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「動物愛護週間 犬や猫を幸福にするために」(視点・論点)

ペット法学会 副理事長 吉田 眞澄

・動物保護法と動物愛護週間
 9月20日から26日は動物愛護週間です。今日は動物が幸せに暮らせるように動物愛護法と動物愛護週間の役割についてお話ししたいと思います。

「動物の保護及び管理に関する法律」は、動物愛護週間を定め、国と地方公共団体は、その趣旨にふさわしい行事を実施するよう努めなければならない、としています。
今年も、動物愛護週間を中心に数多くのイベントが組まれましたが、半世紀近くも続けられてきた行事であるため、ポスター、標語、写真、キャッチコピーの募集、犬のしつけ教室、獣医師によるペットの健康相談など、定番ともいえる行事が指定席を占めるマンネリ化の傾向が見られます。欲をいうと、その時々の社会状況や地域の特性に応じた内容にするなど、制度を最大限活用する積極的な工夫が必要です。

動物愛護週間は、動物愛護と動物を上手く飼育する適正飼養の必要性を広く国民に知らせる役割を果たしますが、それを社会に定着させるために重要なのは、動物に対する日々の具体的な対応です。人と共に暮らし、飼い主のみならず広く社会に影響を及ぼす犬と猫への対応は特に重要で、現在の動物愛護法の内容が、さながら「犬猫の愛護と適正飼養に関する法律」になっているのは、そのような実態の反映とみることができます。

・動物保護法の流れと現在の課題
そもそも最初の動物保護法制定には、捕鯨の問題に絡めイギリスの動物愛護団体から「日本は動物虐待の横行する先進国にあるまじき国」等と批判されたこと、特に皇室外交の場で我が国の動物保護に関する状況が話題にされた事態に対処しなければならないとの危機意識が強く働きました。当然、保護の対象は犬猫に留まらず広範囲に及びましたが、実施体制や予算など、実効性について重大な欠陥を抱えていました。そのような状況が25年近くも続いたのち神戸の「酒鬼薔薇事件」が発生し、犯人の少年の行った動物虐待の酷さとの関係で罰則が軽微に過ぎるとの批判が高まり罰則強化の流れが一気に広がり、その後の三度にわたる法律改正を通じ罰則が強化されて現在に至っています。また、動物愛護法は、改正の度にペット、特に犬と猫に軸足を移してきました。子犬や子猫が上手く独り立ちできるようにブリーダーやペットショップへの規制を含めて強化してきました。その点では、実際上もかなりの成果を上げてきました。しかし、現在の状況はまだ過渡期にあるので、まだ改善の余地はあります。動物取扱業者について自由主義の大原則に従い自由に営業できることを基本にする登録制を維持するか、動物保護と飼い主支援の視点から営業の自由を認めず、許認可制度に変更するのか、いま進められつつある四度目の法律改正に関連し、最も重要な争点の一つになっています。いずれにせよ、これまでの動物保護法は、飼養される犬や猫が良好な心身の状態を維持し、飼い主と共に心地よく過ごせる内容にすることを視野に入れ、動物取扱業者、特に犬や猫の繁殖と流通にかかわる業者に対する規制を行ってきましたが、最も長く一緒に暮らす飼い主についての規制は、規制の内容についても、実効性についても、多くの課題を残しています。
例えば現在、一定の大きさのケージに入れて同伴することは多くの公共交通機関で認められていますが、リードにつないだだけの利用は身体障害者補助犬以外認められません。欧米先進国の状況などを見ると、日本でも犬同伴の利用方法につき長期的視点に立って検討する必要はあります。

・犬の社会進出と受入れの条件
 ヨーロッパやアメリカの大都市に行くと、街の中心部でも非常に多くの犬に出会います。また、祝祭日などには、ドッグランの利用が多いのは当然のこととして、中心部に向かう公共交通機関や広大な公園内の広場などでも非常に多くの犬を見かけます。我が国に比べ大型犬や中型犬が比較的多く見られますが、その多さに比べ、トラブルはそれほど多くないのが実情です。社会全体の仕組みがそれに対応できるようにされていることに加え、飼養の有無、好き嫌いなどの立場の違いにかかわらず、犬の性質や犬に対する接し方をよく知っているのです。飼い主は、リード装着やリードの長さ調節などをよくわきまえています。排せつも、以前は非常に悪い状況も見られましたが、現在は、見違えるほどよくなりました。それらを総合すると、身体障害者の補助をする補助犬の仕事ないし役割の部分の訓練が行われていない犬を想像していただければ、状況をよく把握できます。飼っていない人も、不用意に犬に接することはなく、飼い主の了解を得たうえ、犬が驚いたり不愉快な思いをしないように配慮と工夫をしながら接しています。ドイツ人の友人の中に、動物を飼養した経験がない人もいましたが、犬や猫に対する接し方をよく知っていました。また、自分の子に対し、接し方を教えている場面に出くわしたことも多数あります。一種の社会常識として家庭教育の場でペットに対する接し方を教えているのです。人を家に招待する機会の多い欧米社会では、訪問した家庭での客のペットへの接し方次第で会話がスムーズに進むことも少なくありません。今では家族の一員として非常に大切な存在になったペットは、ほかの人にとっても重要性を増しつつあることは間違いありません。要は、社会がその変化を十分認識し、それぞれがどのように対応するか、よく考えることが大切です。
 動物愛護週間は、一年三百六十五日からすると、非常に短い期間です。個々の行事はさらに短く制約もあります。また、参加できない人もいます。そのような人も、動物との共生の在り方についてはいつでも考えられ、実践することもできます。そのきっかけを動物愛護週間が作れるとすれば、その存在意義は非常に大きなものになります。



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