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「学校給食から考える子どもの貧困」(視点・論点)

跡見学園女子大学 教授 鳫 咲子(がん さきこ)

 跡見学園女子大学の鳫咲子です。今、日本では貧困状態にある子どもの割合が7人に1人にのぼっています。先進国の中でも高い貧困率が注目され、2013年に「子どもの貧困対策推進法」がつくられました。この法律に基づいて、国や都道府県は、子どもの貧困対策についての方針や計画をつくり、子どもの貧困の実態を調査して、対策を進めています。今年は、子どもの貧困対策を進める国の方針がつくられてから5年後の見直しの時期を迎えています。
 本日は、「学校給食から考える子どもの貧困」をテーマに、中学生への給食の普及率に自治体間格差があること、定時制高校での給食実施率の低下、給食費の未納問題を踏まえた給食の無償化の提案を中心にお話ししたいと思います。

 子どもの食事、栄養がどれ位取れているかについて、家庭による格差が大きいことが、研究者の実態調査によってわかっています。この格差を埋めるために、今日でもなお大きな役割を果たしているのが、学校給食です。貧困状態にある子どもは学校給食によって、不足しがちな栄養素であるタンパク質、ビタミンなどを補っています。

(中学校給食の自治体間格差)
 パンやご飯などの主食、おかず、牛乳がそろった給食を完全給食と呼びます。完全給食は、小学生では全国の99%という高い実施率となっています。しかし、中学生は公立でも85%に留まっています。残り約15%の多くは家庭からお弁当を持参したり、お弁当を持参できない場合は、パンなどを買って食べたりという状況です。

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 学校給食を実施していない地域では、経済的に困窮する世帯に給食費などを支援する就学援助制度の下でも、給食費相当額の支援を受けることができません。給食がなければ昼食代への支援が受けられないという地域的不公平が生じています。
 また、完全給食の実施状況には地域の片寄りが見られます。近畿地方と西日本の一部、神奈川県などに、中学生に完全給食を実施していない市町村が多いのです。 

 このように、小学生に比べて中学生への給食に自治体による格差が大きいことには、次の2点が理由として考えられます。
1つ目は、小学校は戦前からも一部地域で給食が行われ、戦後急速に給食が普及したのに対して、中学校は戦後はじめて義務教育となり、給食の普及もゼロからはじまったという給食の歴史の違いです。2つ目は、中学校の給食を実施していない地域では、全国的には中学校でも給食がある方が普通だということを保護者・教職員など学校関係者もあまり知らなかったという情報格差の影響です。
 働く母親や一人親家庭も増えていて、給食のない自治体の調査では、保護者の多くが給食の実施を望んでいます。一方、多忙化が問題となっている教職員からは、新たに給食を実施することへの負担を心配する声が上がっています。多くの学校で未納の給食費の督促が校長や担任の仕事になっていることも心配の一因です。中学生自身には、嫌いな物を食べなくて良いお弁当を支持する声もありますが、毎日のお弁当作りが大変であるとの意見もあります。
中学校給食がない自治体でも、市議会で給食実施について議論されたり、市長選挙の争点の一つになったりして、少しずつ中学生の給食の実施率が上がっています。

(定時制高校の給食)
 このように公立中学生の給食実施率が上がっている一方、夜間定時制高校生の給食実施率は、2006年の42.1%から2018年は24.6%まで下がっています。

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例えば、千葉県では、2018年から給食が廃止されました。給食を食べる生徒が減ったことが廃止の理由とされました。しかし、実態は、定時制高校で、給食費を1月分まとめて前払いすることが難しい生徒が多くなったためなのです。定時制高校では、生活保護世帯など経済的な困難を抱える多くの高校生が働きながら学んでいます。歴史的に、勤労生徒の夕食支援としてはじまった定時制高校の給食は、今日でもなお重要な意義があります。

(給食費未納問題)
 次に、給食費の未納問題について、お話いたします。給食費未納の小中学生の割合を0.9%、未納となっている金額の割合を0.4%であるとの調査結果を文部科学省は発表しています。
未納割合0.9%は、例えば国民健康保険料の滞納率が10%近いことなどと比べると、それ程高い割合ではありません。しかし、給食費未納については払えるのに払わない保護者がいる、親の責任感がないのが問題であるとする意見も見られます。この意見は、未納原因を学校に聞いた結果として、「保護者の経済的な問題」よりも、「保護者としての責任感や規範意識」すなわち「親のモラルの問題」が多いという調査報告を文部科学省が発表し続けていることの影響を受けていると考えられます。
 しかし、この調査結果だけで給食費未納を親の責任として片付けることには、主に2つの点からの疑問があります。第1に学校では「保護者の経済的な問題」があるかないかを正確に把握することは不可能です。たとえ保護者が職業に就き収入があるように見えても、他人に知られたくない「借金」返済の問題などは、家族にさえ伝えないこともあります。

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また2009年度から2016年度までの調査において、給食費が「未納となっている金額の割合」は、常に小学校より中学校が高くなっています。未納の主な原因を「親のモラルの問題」と考えると、小学生に比べて中学生の「親のモラル」が低いというおかしなことになってしまいます。はたして、未納の原因を「親のモラルの問題」と決めつけることが正しいのでしょうか。これが第2の疑問です。2016年度の調査では、給食費以外の学校に納める費用に滞納がある子どもが、小学生約15%に対して、中学生では40%に上ることもわかっています。
むしろ中学生になると子どもが学校に通うための費用が増えることが問題です。憲法26条には、「義務教育は無償である」とあります。しかし、実際には、学習塾などの費用を除いて直接公立学校に通うための費用に限定しても、小学生で年間約10万円、中学生になると約18万円も必要です。

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中学生になると、制服代・クラブ活動費・修学旅行費などの金額が大きく増えます。この結果、小学生より中学生の給食費未納が生じやすいと考えられます。

(給食費無償化に向けて)
 給食費のうち、保護者が負担しているのは材料費だけで、既に人件費や設備費は税金で賄われています。経済的に困っている保護者の申請によって給食費を支援する就学援助という制度もありますが、必要な人が知らないという周知の問題や、特別の支援を受けることには躊躇、恥ずかしさなどが伴うという制度上の欠陥があります。
 経済的な困難を抱える子どもだけでなく、小中学生全員の給食費を無償にしたり、一部補助したりする自治体が最近増えてきました。全国の約30%の自治体で、所得制限のない給食費支援が既に行われています。親が給食費を払ってくれるかどうか心配することなく、全員が安心して給食が食べられるよう給食の無償化を、国の制度として検討すべき段階に来ています。

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