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「平成の終わりに① 21世紀の世界と国際秩序の行方」(視点・論点)

第22代国際司法裁判所所長 小和田 恆

    今年は平成の御代に御代替わりが訪れ、30年の平成の時代が終止符を打つことになります。
 平成の時代30年を考えてみますと、日本の国だけの中を見れば、戦争に巻き込まれることもなく大変平穏無事の30年であったということが言えると思います。しかし世界という視点に立って考えてみると、この30年は激動の時代であったということが言えるのであります。

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 1989年、これが平成元年でございますが、それはブッシュ大統領が冷戦終結宣言を行った年にあたります。ブッシュ大統領はご承知のように、新しい国際秩序が幕を開けたということを宣言したのであります。

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ところがその翌年の1990年には湾岸危機、これは中東でありますが、湾岸危機が訪れて、戦争が始まります。その翌年、2年後にはユーゴスラビアの内戦が激化いたします。これはヨーロッパで起きた出来事であります。更にルワンダで内戦が勃発して、ジェノサイドの大虐殺が行われる。これはアフリカにおける事件であります。更に1992年には北朝鮮の核実験が実施されるという事態がアジアにおいて起きる。

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更に2001年になりますと、アメリカにおいて同時テロが発生するという悲惨な事態が生じたのであります。

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 その結果として2002年にはアメリカのイラク侵攻が始まるということで、考えてみますと、世界の各地において激動の時代が始まった。それが今日も依然として、そのいくつかが続いているというのが現在の世界の情勢であります。
そういう、この世界の状況を考えてみますと、一体、その新しい国際秩序が生まれたという話は、どこへ行ったんだろうという疑問が当然生まれてくるわけであります。その新しい時代、新しい世界の秩序というものが到来するはずであったものが、人によっては、何も新しいこともなければ国際秩序も出てこなかったと、むしろ出てきたのは新しい国際無秩序だということを言う人さえいるような状況がその後、展開したのであります。
 他方、冷戦構造が消滅したということは、冷戦下で共通の敵に対して結束していた陣営の中に、自国の利益を優先することができるような時代になったということで、そういう動きがだんだんと出てくるようになってまいります。一番典型的な例は、アメリカにおいてトランプ大統領の登場によって現れた、アメリカファーストという考え方を支持する人達がアメリカの中で非常に増えて、トランプ大統領の選出が行われたということであります。
 イギリスにおいてBrexitと呼ばれる、イギリスがEUから脱退するという事態が起きたのも同じような背景のもとであります。
 更にヨーロッパの中では、ドイツ、フランスというようなヨーロッパ統合の中心であった国々の間で難民・移民問題を契機にして対外的な排外主義というものが起こってくるという状況が今日も続いております。私見でありますけれども、そういう事態になった、その原因というのは、どうしてそういうことが起きたのかということが当然問題になるわけであります。
 私は2つの要因を挙げたいと思いますが、1つは、これまで社会に鬱積してきていた、現状に対するフラストレーションを持った人達の数が非常に増えてきていて、それが現代の状況に対するフラストレーションだけではなくて、それが将来への不安、例えばアメリカンドリームというようなものがもはや信じられなくなったというような状況の中で、そういうものが顕在化してくるということがあったと思います。
 もう1つは、この社会状況の変化に的確に対応するような政治システムが機能しなくなっているということがあるのではないかと思います。そうだとすると、21世紀の世界がポピュリズムのおもむくままに世界無秩序になっていくのか、これからは昔のような弱肉強食の世界に移っていくのかという問題が生じてくると思います。
 しかし私共がここで考えなければいけないのは、歴史というものが常に我々を導くガイドになるということであります。「愚人は自分の経験から学ぶ、賢人は歴史から学ぶ」という言葉がありますが、やはり歴史を振り返って、これまでどういうことが起きて、今、世界はどういう状況に立っているのかということを長期的視点から見ることが非常に重要になってくると思います。そういう意味で、ここで歴史を振り返って、これまでの国際秩序という問題がどういう風にして発展してきたのかということを考えることは、この時点で非常に重要なことだという風に私は考えるのであります。
 20世紀の初頭からの100年を考えてみますと、この間の国際秩序というものを形成する上で、非常に大きな出来事として起きてきたことが2つ挙げられると思います。1つは、法による支配というもののもとでRule-based Society(ルール・ベースド・ソサエティ)、ルールベースドな社会をつくる、規則によって物事が行われる社会をつくるという傾向が非常に強まってきたということであります。この点については、既に19世紀末のハーグの平和会議以来、そういう動きが表面化してきていたということが申せるわけでありますが、この会議では、無辜の人々を殺傷する戦争というものを廃止するための第一歩が踏み出され、その紛争解決の手段としての戦争というものに代わって、国際法による紛争の平和的処理、つまり国際裁判の枠組みというものが出来上がったのであります。それが今日の国際司法裁判所、ICJであります。

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 第2の要素は、地球全体が1つの社会として機能するグローバルコミュニティになりつつあるという事実であります。この問題については、例えば地球規模における地球温暖化の問題であるとか、あるいはエボラ熱、あるいはエイズの問題に見られるような疾病を阻止するために行われている国際協力というものからおわかりいただけるように、この地球社会が一人一人の人間について、協調的な社会として、みんなが一緒になって働くことによって、その生存と繁栄も確保できるという社会に変貌しつつあることは、皆様ご自身が常に感じていることであると思います。そういう2つのことを背景にして、みんなが、国際社会の中の構成員が協力し合って秩序を維持していくというようなことが、国際社会の常識になって、この100年の間に世界は進歩してきたのであります。

 そういう背景で考えますと、一時的に確かに紆余曲折はあると思いますけれども、その中には、今、先程挙げたような例も色々ございますけれども、それにもかかわらず世界全体として見れば、そういう新しい秩序をみんなが協力して作っていかなければならないという世界に国際社会が向かいつつあるということは、誰も否定できない事実だと思います。その中で日本は、日本の役割は何であるのか、特に日本のように、国際協調秩序というものに依存して自分の繁栄を確保しようとする国にとっては、それを求めるために積極的な関与をしていくということが、日本にとっては非常に重要な問題になってくるのではないかというふうに考えるのであります。

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