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「変わるアメリカ 変わらないアメリカ」(視点・論点)

成蹊大学 教授 西山 隆行

先週11月6日、アメリカで中間選挙が行われました。この選挙にはトランプ政権に対する中間評価の意味があるといわれてきましたが、多くの予想通り、政権党である共和党が上院で多数を維持する一方で、民主党が下院を奪還しました。
本日は、中間選挙を通して、アメリカ政治の現状について考えてみます。

この中間選挙は、アメリカが変わりつつあること、それと同時に、変わらぬままにあることを明らかにしました。
今回の選挙で、民主党が下院を奪還する原動力となったのは、女性やマイノリティ、若者です。これらの集団の投票率の高さが民主党に下院での勝利をもたらしました。

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特に変化があったのは女性の投票行動です。今回の選挙では女性票の約6割が民主党に投じられました。2016年大統領選挙で初の女性大統領を目指したヒラリー・クリントンに票を投じた割合より多く、女性の民主党支持傾向が明確になりました。セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有する#MeToo運動が高まり、トランプ大統領の数々の女性蔑視発言や、連邦最高裁判所判事に任命されたブレット・カバノー氏の性的暴行疑惑が問題視される中で、女性の政治参加への意欲が高まったと考えられます。
今回の選挙では、上院、下院共に、過去最多の女性が立候補しました。そして、まだ集計が続いていますが、下院では、過去最高となる100名以上の女性議員が当選する見通しとなっています。11月12日の時点で勝敗が判明している100名のうち、87名が民主党で、共和党は13名であることは象徴的です。
今回の中間選挙では、「初」のつく当選者が多くなったことも変化のあった点です。初のイスラム教徒の女性下院議員が二名、初の先住民族の女性下院議員が二名誕生することになります。

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若者の投票行動も、今回の中間選挙の結果をひもとくカギになります。18歳から29歳の若者の投票率は中間選挙の場合は通例低いのですが、今回は、前回2014年中間選挙の21%から31%に上がりました。CNNの出口調査結果では、彼らの八割がより多くの女性が公職につくべきであり、7割がより多くのマイノリティが公職につくべきだと回答していて、3分の2以上が民主党に投票しています。
女性や若者という、これまで必ずしも政治に積極的に関与してこなかった人々が政治を動かしたことは、アメリカ政治に変革の兆しがあることを示しています。

その一方で、今回も変わらなかったこともあります。それは、アメリカ政治が分断し、二大政党間の対立が依然として続いていることです。むしろ、激化して分断の融和が難しくなっているように思われます。
共和党は今回の選挙でも最終的にはトランプ大統領の力に頼らざるをえないことが明らかになり、白人の政党としての性格を強めました。その白人の中でも、二つが中核的集団となっています。

第一は、製造業が多いラストベルトの白人労働者階級の人々です。製造業に従事していた彼らは、社会的、経済的地位の低下に伴って、アメリカ社会に不満を感じるようになっていました。彼らは、グローバル化と移民、不法移民がアメリカ国民から雇用を奪っているというトランプ大統領の主張を支持し、厳格な不法移民取締りや、自由貿易反対などの立場を示しています。
第二は、福音派と呼ばれる保守的なキリスト教徒です。彼らは、人工妊娠中絶の禁止や同性婚への反対などの姿勢を明確にしており、同様の立場をとる保守派の人物を連邦裁判所の判事に任命すると公約して実施しているトランプを支持しています。

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アメリカでは現在、移民に起源を持つ中南米系などの人口の割合が増大していて、2040年代には中南米系を除く白人の人口比率は50%を下回ると予想されています。そのため、共和党はマイノリティの票を獲得しなければ未来がないと指摘されてきました。しかし、今はアメリカ国民の過半数が白人であることから、トランプ流にマイノリティを批判して、白人の支持を固めるという戦略も短期的には有効なことが明らかになりました。今回の選挙で、ミニ・トランプとでもいうべき、過激な主張をする候補が増えたことが象徴的です。
今回の中間選挙で、民主党が下院で当初期待されていたほど躍進できなかった背景には、経済状態が良かったことに加えて、これら白人男性有権者の底堅いトランプ支持があります。このような有権者の存在を考えれば、以後、共和党が急速に穏健化するとは考えることができないでしょう。

他方、民主党も、今回の選挙で進歩派と呼ばれる人々の存在感が増大しました。進歩派とは、多様性を尊重し、より公正な社会の実現を目指そうとする立場の人々で、格差を急速に是正し、マイノリティのアイデンティティーを尊重することを目指しています。2016年大統領選挙では、民主党はクリントンを支持する穏健派と、バーニー・サンダースを支持する進歩派の対立が明確化しましたが、今回もその対立が顕在化しました。

それを象徴するのが、進歩派のアレクサンドリア・オカシオ・コルテスが、ニューヨーク市を地盤とする穏健派の有力者に予備選挙で勝利したことです。彼女は2016年大統領選挙でサンダース陣営で働いた経歴を持つ活動家で、民主社会主義者を自称しています。今回の当選を受けて、彼女は29歳という史上最年少で連邦下院議員に就任することになります。進歩派の候補は前回の選挙より50%増加したといわれ、民主党を牽引する力になっています。

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今年8月にギャラップ社が発表した調査によると、民主党支持層の57%が社会主義を肯定的にとらえていて、資本主義を肯定的にとらえる人の割合、47%よりも多くなっています。この傾向は、アメリカの富が1%の富裕層に独占されていることに反発した、2011年のウォール街占拠運動に端を発しており、2016年のサンダース旋風につながった考え方です。小さな政府を主張する共和党とは立場に相当の違いがあり、協調は困難です。

また、今回の中間選挙では、民主党は様々な集団がアイデンティティーを主張するアイデンティティー・ポリティクスを重視していました。女性が積極的に政治参加したのは先ほど指摘したとおりですが、最高裁判所の保守化に伴い同性婚の権利を否定されるのではないかと危惧したLGBTの活動家、そして、トランプの移民政策や人種差別主義的発言に反対する中南米系や黒人の有権者も大きな声を上げました。
今回の下院選挙での選挙戦略が、アメリカ全土を選挙区とする大統領選挙で通用するとはいえませんが、今回の選挙によって進歩派が存在感を増したことから、以後民主党は、より左傾化する可能性が高くなったと思われます。

このように、今回の選挙では、二大政党共に先鋭化した主張をする候補や当選者が増大し、中道・穏健派が減少しました。今回の選挙では女性や若者の政治参加が増大するという変化の兆しが見えた一方で、対立の基本的構図は変わっておらず、新たな対立と混乱が生み出される可能性も出てきたといえます。今後、2020年大統領選挙に向けての動きが活発化することになりますが、二大政党が共に極端な候補を擁立することになると、穏健なアメリカ国民の政治不信が一層強くなるのではないかと心配されます。
今後のアメリカ政治の展開に注目する必要があるといえます。

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