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「平成の終わりに③ 達成したもの残された課題」(視点・論点)

元東京大学総長 佐々木 毅

今日は平成の日本政治を振り返ってみたいと思います。

まずそこで出発点として思い出していただきたいのは平成元年の出来事であります。平成元年は世界史的に非常に重要な年になりました。11月にベルリンの壁が崩壊をいたしまして、冷戦の終わりということが米ソ両国の首脳によって宣言されました。

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その意味で世界の秩序というのは大きく変動し始めた年であったわけであります。日本の政治家の中でも、これで今までの政治は終わったと、今までと同じような政治を続けるわけにはいかないという気分がけっこう後半に見られたことを私は記憶しております。

さて、日本の政治はどうなっていたのかといいますと、いわゆるリクルート事件に端を発した「政治とカネ」のスキャンダル、それに基づく国民の政治不信というのが頂点に達しておりました。そこで政治の改革をやらなければいけない、特に政治とお金の問題、そしてお金が最も重要な意味を持つ選挙のあり方も変えなければいけないというような議論が起こってまいりました。特に政権をずっと担当してきた自民党の中からそういう主張が出てきました。
一言で言えば、今までの選挙制度は1つの選挙区から、例えば自由民主党は何人もの候補者が立候補しますので、政策面では当然同士討ちの様相を呈します。それに、そういうことではなくて、政党間の競争を中心に、そしてその政党間の競争というのは政策競争というものを中心にした制度、仕組みに変えようというわけでありまして、そのためには政治資金も個人がたくさん集めるのではなくて政党が集めるように変える。それから選挙も、1つの選挙区には政党は1人の候補者を、候補者として出すというような制度に変えようということで議論が進められたわけであります。
色んな議論がこの間行われましたが、結局そこで問われていたのは、「政治とカネ」といったような問題に足をとられて重要な政策的な課題及び冷戦後の新しい世界情勢に対応するような政治の動きができないのは困る、というのがその根底にあった認識だったと思います。そこで1994年の1月に与野党の間で合意が成立しまして政治改革関連法案が成立しました。

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しかしこれは政治だけの問題ではなくて、その後、日本では行政改革、地方分権改革、それから司法改革、規制改革といったような諸々の改革が続いて起こる発端になったのが、この政治改革法案の成立だったと私は思っております。
その意味で改革の時代というものを平成の前半は、我々は見聞きしたところでございます。
政治の動きもそれにつれてだんだん変わって、国民の意識も変わっていきました。
自民党単独政権の時代から連立政権への時代、そして、やがて政権交代のある政党政治へと平成の間に政党政治の姿は変わってまいりました。
そこで問題になりますのは、じゃあ、こういう政党の変化の中でどのような課題が解決され、どのような課題がなお残されているのかという整理でございます。
1つは先程申し上げましたように、「政治とカネ」の問題で政治全体が動かなくなるというような大事件というのは、ありませんでした。
これは、たまたまそうだったのかどうかわかりませんが、結局のところその意味で、政策以前問題で多くのエネルギーを使うということの金の問題というのが取り除かれたように見受けられます。もちろん個別の政治家を巡っては、「政治とカネ」の問題がなお話題になっていることを否定するものではございません。その意味では、政治は前に向かって進んでいく、政策中心で政党間競争をして前に向かって進んでいく、そして政策を、例えばマニフェストというような形で有権者に示すというようなこともだんだん提案されてきました。
ところが、もう1つ平成政治が背負った重い問題があります。
それはバブルの崩壊とその後始末とでも言うべき問題であります。言葉としては、不良債権問題というのは皆様、ご記憶のところかと思います。こういう非常に今まで扱ったことのないような問題に長い時間を使って対応せざるを得ない状況に平成政治は追い込まれたわけでございます。そしていろんな金融機関の倒産、その他、いろんなことがありまして、それとともに国民と政治との関係もだんだん変わってきたと思います。
一言で申し上げれば、かつての日本の政治は、いろんな業界団体を通して経済的な安定というものをいろんな形で担保してきたということがあったと思いますけれども、だんだん市場中心の考え方が支配的になる中で、そういう行政のあり方そのものが、あるいは政治のあり方そのものが批判され、だんだん消滅し、いわゆる護送船団方式というようなものがなくなっていくということにもなりました。
それとともに、かつての平等的社会状況というものから格差のある状態へと徐々に徐々に日本も変わっていったことは、ご案内の通りでございます。

それからもう1つ平成時代を逸することができないのは大災害が相次いだということでございます。阪神淡路大震災、東日本大震災、ご案内の通りでございました。これも昭和の政治、特に第二次世界大戦後の政治は、いわば扱ったことのないような大規模な問題でございました。
これも多くのエネルギーを費やさざるを得ませんでした。その結果として、実は残された課題というものも浮かび上がってくることになりました。代表的な問題が社会保障制度の将来的な安定的持続可能性とでもいうべき問題が、どこまで取り組まれたかという問題でございます。平成元年というのは消費税という新たな税制が導入された年であります。それから30年後の現在、消費税は依然として我々にとって大きな関心事でありますが、同時に消費税というものが国民にどう受け止められ、政治がそれをどのように活用し、あるいは説得してやってきたかということを考えてみますと、なお不安定感が伴うことは免れないところでございます。その意味で社会保障制度の将来という問題は、なお残された課題として大きな塊として、財政問題のみならず制度そのものの問題として残されているのだろうという風に思います。

そうこうしているうちに、また世界情勢が不透明感を増してきました。一層、政治の役割はこれから大きな課題を背負うことになります。その意味で、そういう課題を背負いつつこの社会保障制度の持ち越してきた課題というものにどう取り組むことができるか、これからの政治の課題というものも現在のところかなり見えてきているのではないかと思います。

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