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「学校の働き方改革の行方」(視点・論点)

学校業務改善アドバイザー 妹尾 昌俊

昨今、学校の長時間労働が深刻になっています。本日は大きく3つのことについて、みなさんと考えていきたいと思います。
一つ目は日本の学校はどれほど忙しいのか
二つ目は教師の長時間労働にはどのような弊害があるのか
三つめはどうしていけばよいか、です。

最初に、日本の学校はどれほど忙しいのかについてです。
文部科学省が2016年に実施した「教員勤務実態調査」によりますと、小学校教師の約3割、中学校教師の約6割が週60時間以上勤務しています。これは、月あたりに換算すると、80時間以上の残業で、いわゆる過労死ラインを超えている可能性が高い、ということになります。
ただし、このデータは自宅等での持ち帰り残業を含んでいない数値です。持ち帰りを加えたラフな推計をすると、過労死ラインを超える人の割合は、小学校教諭の約6割、中学校教諭の75%近くにも跳ね上がります。

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こちらの図は小中学校以外については国の労働力調査をもとにしたものです。他の業界と比べましても、小中学校教師の長時間労働の多さは突出しています。「学校よりも民間のほうがタイヘンですよ」という声は保護者や地域の方からよく聞くのですが、一昔前ならまだしも、いまの現実はそうではありません。

次に教師の長時間労働にはどのような弊害があるのかについてです。ここでは、3点に絞ってお話したいと思います。
第1に、教師の健康への影響です。2011年の6月には、大阪府堺市の中学校の教師が過労死でなくなっています。26歳の若さ、2年目の生徒思いの大変熱心な先生でした。2016年にも富山県の公立中学校の40代の教師が過労死しています。こうした例は残念ながら、氷山の一角であります。
第2に、授業をはじめとした教育への影響です。疲れた状態でいい授業ができるとは思えません。しかも、いまの学校に必要とされている教育は、単に基礎的な知識や情報を教えるということにとどまりません。インターネットやAI、人工知能をはじめとして科学技術がどんどん便利になるなかで、AIでは代替しにくいような力、思考力や創造性・クリエイティビティ、問題解決能力などが重要となっています。子供たちの前に立つ教師たちが、深く思考する時間やクリエイティブに考える時間がなくて、どうして子供たちのそうした力を育てることができるでしょうか。
第3に、優れた人材を教師として採用したくても、できなくなるという影響です。既に人材獲得競争は起きています。

以上の3点を踏まえると、教師の長時間労働の是正、学校の働き方改革とは、教師の命を守るためにも緊急性の高いことですし、また、未来のある子供たちによりよい教育をしていくためにも不可欠なことであります。

では、どうしていけばよいでしょうか。
まずは、以上述べたような働き方改革の理念、言い換えれば、なぜ教師の長時間労働を放置してはマズイのかということを、教職員と教育行政関係者はもちろんのこと、保護者、社会のみなさんとも共有することが、大切な第一歩です。

次に重要となるのは、学校の役割と教師の仕事を大幅に見直し、減らしていくことと、よい教育ができる環境にしていくことです。
現在文部科学省は、公立学校の教師にも時間外勤務に一定の上限を定めていく方向で検討しています。具体的には、「原則、月45時間、年間360時間を超えないように」というガイドラインを近く策定する予定です。
今の残業を半分以上減らしていかないと、この目標は達成できません。非常に高いハードルである、と言えます。
「月45時間、年間360時間」というのは、長時間労働を是正し、教師が健康に、授業準備等をしっかり行えるようになるための手段のひとつに過ぎません。この数字の達成自体が目的化してはなりません。
ですが、同時に今回のガイドラインをひとつの契機にして、学校、教育委員会、文部科学省は業務を大幅に見直していくことと、環境整備に着手してほしいと思います。具体的には、少なくとも次の3点が重要だと思います。
第一に、多忙の内訳をもっと見ていくことです。中学校や高校では、長時間労働の多くは、部活動が影響しています。休養日をしっかり設けていくことに加えて、大会・コンクール等を見直していくことが必要です。これは、教師の負担軽減のためだけに行うものではなく、生徒に過重な負担がかかっていないか、部活動以外の生徒の自由時間を浸食していないかなども考える必要があります。
教師が忙しいのは、部活動だけのせいではありません。運動会をはじめとする行事や夏休み中のプール指導については、保護者等からの期待も大きく、多大な時間をかけている例もあります。また、宿題やノートのチェック、コメント書きにも相当な時間がかかっています。これらが何もかも悪いというわけではありませんが、過労死の危険をおかしてまでするべきではありません。

こうした大胆な見直しを行ううえでは、保護者や地域からの理解、協力が不可欠となります。去年よりも行事が簡素になって残念だ、とか、自分が活躍した部活動が休部になるのは悲しいといった気持ちは分かりますが、時間も人手も限られています。先ほど述べましたように、授業に教師が時間とエネルギーを使って、よりよい教育にしていくためにも、一部のものは優先順位を落とすことが必要です。

「これは児童生徒のためになる」、「教育効果がある」とばかり言って、あれもこれも手広くしていては、教師は疲れ果て、過労死まで起きています。これまで欲ばりだった学校像を、いま、見つめ直すときなのです。
学校、教師の業務を大きく見直していくことが働き方改革の一丁目一番地です。年間変形労働時間制という制度を文部科学省は導入したいようですが、これは学期中の勤務時間を少し長くして、児童生徒の夏休み中に先生たちの休みを取りやすくするためのものです。が、残業時間のいわば付け替えに過ぎず、根本的な解決になるものではありません。

必要な政策の2点目は、学校のなかでもっと分業、分担を進めやすくすることです。多くの学校で、学級担任の先生が早朝から児童生徒の健康・出欠のチェック、不登校ぎみの子のケア、給食や掃除の時間での指導や見守り、進路相談など、授業以外にも非常に多岐にわたって担っています。いわばワンオペです。
スクールソーシャルワーカーなど専門職を入れていく動きはありますが、予算の関係で来訪頻度が少ないなどの問題があります。また、今後は給食、掃除、児童の昼休みなどの見守りは、ランチスタッフなどの教師とは別の人材を入れていくことも検討すべきでしょう。

3点目は、2点目とも重なりますが、国がしっかりと必要な人手と予算を学校現場にかけていくことです。とりわけ小学校では、1日6時限目までびっしりと教師が担当していることも珍しくありません。空き時間がないので、トイレに行く暇もないという声があるほどです。勤務時間中に適切な休息をとりつつ、授業準備できるようにするためには、小学校等ではもっと教員数を増やしていくことが不可欠です。これには膨大な予算がかかることですから、社会の理解を得て、応援いただくことを期待します。

働き方改革に特効薬はありません。ひとつやふたつの対策、施策では不十分です。もちろん、残業に月45時間などと目標設定しただけで、「あとは教師のみなさん、よろしく!」でもダメです。
未来ある子どもたちを前にして、学校を、健康で幸せに活き活きと働けるモデル、模範に変えていこうではありませんか。

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