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「発達障害と共に生きる」(視点・論点)

どんぐり発達クリニック 院長 宮尾 益知

「発達障害」という言葉は、最近は一般的にも使われるようになりましたが、診断は医学で行っても治療を誰がどのように行っているかは定まっていません。教育社会の現場では不十分なままで対応が行われています。ここで小児神経科医として30年以上発達障害と関わってきた私の経験をもとに、臨床の現場から述べたいと思います。

発達障害が我が国で使われるようになったのは、2005年の発達障害者支援法が始まりでした。それまでは1980年のアメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-Ⅲに基づいて各疾患として診断され、就学前に療育施設にて療育を行われていました。

当時の文部科学省の調査によれば、まだ診断のついていない発達障害と思われる子供は、通常学級に6.2%いると見られていました。
私は小児科医でしたが、小児神経科が専門分野で主にてんかんと脳性麻ひ、神経難病を診察してきました。DSM-Ⅲが我が国で認められた時、私の研究テーマは、子供がどのように考え、どのように行動するのかということを脳波とPCを使って分析することでした。知的な遅れがない、今でいうところの発達障害の子供達で研究を続けました。
臨床の現場で学習障害の子供達と出会ってみると、文字の読み違い、逐語読み、正しく書けない、漢字が覚えられないなどが症状でした。教育現場でもきちんと診断をして、教育の対応を行うということはまだ行われていませんでした。詳しく話を聞いてみると、親にも同様の資質を持っている人が多いことに気がつきました。
でも親は同じ資質を持っていても職業を持ち結婚して子供もいるわけですから、障害を克服したということになります。職業としてはシェフ、俳優、アーティスト、建築家の方々などがいました。このような方達は言語で理解することに問題はないけれども、文字で理解することは困難であり、三次元で考えているということがわかりました。
ある室内デザイナーは子供の頃、カエルの絵を描くと、大人から「どうしてそんなに上手に描くの?」聞かれたそうです。
「頭の中に住んでいるカエルを写しただけです」と答えたそうです。私には頭にカエルは住んでいません、言葉で説明し、イメージを作っていくだけです。こうして人はそれぞれの方法で考えていく、すなわち文字と言語で成り立っている現代社会では、障害になるということに気づいた瞬間でした。

発達障害の中には自閉症やアスペルガー症候群の子供たちもいます。私が診察を始めた頃、自閉症の子供は目が合わない、指示が通らない、こだわりがある、時々飛び上がるなど、わけのわからないことばかりしている、知的障害のある子供達と考えられていました。確立された治療もありませんでした。現在では自閉症は、知的障害は必須ではなく、対人社会、社会性の障害に加えて、こだわりと感覚過敏が診断基準になっています。
また自閉症の子供達の中には、だるくて動けない、眠いなどを訴える思春期の女性がいました。診察していくと、ほとんど全てが思春期のアスペルガー症候群でした。女性は思春期になると女性ホルモンの影響で体がふっくらしてきて、水分の貯蔵量も増えてきます。大人になっていく体の変化を理解できないことと感覚過敏があるため、感覚が個々に主張しているため、統制がとれなくなり、身体症状として感じられるのではないかと考えるようになりました。発達障害も成長期の神経の不具合だと考えるようになってから、自閉症の人たちの言葉が、心がわかるようになりました。

では、こういう発達障害の子供達を持った親御さんは、どのように接すればいいのでしょうか。私達はペアレントトレーニングということを行っています。
一番苦労している親の方がグループとして集まってきます。親たちの言葉の中には、自閉症スペクトラムの子供は「家には宇宙人が住んでいる」、注意欠陥多動性障害の親は子供の行動についていけず、朝の支度の大変さから「良いことは1つもない、私の時間を返して」と言う人もいます。
クリニックでは、ここでまず最初に発達障害の特性を伝える。例えば落ち着かない、人と上手く付き合えないなどがどういうことで起こっているのか、そして同年代の親の悩みを共有して、自分だけが苦しいのではないと思うこと、そうして具体的にその子供達を褒めて、望ましい行動に導く方法について学んでいきます。このように行っていきますと、今まで自分1人でやってきたという気持ちが楽になり、ネガティブの声掛けではなく、ポジティブな声掛けを行うようになり、褒めていくと子供がどんどん良くなっていく、そうしますと、子供は可愛いと思えることも実感するそうです。

もう1つの環境である学校現場の先生達とも私は9年間、症例検討会という形でやってきました。やはり学校現場で困っていることは、なかなか伝わってきません。私達のクリニックも含めてですけど、クリニックでは親御さんと対応しています。ですから学校現場を変えるということができるとすれば、私達にとっても素晴らしいことだと思っています。まず私達は、その子供達の症状を聞いていきます。そうしますと、そのお子さんの症状の説明を、私は、その子供の立場になって、どういうことでそういうことをしているのか、例えば歩き回る子供がいれば、なぜ歩き回るのか、学校の勉強がつまらない、体がもやもやする、外に出たいんだけれども外に出ないで我慢している、そういう心をその子供ごとに考えていく、そうすると、その子供達にどう対応するかは自ずとわかってきます。

また、最近では不登校の子供たちがたくさんいます。不登校の子供たちに聞いてみると、学校に行く意味がわからないという言葉が返ってきます。では、私達は学校に行く意味ということを説明できるのでしょうか、学校では勉強できるといっても塾でもできますし、ネットで勉強することもできます。ですから学校の中で行なわれている色んなこと、それの全てに対して、どこでもいいですけれども、そのことに参加することに意義を持つ、例えばテニスが好きな子がテニスをやりに学校に行く、そうすると、時間がもったいないから、ついでに勉強するというような形で説得することは、できるのではないでしょうか。
やはり不登校の子供達を私達は学校に行かせるのではなくて、学校と共に生きることができるようにするように考えています。私達は、こうしてたくさんの子供達を見てきました。

私が一番、日本の国として問題であると思うことは、人は全て能力も違いますし考え方も違います。そのことをお互いに認め合うということがまず重要だと思います。お互いが認め合って、その人が上手くできないことがあれば、それをサポートしてあげる、そうして、もし自分にできないことがあれば人にサポートしてもらう、それは別に障害という言葉で呼ぶのではなくて、色んな意味で人は違っているんだから、総合的に日本の国が良くなればいいと思っています。
まだまだ日本では少子化が続いています。私達が見ている発達障害の子供達が日本の国の中で十分活躍できるような社会になっていくことが、日本の未来を作っていくと思って、私達は毎日、発達障害の子供達を見ています。今日は、ありがとうございました。

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