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「新しく社会の入り口に立つ君たちに」(視点・論点)

早稲田大学 名誉教授 岡澤 憲芙

社会の入り口に立って実感できるのは、新しい希望や期待と同時に新しい不安感だと思います。
《自立》自ら立つと《自律》自ら律する、という言葉を聞かれると思います。
《自立independence 》とは、経済的自立と精神的自立・精神的独立で構成されます。また、《自律autonomy》は自己選択・自己決定・自己投資・自己責任で、構成されます。
何れにせよ、《自分で決めること》、《自己決定力》が、これから何度も何度も求められてきます。
就職するか進学するか、どの学校に行くか、どんな仕事につくか、誰と、いつ、結婚するか、子供を生むか、何人子どもを生むかなど、これからの人生は、《決定の連続》です。

こうした決定の一つに、市民の賢明さが要求される決定があります。つまり、《政治的決定》です。衆議院議員選挙、参議院議員選挙、都道府県知事選挙、市町村長選挙、都道府県会議員選挙、市町村議会議員選挙、など、これから何度も経験することになります。《選挙参加に伴う政治的決定》は、重要です。政治とは「社会のための価値の権威的配分」といわれます。人びとが追求する価値や利益や欲望、たとえば、富やカネ、地位やポスト、安全や安心、福祉や医療のあり方、教育制度、のあり方など、人生の全てにかかる決定を行なう機能です。そうした決定を私たちに代わって行なうリーダーを選出する機能が《選挙機能》です。
 有権者が代表者を選出し、選挙された代表者が、市民に代わって決定を行なう仕組みを《代議政治》といいますが、私たちの代表者が決める決定は、権威的です。政治とは社会のための《価値の権威的配分》行為であるといいましたが、《権威的》とは決定が私たちを《拘束する》ということです。
例えば、この道路は制限速度50キロと決定されたら、70キロで走ることは禁止されますし、罰金の対象になります。
それほど重要な選挙に市民が参加できるようになるまでに長い時間と忍耐強い努力が必要でした。
 民主的選挙の条件は、普通・平等・直接・秘密選挙です。「一人一票・等価値」が原則です。長い長い時間が必要でした。
 1874年1月、板垣退助、らが、政府に対して国会開設を要望した民撰議院設立建白書を提出しました。 同時に、日本最初の政党が誕生しました。《愛国公党》です。
また、大隈重信を中心にした《立憲改進党)が結成されたのは、1882年4月でした。
 議会政治、政党政治、責任政治制へ向けてスタートを切ることになりました。そして遂に、大日本帝国憲法が1889年2月に公布され、1890年11月に、第一回帝国議会が開設されました。
 今から約120年前、第一回帝国議会選挙が実施された時、政治に参加できたのは、直接国税15円以上払う25歳以上の成人男子だけであった。僅か450872人でした。全人口の0.9%か1%でした。それから年齢が少しずつ下げられ、1945年には、女性に参政権が与えられ、選挙デモクラシーは拡大をつづけて来ました。18歳選挙権でようやく、世界標準に近づいたという印象があります。
 ところで、現行の《選挙デモクラシー》には、幾つかの問題点があります。
一つは、一票格差の問題。第二は、女性の過少代表の問題。つまり、男性の過剰代表の問題。第三は、被選挙権の解りにくさの問題。第四は、政治家のなり手がいなく、無投票当選が増えていという問題です。
 一票格差の是正については、代議制民主政治の《正当性》《妥当性》の根幹になる問題です。常に《待ったなし》の問題です。グローバル化の時代、産業構造は激しく変化するでしょうし、交通移動手段の革命的進展で、人口流動化はとどまらないでしょう。一票格差を解消するには、常に選挙区境界線を動かすか、比例代表制を導入するか、議員定数を柔軟に解釈するか、でしょう。知恵の出しどころです。
 第二の男性の過剰代表の問題は、最終的には有権者が決めることになります。平均寿命は男性に比べて女性の方が6歳ほど長いです。その分だけ、総人口でも、有権者でも、女性が過半数の国です。ところがルールを決める場には女性が非常に少なくなっています。衆議院でもわずか10パーセント程度です。これでは、《納得度の高い政治》は望めないかもしれません。
 第三の《被選挙権の分かり難さ》も納得度を下げています。現行制度では、衆議院議員、市町村長、都道府県議会議員、市町村議会議員の被選挙権は、25歳。  参議院議員、都道府県知事の被選挙権は、30歳です。
例えば、人口300万人の大都市の市長は25歳でなれるのに、70万人の県の知事には30歳までなれない。これも、理屈はともかく、分かりにくい。《選ぶ能力》があれば《選ばれる能力》もあると考えるのが自然であり、納得度も高いと思います。
 最後に、特に地方政治で、議会政治の形骸化や、《市民離れ》が進み、遂には、候補者が不足し、無競争選挙が増えているという事態が進行しています。議場を過剰に《神聖化》しすぎて、市民生活の変化に柔軟に対応する努力が不足しているかもしれません。
議会や議場を市民に向けて出前する努力があっても良いのではないでしょうか。
市民が集まりやすい時間や場所で議会を開き、議論を見せても良いでしょう。
市民や住民に《見せる努力》がなくて、信頼回復は難しいでしょう。
 こうした問題を解決し、代議制民主主義を充実させて行くのは若い世代の力だと思います。成人の日の今日、改めて、皆さんに期待致します。扉を開けるのは、《自立》自ら立つと《自律》自ら律する、そして《意思決定力》です。
《倫理観》、《責任感》が大きく、《政策能力のある》リーダーが欲しいという希望が良く聞かれますが、《清潔で》、《政治力のある》政治家は、ただ天に祈るだけでは生まれてきません。皆さんが選び育てることです。

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