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「外国人材受け入れ拡大を考える② 多文化共生社会に向けて」(視点・論点)

明治大学 教授 山脇 啓造

2018年12月に改正入管法が成立し、政府は本格的な外国人労働者の受入れに舵を切りました。あわせて、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を取りまとめました。そこで、今日は、多文化共生をめざした社会づくりについてお話したいと思います。

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最初に、日本に今、外国人がどのぐらい住んでいるか、確認しておきましょう。法務省の統計によれば、2018年6月末現在、約264万人の外国人が住んでいます。在留外国人の数は、戦後ほぼ一貫して増えています。特に1990年代以降大きく増えましたが、リーマンショックと東日本大震災の影響で、一時期、減少しました。しかし、2013年以降、再び大きく増加して、現在に至っています。
外国人の受け入れに関わる政策は、どのような外国人の入国をどのぐらいの規模で認めるかにかかわる「出入国管理政策」と、入国した外国人を社会の構成員として受け入れる「多文化共生政策」に分かれます。後者は海外では、「統合政策」と呼ばれることが一般的です。出入国管理政策と多文化共生政策は外国人受け入れの車の両輪と言えます。
出入国管理政策は国、日本で言えば法務省の所管ですが、多文化共生政策は国と自治体が連携して取り組むべき分野です。しかし、日本では長く、自治体の取り組みが先行し、国の取り組みは遅れてきました。そこで、次に、自治体のこれまでの取り組みを振り返りたいと思います。

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自治体の外国人住民政策が進んだのは1970年代以降で、当時、在日コリアンが多く居住する自治体で、人権の観点から外国人を住民として受け入れる政策が進みました。一方、80年代には外国人労働者が増え、90年代に東海地方を中心に南米系日系人の定住化が進みました。外国語で情報提供したり、相談を受け付ける自治体が増えましたが、外国人が急増した公営住宅ではトラブルが起きました。2000年代になると、総合的に外国人住民政策を進める自治体が増えました。その時のキーワードが「多文化共生」でした。総務省によれば、地域における多文化共生とは、「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」です。さらに、2010年代になると、外国人を地域に活力をもたらす存在ととらえる観点が広がりました。これを私は、「多文化共生2.0」、すなわちバージョンアップした多文化共生と呼んでいます。

こうした自治体の取組みの中で、注目のポイントを3つ挙げたいと思います。
第1に、浜松市の取り組みです。浜松市は、90年代以降、ブラジル人労働者が急増した人口約80万人の自治体で、住民の約3%が外国人です。浜松市では、2000年代以降、外国人支援に力を入れてきました。2010年代になると、日本で育った外国出身の大学生が同様な環境にある高校生の相談にのったり、浜松の大学に通う外国人留学生と浜松の企業をマッチングしたり、外国人起業家の事例を紹介したりして、外国人の活躍の場づくりに努めています。

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こちらは、浜松市で毎年10月に行っている多文化共生月間のパンフレットです。浜松市は、昨年、欧州評議会が始めた多文化共生都市の国際的ネットワークである「インターカルチュラル・シティ」に、アジアから初めて参加しました。
第2に、広島県安芸高田市の取り組みです。安芸高田市は、人口3万人弱の小さなまちで、人口減少が進む、地方の典型的な小規模自治体です。外国人住民の割合は約2%です。2010年に多文化共生の担当課をつくりました。

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安芸高田市には消防団で活動している外国人もいます。写真の一番左側の方です。去年3月につくった多文化共生プランでは、外国人が「移住・定住したくなる魅力的な地域づくり」を基本目標に掲げました。これは、多文化共生の観点に立った地方創生の取り組みと言えます。
第3に、多文化共生に取り組む自治体のネットワークです。2001年に東海地方を中心に13の市町が集まって、「外国人集住都市会議」をつくりました。この会議は、毎年、省庁関係者を招いて、意見交換を行っています。政府の外国人政策に大きな影響を及ぼしてきた重要な会議です。今年度は、先月、群馬県の太田市で開かれ、法務省の入管局長などが参加し、総合的対応策の内容について、浜松市長や太田市長らと討論を行いました。

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次に多文化共生社会づくりをめざす上での、今後の課題についてお話します。今回の政府の総合的対応策では、情報提供や相談の多言語対応と日本語教育が強調されています。来日間もない外国人には情報を多言語で提供し、定住者には日本語教育を推進することが望ましいでしょう。一方、滞在の長短にかかわらず、医療や災害など命に関わる情報は多言語化のニーズが高いと言えます。
 総合的対応策では、8から11言語による情報提供や相談を行うこととなっています。
自治体では以前から多言語対応が進んでいますが、最近特に注目されているのが「やさしい日本語」です。

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こちらのように、日本語に慣れていない外国人にわかりやすいように、簡単な語彙や文法で、短くはっきりと話す日本語のことです。政府には「やさしい日本語」の普及に努めてもらいたいと思います。
超党派の議員連盟が日本語教育推進法案を準備して、この国会での成立を目指していますが、定住外国人に関する日本語教育の体制整備は喫緊の課題といえるでしょう。

 次に生活環境の整備について考えてみましょう。皆さんが家族で外国生活を始める時にまず心配するのは、学校と病院ではないでしょうか。日本で暮らす外国人にとっても、教育と医療は大切な問題です。医療については、先ほどお伝えしたように、命に関わる情報として、全国的な医療通訳体制の整備が大きな課題です。
 教育問題も同様に重要です。文科省によれば、日本の公立学校で学ぶ外国人児童生徒は約8万人で、そのうち3万4000人が日本語指導を必要としています。その4分の1が日本語指導を受けていません。一部の自治体では、独自の政策を打ち出して外国人児童生徒の支援に取り組んでいます。
政令市の中で特に注目に値するのが横浜市です。2017年度に、日本語指導を集中的に行う拠点施設を設置しました。また、学校と地域が連携して、外国につながる子どもをサポートしています。横浜市で、今一番、外国につながる子どもが多いのが南吉田小学校で、全児童数の半数を超えており、多文化共生の学校づくりに取り組んでいます。

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こちらは、南吉田小学校で日本人と外国につながる子どもたちがどうしたら仲良く学校生活を送れるかを話し合うパネル討論の様子です。こうした学校や地域の取組みを一冊の本にまとめて、まもなく出版する予定です。

 最後に、コミュニケーションや教育、医療など様々な課題に取り組むための体制整備のお話をします。国と自治体、企業や市民団体などが連携・協働して、多文化共生社会づくりに取り組むためには、多文化共生を推進する法律の制定が不可欠です。ところが、今回の政府の総合的対応策には、そうした政策が含まれていません。
先進国の多くは、移民の統合を進める法律を制定しています。ドイツでは、2005年1月に移住法が施行され、移民のためのドイツ語学習を中心とする統合コースが始まりました。韓国も2007年に在韓外国人処遇基本法を制定しています。諸外国や国内の自治体が積み重ねてきた取り組みを参考に、日本も体制整備を進めていく必要があります。

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