「寄付が広がる社会の実現を」(視点・論点)
2018年12月12日 (水)
NPO法人日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾 雅隆
みなさんこんにちは、12月は寄付月間です。私は、寄付月間の推進委員会の事務局長、認定NPO法人日本ファンドレイジング協会代表理事の鵜尾雅隆と申します。私は、国際協力機構・JICAという組織で50ケ国以上の国で仕事をする中で、それぞれの国で行政と企業とNPOの役割のバランスが違うことに気がつきました、その中で、日本社会は、少し行政による社会サービスに依存しすぎていないか、もう少しNPOなどの民間による社会課題の解決が必要ではないかと考えるようになり、そうしたNPOなどの活動を応援する社会を創ろうと日本社会で、寄付が進む社会を創るために活動をしています。今日はよろしくお願いします。
みなさんは、寄付についてどう思っておられるでしょうか?
「寄付はしてもいいが、どこにしたらいいかわからない」とか、「寄付がちゃんと使われるか心配」という方もいるでしょうし「寄付なんてしたくない」という方もいるでしょう。実は、私たちは、寄付について、あまり公に話すことはないですし、学校で学んだ記憶のある方も少ないかもしれません。今日は、寄付について、改めて少し考えてみようというのが主題です。
まず、12月に取り組んでいる寄付月間についてご紹介します。寄付月間とは、「欲しい未来に寄付を贈ろう」を合言葉に、2015年に始まった全国的な寄付の啓発キャンペーンです。
550を超える企業、行政、大学、NPOなどが賛同団体となり、12月の一月間の間、全国各地で150を超える公式認定企画が行われています。年の瀬は、昔から歳末助け合い運動やクリスマス募金といった寄付にまつわる取り組みが多かったのですが、私たち寄付月間では、特定の目的に寄付をしましょうということではなくて、全国で寄付啓発のための企画をいろいろな方に自発的に企画していただき、それを公式認定させていただいています。これまでもたとえばカンパイチャリティといって、忘年会に居酒屋でビールを飲むと一部が寄付されるキャンペーンに名古屋近隣の約2000店舗が参加する取り組みや、寄付川柳、あるいは高校生たちによる寄付啓発の取り組みなど、様々な企画が全国で実施されています。
実は、日本では今、年に1回以上、寄付している人の割合は45%になります。この割合は、2010年は33%ですので、この6年で10%以上も伸びていることになります。このきっかけになったのは東日本大震災であったと言われています。震災の年には、実に68%の人が寄付をしています。もちろん被災者支援の寄付ですので、「一過性でしょう」という声は多くありました。確かに、翌年以降、寄付者の割合は減っているのですが、それでもずっと40%台を続けています。震災の寄付を経て、日本の寄付文化は10%分進化したと言えるかもしれません。
寄付を取り巻く環境もこの数年で大きく変化してきています。インターネット技術やソーシャルメディアのおかげで、様々な現場で困っている人たちを支援しているNPOなどの人たちの情報が簡単に入手できるようになってきました。同時に、クラウドファンディングという、インターネット上で寄付を集めて何かのプロジェクトを達成するという仕組みもたくさん立ち上がりました。そうした「寄付のしやすさ」「寄付先の情報入手のしやすさ」が寄付する人たちを増やしている傾向があると思います。
また、最近では、人生の集大成で寄付をしようという、「遺贈寄付」を考える方も急増しています。私たちの調査では、40歳以上の方の21%の方が、資産の一部であれば遺贈寄付してもいいとおっしゃっておられます。子どもがいない人が増えているということも背景にはありますが、子どもがいても、遺産の一部であれば、NPOや大学などに遺贈して、次世代の子どもたちのためなどに役立ててほしいという方が増えているのです。遺贈寄付というと、大きな金額でないといけないと考える方もいるかもしれませんが、10万円でもいいのです。寄付をいただいたNPOなどにしてみますと、金額に関わらず、「人生の集大成の支援先に選んでもらった」ということがものすごいヤル気と勇気をもらえます。子どもや孫が、この遺贈寄付の決断を誇りに思っているという話もあったりします。
私は、「寄付には無限エネルギーの可能性がある」といつも思っています。通常の経済活動ですと100円を支払って100円の商品を得ます。その交換で終了です。しかし、寄付の場合は、想いのこもったお金を受けとることで、寄付を受けた団体の職員たちが、金額だけではなく、頑張ろうという気持ちや勇気を得ます。これは普通の補助金などとは違う感覚です。
更には、支援の対象者となる困っている人たちも、いろんな人たちに応援されているということが、元気の源になることがあります。さらには、寄付をされた方も、その寄付をきっかけに社会の様々な課題を知り、自分の役割を発見していくかもしれません。このように、同じお金が動いても、寄付のように想いのこもったお金は、何倍もの価値を社会に生み出す可能性があります。寄付は今、経済規模が増えない社会の中で何倍もの幸福価値を生み出す可能性があるのです。
では寄付がこれから進んでいくうえでのポイントにはどういうものがあるでしょうか。
まず第一に「寄付者が自分の意思で寄付先を選ぶ」ということです。寄付先には正解はありません。寄付先を探すということは、自分にとって好きな人、いわば恋愛対象を探すようなものです。私たちは無意識に寄付をしていることがありますが、そうしますと、当然「どう使われているかはわからない」となります。「寄付の使い道をきちんと報告してくれる団体」もあります。寄付先を「選ぶ」ということは最初は簡単ではないかもしれませんが、インターネットやイベントなどで社会問題のために活動する団体やリーダーに出会う機会は探すと意外に多くあります。まずは選んで寄付して、その体験を振り返ってみることをお勧めします。
第二に、「寄付教育」の大切さがあります。私たちの多くは、寄付について学んだりする機会を学校で得てきていません。子どものうちに、学校で寄付について学んだり、誰かのために寄付して「ありがとう」と感謝される喜びを得る機会を持つことが大事です。寄付教育でとても大事なことは、「達成感を得ること」と「自分の価値観で選ぶこと」であると言われています。子どもたちの原体験としての寄付は、小中学校時代に学校を通じて行われるケースが多いのですが、そこに達成感をもってもらうような活動報告や感謝のコミュニケーションがあることがとても大切です。
最後に、私たちはもっと寄付を楽しんだらよいと思います。どうしても私たちは寄付を崇高でまじめで、自己犠牲に満ちたものと捉えがちです。例えば、買い物をしたら寄付になる、チャリティーコンサートにいく、パーティーで寄付する、といった楽しみながら寄付する機会を素直に楽しむことが大切です。また寄付によって自分が達成感を感じたり、幸福感を感じることがありますが、そのことに何ら罪悪感を感じることはないのです。日本で寄付が進むためにはあまり厳しく寄付をとらえず、肩の力を抜いて自分らしく寄付することが大切です。
12月は寄付月間です。みなさんも、ぜひ、ご自身の欲しい未来のために、寄付を贈ることを考えて見られてはいかがでしょうか。