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「講談に学ぶ 話し方のコツ」(視点・論点)

講談師 神田 紅

講談師の神田紅でございます。
新しく年号が変わる今年、新成人となられた皆様、誠におめでとうございます。
皆さまは、日頃のコミュニケーションはやはりメールでという方がほとんどだと思います。
しかし、メールのやりとりだけでは、時に誤解を生じたり、また事柄によっては、やはり会って直接話をしなければならないことは必ず出てくるはずです。
人とのコミュニケーションは、人生で避けては通れないもの。
また、人前で話をする時の、コツのようなものはないかと、よく人に尋ねられます。
そんな時、何かのお役にたてればと、メリハリの利いた講談調の語り方をお教えしたりしております。

講談の語り方というのは、東京では私どもの神田派以外に、一龍齋や宝井、田辺、小金井などの流派があって、多少の語り方に違いがあり、また教える講談師の先生によってもさまざまです。 
私は講談界に入って、40年が経ちました。
師匠は、二代目神田山陽と申します。明治42年生まれで、西暦2000年に91歳でこの世を去りました。

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師匠は、65年にわたる講談師人生の中で、大谷内越山や二代目大島伯鶴等の名人の講談師について、話芸としての講談を研究し、私たちにこんな教え方をしてくれました。
講談独特の「修羅場」を語る時には、メリ、ハリ、ツッコミ、謡い調子という四つの調子がある。
メリは、マイナー、ちょっと暗い調子。ハリは音を張り上げる、ツッコミはそこだけ強く言う、謡い調子はお謡いのように音をつないで語ること。この四つの調子です。
これは、私が最初に習った講談「鉢の木」のうちの「佐野源左衛門の駆けつけ」の一節です。源左衛門がいよいよ鎌倉に駆けつける時のいでたちを語っております。

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印が何もついていない所はメリ、黒丸のところはハリとツッコミ、音を張り上げて強く言うところ。
どのくらい張り上げるかというと、ドレミならミからラの高さくらい上げます。

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ミラミミミミミミララミミミミ・・ラ。ラと上がったところにツッコミを同時に入れます。
ミ「ラ」ミミミミミミ「ララ」ミミミミミ・・「ラ」という感じ。
読んでみましょう。

さ「て」も源左衛門そ「のひ」のいでたちいかにとみてあれ「ば」(トン)

横一棒はハリ扇の数です。トンと一つ叩きます。
通して読んでみますね。

金小実緋縅の伊達鎧に同毛糸五枚しころの兜は(トントン)これぞ俵藤太秀郷が瀬田の唐橋にて(トン)龍人よりもおし受けしといわれある(トン)先祖伝来の名兜なり(トーントーントーン)。

声を一気にあげて、また元の高さに戻ってくる。これによって、言葉にメリハリが出てきます。

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最後のでんらいの名兜なり、の所は謡い調子と呼ばれるところで、「で」はできるだけ低い声で、次の「ん」はできるだけ高い声でツッコンで、お腹に力を入れたまま、だんだんにおりてくる調子です。

せんぞでんらいのめいかぶとなり(トーントーントーン)。

さて、上がり下がりで、メリハリが出てきたら、次は緩急・強弱の練習です。
ゆっくりしゃべったり早くしゃべったり、強く出したり弱く出したりいたします。
やってみましょう。
この台本は、真田幸村が幽閉されていた九度山村から、いよいよ大坂城に出陣していくくだりです。

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全体は謡い調子ですが、ぴしーの「し」のところで一気に上げたら、次第におりてきます。

ピシーリいちべんくわえるや、

今度は下から上に徐々に上げて行く、

「はーいよー」

パッ・・・・・・・これは、パッが8つ。小さい声から次第に大きく音階も上がります。

「パッ・・・・・・・」
トーントーントーントントン

この後は、こんな風に語ります。

馬声を助くる力声手綱さばきも鮮やかに乗り出したるその有様は(トントン)げにや按上人なく按下に馬なく尾筒は煙の如くにこんとんとして砂煙(トン)土煙をたて疾風の如くに駆け出したり(トントン)駆け出したり駆け出したり駆け出したり(トーントーントーントントン)。

「疾風のごとくに」のところはゆっくりになり、最後のかけいだしたりの三回繰り返しは、だんだんに強くなって参ります。

「駆け出だしたり駆け出だしたり、駆け出だしたり(トーントーントーントントン)」

緩急・強弱でございました。
私はこれらの修羅場調子を教えてもらった時に、師匠に「これは和風ジャズですか?」と尋ねて、「君は面白いことを言うね」と笑われました。
若い方々には、今の修羅場調子はラップに聞こえて、案外楽しんでやってもらえるではないかと思っております。
講談は、この「修羅場」が基本ですが、外にも「世話物」と呼ばれる、江戸時代の町人風のしゃべり方

峯「ちょいと、お前さん」
伴「何だよ」
峯「何だじゃないよ、いい加減におしよ」

と言った世話物で、間の取り方を学び、
また「怪談話」

やがて日もとっぷりと暮れました。上野東叡山寛永寺でうちならす八つの刻限、陰にこもってボーン。

など、声の陰陽の変化をつける練習をいたします。
まあ、こんな風に「講談」にはさまざまな語り方や調子があって、講談を語ることは音楽のように楽しいなと思いました。

さて、いよいよ私たちのコミュニケーションの場はというと、それはもう舞台の上、お客様とのやりとりでございます。
名人になれば、まくらをふらずにいきなり話に入って行けると言われておりますが、やはり最初は導入部「まくら」で、軽く季節のことや話題の出来事等にふれて、お客様を「つかむ」と申しますが、気持ちをこちらに引きつけておいて話に入って行きます。
お客様の顔をそれぞれ見ながら、また、場の空気を感じとりながら、押したり引いたりして講談の世界に引き込んで行くのですが、時には、お疲れのお客様がいたりすると、若い頃は、もうドギマギして、焦って早くしゃべってしまって失敗したことがよくありました。
師匠に相談したら、「そういう時こそ、ゆっくりしゃべるんだよ」と教えてくれました。
なかなかうまくは行きませんが、一人で一方的にしゃべるのではなく、常にお客様と対話をしながら語って行くことが大切だと思っております。
相手は、300人のお客様でも、一人の人と対話をしているような気持ちで語ること。
コミュニケーションは、まず一人から。
相手としっかり対話が出来れば、大勢も同じで、会話はさらに楽しくなるのではないでしょうか。
まずは、メリハリのきいた語りに挑戦してみて「く・れ・な・い!?」
神田紅でございました。 

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