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「外国人材受け入れ拡大を考える① 改正法の課題と展望」(視点・論点)

日本国際交流センター 執行理事 毛受 敏浩(めんじゅ としひろ)

みなさん、こんにちは。日本国際交流センターの毛受敏浩です。
今日は外国人受入れについて考えてみたいと思います。

昨年12月、与野党激突の国会審議を経て入国管理法が改正されました。改正法はいよいよ今年4月から施行され、新たに設けられた在留資格「特定技能」による外国人労働者が今後、入国し、日本で活躍することになります。
政府が決定したのは今後、5年間に34万5千人をブルーカラーの分野14業種で受入れるということです。アベノミクスの成功によって人手不足倒産までが起こる事態となったことを受けて、今回の外国人労働者の受入れは、人手不足を緩和するために必要な措置と政府は説明しています。5年間に34万5千人、一年間にすれば7万人ほどであることを考えれば、取り立てて大騒ぎするほどのことではないようにも思えます。
しかし、私自身は今回の新政策は歴史的な転換になりうると考えます。それは現在の日本は深刻な人口減少の局面に立っており、外国人労働者の受入れは今後、継続、拡大することは間違いないと考えられるからです。人口についての政府の専門機関である国立社会保障人口問題研究所のデータでは、今後、20年間に日本の人口はほぼ一割、東京の人口に匹敵する1300万人の減少を見込んでいます。そして、さらにその後も人口減少の拡大は続くとしています。
この未曾有の人口減少の危機に対処するには、AI、ロボットなどをフル活用することも必要ですが、外国人の受入れを政策的に行うことが必要不可欠となります。

さて、これまでも人口減少の深刻化は叫ばれてきました。しかし、外国人の受入れの議論が進みませんでした。それは外国人が増えると犯罪が増えるというイメージが国内で広がっており、外国人の受入れ、あるいは移民政策を議論することをタブー視する雰囲気があったからといえるでしょう。

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ただ外国人犯罪は平成17年をピークに3分の一程度まで減少しているのが実態です。その意味で誤った認識が外国人の受入れを阻んできたといえます。今回の新政策は国民の外国人に対するイメージや政治的な反発を乗り越えてようやくたどり着いた結果といえます。

さて、今回の新政策の中でとりわけ重要な点として3点を上げることができます。
まず、一つは「在留期間の上限を5年とする就労を目的とした新たな在留資格『特定技能』を創設する」という点です。国際貢献をうたいながら、実質的には低賃金での外国人労働力に依存する仕組みであった技能実習制度から転換するということです。「特定技能」と呼ぶ在留資格の創設は、ブルーカラーの分野で正式に働き手として外国人を受入れるという点で大きな変化といえます。
二つ目は、「特定技能」によって日本で滞在する外国人労働者に対して、一定の試験を行い、その合格者には家族帯同と定住を認めるという点です。これは特定技能2号と呼ばれる制度ですが、現場で働く外国人労働者に対して、日本への定住に繋がる道が開かれたという意味で画期的といえます。日本として優秀な外国人を求めるというのであれば、2号を目指して来日する人材を増やすべきであり、2号へ進む道筋を政府は早く明確化すべきと思います。
三つ目は、日本に住んでいる外国人全般について、生活者としての総合的な対応策をとるということが決定された点です。
政府は入管法の改正の決議のあと、昨年12月25日に「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」を発表しました。ここでは日本に在住する外国人について日本語学習の充実など、彼らの日本での生活を改善するためのさまざまな取組みが列挙されています。これまで、260万人、広島県の総人口に匹敵する人々が日本で暮らしながら、定住している外国人に対して政府は明確な政策をとらず、その対応は自治体やNPO任せでした。今回、政府としての対応策をパッケージとしてまとめたというのは大いに評価できます。
 しかしここにも大きな問題があります。それは平成の30年の間に日本に住む外国人の数は急増し、国籍も多様化したという事実です。平成元年には98万人に過ぎなかった在留外国人は平成29年末には256万人へと2.6倍に増加しました。この間、政府は、在住外国人を管理の対象と見なしたものの、彼らに対する日本語学習や子どもの教育など教育、社会福祉面での政策はほぼ省みられるとはありませんでした。
例えば政府の十分な教育保証のない中で育った日系ブラジル人の子どもは現在、すでに成人し、結婚し家族を持ち、その子どもが日本で育ち始めています。30年、一世代の間の政策空白のもたらした課題は極めて深刻といえます。
例えばドイツでは、トルコ系のゲストワーカーを1960年代に受入れ70年代初頭にその政策をやめた後、30年近い移民政策の不在の期間がありました。そのことが、ドイツ社会の中で、トルコ系住民が社会から落ちこぼれ、ドイツ人とトルコ系住民の確執を生み、治安の悪化にもつながったと言われています。日本では、そうした問題は顕在化していませんが、長年、日本で暮らしながら社会から落ちこぼれた多数の外国人が存在するのは事実です。
その意味で昨年末の「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」は、将来に向けての大きなステップであると同時に、過去の政策不在の間に、子どもの教育や日本語のできない大人の外国人の増大など、どのような課題が地域社会に内在されているか、調査を行い、将来に課題を残さない取組みを総合的に行う必要があるでしょう。

さらに、外国人の受入れ政策は一過性のものではありません。継続的、総合的に行う必要があります。それを担保する新たな法律が必要となるでしょう。例えば、「在留外国人基本法」といわれるようなものです。外国人の権利義務を規定し、日本での生活基盤の確立への対応、日本での活躍を促すための政府及び自治体の責務等を明示したものです。今後、政府は、在留外国人基本法の制定に着手する必要があります。
さて、今後、外国人が増えてくると、日本は最終的にどのような国になっていくのか、ということに不安を持つ方もおられるでしょう。そこで必要なのは外国人を受入れた後の日本社会の未来像です。
それを考えるに当たり、一度、日本の歴史を振り返って見ましょう。島国の日本は、海外から積極的に文化を移入することで発展してきた国柄だということを思い起こす必要があります。古代には渡来人が新たな文化を伝え、奈良時代には大陸から鑑真が日本に渡り仏教を広めただけでなく、日本食の元となる醤油や味噌をもたらしました。日本は外国から文化や人材を積極的に受入れることで社会にイノベーションを引き起こし、国の発展を導いてきました。そのことこそが日本の特質、アイデンティティといえるでしょう。
これからの日本にとって外国人の受入れは避けて通ることのできない課題です。そのための議論はまさに、いま始まったばかりです。次世代を担う若者、あるいは外国人の方々も含めて、日本人と外国人の間でウインウインの関係をどう創るのか、そして新たにうまれる活力を活かして明るい日本の未来をどう築くのかという課題について、今後、国民的な議論が行われることを期待したいと思います。

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