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「超高齢社会での大学の新しい役割」(視点・論点)

順天堂大学 名誉教授 佐藤 信紘

日本は世界に先駆け少子超高齢社会に突入しました。多くの問題が顕在化しています。社会保障や老後や病気への不安、一人住まいや孤独死、介護問題などです。また、平均寿命と健康寿命のかい離も深刻な問題です。

団塊世代は、現役時代の無理がたたり、肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病などの、メタボ・生活習慣病が多く、また、関節や筋肉が弱るロコモ症候群やフレイル、さらにがんや認知症、寝たきりなど、心と体のあちこちに障害を抱える人たちが増えています。これらの病を予防・克服して、多世代が元気で活気ある社会を持続させ、幸福な人生、「Happy Aging」を全うするにはどうすればよいのでしょうか?

最近、IT、AI、ロボットなどの技術開発が急速に進み、大学を取り巻く環境も大きく変わりました。大学が地域や国際社会と交流し、そのニーズに応えることが要請されています。

私が勤務する大学は永年産学連携を進めてきました。私の研究講座では、ある不動産企業と連携して、人の成長と加齢・老化に関わる老年学ジェロントロジーの研究と実践に取り組んでいます。

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企業が2、30年前に開発した団地の活気ある持続と、高齢者施設入居者の健康長寿、Happy Agingを目ざして、大学から外に出て、地域社会に貢献する取り組みを始めています。

2つの目標があります。1つは個々の住民が健康で幸せに生きることです。もう1つは、持続可能な地域コミュニティーの創造です。そのために次の3つが重要です。
1つは、住民が主体となることです。自治会長などのリーダーたちがまとまり、地域の資産を生かして、多世代の協働・共助、そして生涯学習を続けることです。
2つ目は、大学アカデミアと開発企業デベロッパーが連携して、双方のリソースを活用し合い、有償無償の支援を行うことです。
3つ目は、国や地方公共団体と連携して、行政の制度的・資金的な支援を得ることです。

私達の大学の現在の取組みをご紹介いたします。

医学や看護学部は、医療・看護の提供により、住民の健康を守ります。
救急医療や総合診療、さらに高度専門医療への道を作り、ICT活用による自宅での腹膜透析など、出産育児中の女性医師が、自宅で対応可能な遠隔医療や、予防医療、未病検診などに貢献するのです。

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また、スポーツ健康科学部は、住民の体力調査や姿勢や歩行、体操や運動の指導を行い、筋肉や関節が障害されるロコモ症候群を予防し、認知症や寝たきりの予防に努めます。

また、大学は食事やサプリメントなど栄養指導や、神経免疫系と密接な関連を有する腸内細菌の分析などを行います。
さらに大切なことは、大学の専門家から最先端の科学知識を学ぶことで、住民の知的興奮を呼び起こすことです。地球環境やエコロジーと生命現象の関係や、腸内細菌と感染症との関連性、さらに頻発する災害を防ぎ、安心・安全な街・住まいつくりを学ぶのは、とても大切なことです。
          
さらに、具体例をご紹介します。
一つには、医療や看護、スポーツ健康科学部の大学人が、高齢者施設などコミュニティーに向かい、講座を開き、専門知識リテラシーの向上に努めています。また、各学部間の協働により、高齢者施設でロコモ予防体操やカイロプラクティックなど、「健康プログラム」を導入し、成果をあげています。

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例えば、高齢者では椅子から立ち上がりにくくなり、歩幅も小さくなりますので、低い椅子からの立ち上がりテストや歩幅の計測を行い、体操や運動、栄養などの効果を、定期的にチェックするのです。

また、国際的な展開も進めています。ジュネーブのWHO本部に、本学から派遣した女性医師は、世界の高齢者のための健康維持とケアのありかたについての、WHO初のガイドライン作りに参加しています。

そこでは介護する人への支援の重要性、つまり介護する家族の苦労を減らすには、第三者が関わることの重要性を取り上げています。
一方、学生や大学院生を含む教育・研究分野でも、コミュニティーとより関わる研究や、学びの手法等を導入しつつあります。

最近本学は、デベロッパーおよび自動車企業と3者連携協定を結び、開発団地のsustainabilityと、国連がいうSDGsを目指しています。自動運転車、1人乗り自動車、歩行支援ロボット、AED機器のドローン搬送など、安全で楽しく住める環境づくりを支援しています。
こういう取り組みには国や行政の制度的、資金的な支援と協力が必要ですが、大学は、CCRCとよばれる「高齢者が健康なうちに入居し、終身過ごせるコミュニティー」作りに、深く関わっています。

Happy Agingを目指す、人・街創りにはどのくらいの規模のコミュニティーがよいのでしょうか?私は一つの集落規模、2,30人から100人位が望ましいと考えます。ゴルフや水泳・ウォーキングなどのスポーツクラブ、園芸や料理・絵画・書道・写真などの生活文化クラブを設け、さらに生涯学習講座を開いたり、ボランティア慈善活動を行います。

先進国の政治の女性リーダーのように、私たちが交流する団地では既に、多くの女性リーダーが活躍しています。
私達がかかわる高齢者施設の多くは女性がリーダーです。そこでは、一人住まいであっても、女性がリーダーだと、特に80歳以上の男性では、幸福度が高くなるという調査結果を得ています。日本女性は、世界第2位の平均寿命を誇り、健康寿命も長く、世界の高齢社会の生活モデルの主役になり得ます。

自分の趣味だけではなく、人に役立ち、喜ばれる、何らかの働きを果たす、そういう「利他心」を持つことが、高齢社会では大切だと思います。

最後に、超高齢社会で何を目指すべきでしょうか。「平均寿命」だけではなく「健康寿命」の延伸は当然のことですが、たとえ病気であっても、幸せに生きる「幸福寿命社会」の実現を、私は提案します。人は、命ある限り日々「動き・楽しみ・人を喜ばせる」ように生き、自らを高めていく存在です。

大学アカデミアとしての新しい役割の一つが、分かってきました。それは、「利他心の人・街づくり」のお手伝いであり、共に実践することです。

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そこには、多世代が集い、協働・共助の街創りを行い、健康・文化・芸術、さらに学問を楽しむ、世界のモデルとなる生き方が見えてきます。そして、その先には、「老年的超越」という、人・物・事象・自然、すべてに感謝しつつ生きる、幸せな生き方が見えます。

共生や多様性を大切にして、地球環境・生態エコロジー、自然の営みを理解し、受容して、克服する姿勢こそが、地球の進化の中で生物が、いや、人間が進化・成長してきた証だと思います。
今こそ、大学が古い殻から脱皮し、企業や行政と深く連携し、地域社会を持続的に活性化させる、この新しい道を、皆で進めていきたいと思います。

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