969年、アメリカの月探査船、アポロ11号が月面に着陸しました。ニール・アームストロング船長が人類としてはじめて月面に足跡を記した際に発した言葉「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大なる飛躍だ。」は、今もなお、語り継がれています。

さて、私はこの3月、アメリカ・テキサス州で開催されていた、「月惑星科学会議」という国際会議に出席してきました。この会議は、世界の月・惑星探査の成果や今後の計画を発表する会議で、科学者など2000人以上が出席するという、大きな会議でした。

この月惑星科学会議、実はその発祥は、アポロ11号によって得られた科学的な成果を発表する場として開催されたのです。従って、今年はこの会議も50回という節目を迎えることとなったのです。
そしてこの50回目の節目となる会議で最も注目を浴びたのが、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」の成果でした。

この会議にちょうど合わせて発表された、「はやぶさ2」の探査成果を紹介した最新の論文の内容が会場で紹介されました。会議の出席者は、次々に発表される最新の探査結果を、驚きをもって受け止めていました。

s190401_09.jpg

s190401_010.jpg

「はやぶさ2」は昨年6月に小惑星リュウグウに到着、9月・10月には相次いで表面探査用ロボットの放出に成功、そしてこの2月、第1回のサンプル採取のためのタッチダウンを行いました。サンプル採取はほぼ成功とみられています。また、ここまで、「はやぶさ2」の探査は順調に進んでいるといってよいでしょう。
アメリカが月着陸を成し遂げたとき、まだ人工衛星すら打ち上げることができなかった日本が行った小惑星探査に、世界がいま、注目しています。

「はやぶさ2」の新たな成果は、多くの科学者にとっても驚くべきものでした。
「はやぶさ2」の目的地であるリュウグウが非常に暗い天体であること、独特のコマのような形が、かつて速い自転によって作られた可能性が高いこと、密度が約1.2と驚くほど軽く、内部がスカスカである天体であること。どれもが私たちの想像を超える内容でした。
この4月5日、「はやぶさ2」は新たな挑戦を行います。小惑星の表面に物体を衝突させ、穴、つまりクレーターを作るという実験です。穴を作ることによって、太陽の光によって影響を受けていない、内部の物質を調べることができると期待されています。日本でもはじめてのこの実験が成功することを期待したいところです。

アポロ11号が月に着陸した1969年は、米ソ、つまりアメリカと当時のソビエト連邦との冷戦が続いていた時代でした。アポロ計画の目的も、科学的なものというよりは、互いの科学技術の優位を競うことが大きな目的だったのです。それは、軍事的な優位と直結するものでした。
50年後、アメリカ、そしてソ連から変わったロシアに加え、宇宙開発の分野では、中国、日本、インド、ヨーロッパなどが加わり、多くの国が競い合うようになっています。そしてその目的も、科学的に太陽系の天体を探ることが中心になってきました。アポロ11号から50年後の「はやぶさ2」が、小惑星を科学的に調べるために現地で探査を続けているということが、そのことを端的に表しているといえるでしょう。

さて、これからの月・惑星探査はどのようになっていくでしょうか。
2017年、アメリカは「深宇宙ゲートウェイ」という計画を発表しました。

s190401_011.jpg

これは、今の国際宇宙ステーションに代わり、月の回りを回る宇宙ステーションです。常に4名の宇宙飛行士が滞在し、月の表面などに宇宙飛行士が下りて、月を探査することが計画されています。
もし実現すれば、人類はアポロからはるばる半世紀以上を経て、再び月へ戻ることになるのです。

この計画の大きなポイントは、かつてのアポロ計画のようにアメリカ一国で行われる計画ではなく、国際宇宙ステーション計画と同じように、国際的に行われる計画であるということです。
すでにロシアが参加を表明、日本は公式には参加を検討しているという立場ですが、参加することはほぼ間違いないと思われます。
参加した際、今の国際宇宙ステーションと同じように、日本人宇宙飛行士が深宇宙ゲートウェイに向かい、さらには月表面の探査に参加する可能性があります。

s190401_012.jpg

この3月、JAXAは自動車会社と共同で、人間を乗せて走るローバーの検討を行うと発表しました。ローバーは4人乗り、燃料電池により動き、1万キロも走行可能となる予定です。
日本人が月に降り立つ日が、かなり近い将来にやってくることになるかもしれないのです。

この深宇宙ゲートウェイの真の目的は、「ゲートウェイ」という言葉に隠されています。
アメリカをはじめ参加各国は、この深宇宙ゲートウェイを、月からさらに外の世界、つまり「深宇宙」への入口、すなわち「ゲートウェイ」にしようと考えているのです。
そしてその目的地は、ずばり、火星です。
アメリカは従来から、2030年代なかばには火星に人間を送ることを検討しています。深宇宙ゲートウェイは、ここを経由して、将来火星へと人類を送る中継地点としても機能することになるでしょう。

夢のようなこの深宇宙ゲートウェイ計画、しかし、少し落ち着いて考えてみる必要があります。
そもそも、火星に行くためにわざわざ月を経由する必要はありません。地球、あるいは地球周辺の宇宙ステーションから向かうという手もあります。
そして、なぜ月なのでしょうか。
これについては、宇宙分野でも急速に台頭している中国に対する対抗目的ではないか、という意見もあります。実際、中国は月探査に大変熱心で、2030年には独自の有人月面基地を作ろうという動きもみせています。
もし深宇宙ゲートウェイの真の目的が中国に対抗することになるのだとすれば、米ソ冷戦の再現になってしまうかも知れません。

そして、日本はどう向き合うべきなのでしょうか。
深宇宙ゲートウェイのような国家的なプロジェクトには、多額の予算がかかります。それには私たちの税金が投入されます。その意味では、夢のような計画であっても、私たちに直結する問題でもあるのです。
実際、現在の国際宇宙ステーションについても、ばく大な費用が投入されながら、それに見合った成果が上がっているのか、疑問視する声もあります。
なぜいま、月を目指そうとするのか、日本がなぜ世界各国と足並みをそろえて、月へ向かおうとするのか。そこにどのような意義があるのか。政府としても、よりわかりやすく、ていねいに説明し、国民の理解をしっかりと得る必要があります。

アポロ計画から50年。日本も「はやぶさ2」によって、世界最先端の月・惑星探査を行える国であることを実証しました。
私は、新たに行われる有人月探査は、冷戦のような軍事目的の競争ではなく、国際協調、全世界の結集の証として行われるべきであると考えています。
平和目的、そして純粋に科学目的で実施された「はやぶさ2」、そしてそれを行った日本が、それをリードできるのではないかと、私は信じています。
世界の経済大国、平和裏に宇宙開発を進めている日本は、月・惑星探査の分野でも世界を牽引する存在です。
アポロから50年。私たちが再び月に戻る意義を、改めて考えることが必要でしょう。

キーワード

関連記事