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「若年『フラリーマン』と『帰宅恐怖症』」(視点・論点)

夫婦問題カウンセラー 小林 美智子

最近、働き方改革などで早く帰宅できるのに、街中をフラフラするフラリーマン、家に帰れず街中をさまよっている帰宅恐怖症の30代40代の男性が増えてきています。フラリーマンという言葉は、ある社会心理学者が著書の中で「家庭を顧みなかった男性が、定年を迎え、家庭での居場所を失い、夜の街をフラフラとさまよう姿」から名付けた造語です。以前は定年前後でしたが、いま起こっているフラリーマンは若年化していて、仕事や子育てに一番忙しい30代40代で起こっています。

では今、若年フラリーマンにどんなことが起こっているのでしょうか?まっすぐ家に帰らない理由を、私がカウンセリングをしている男性相談者に聞いてみました。
・まっすぐ帰って、家事や育児に協力しようとしても、妻には妻のやり方があるらしく、やったらやったで文句を言われ、やらなければやらないで文句を言われ、どうしたらいいのかわからず、早く帰宅することを避けてしまっている
・まっすぐ帰って、妻から、あれやれこれやれと、指示されることがイヤなのと、仕事で疲れ切っているため、何もやりたくないから
・子どもの寝かしつけが大変だから、子どもが寝ついた頃に、遅めに帰るようにしている
・妻は、自分のペースを乱されると、イライラするため、ゆっくり帰るようにしている
・家にまっすぐ帰っても、ゆっくりお酒も飲めないし、落ち着かないから
・家にまっすぐ帰っても、チャンネル権は子どもだし、居場所もないような気がする
などなど。

では、若年フラリーマンはどうして増えているのでしょうか?
・夫の間違った気遣い
・居場所がない
・ひとりの時間が欲しい

ひとつずつ、ご説明します。
夫の間違った気遣い、というのは、たとえば、妻から「子どもがせっかく寝ついたのに!」と小言を言われ、夫としては、気を利かしたつもりで、いつも10時過ぎに帰るようにしていた。など、妻に確かめることなく、妻のために良かれと思ったことを、気遣いのつもりでしてしまうということです。ただ、このように、夫が妻のために、良かれと思ってやっている行為は、残念ながら、ほとんど的外れなことが多いのです。
「子どもの寝かしつけが大変だから、遅めに帰ろう」という場合も、ちゃんと話し合いをすれば、お互いに納得できて、相手への怒りもなくなります。ところが、なんの話し合いもせずに、夫の判断で、遅く帰宅することで、夫自身も、なんとなく惨めな想いをするようになったり、妻もひとりで子育てしているような気持ちになり、夫への不満を溜め込む結果になってしまいます。まずは、妻が本当は何を望んでいるのかを聞くことが大切です。いわば、妻の心の扉を叩く、ノッキング行動と呼ぶのですが、それを行った上で、現状をキチンと把握して、子どもさんの成長とともに、どう向き合っていけばよいのかを、夫婦で、こまめに話し合うとよいでしょう。
居場所がない、というのは、家事や子育てが忙しくなると、妻は、ついつい夫より、子ども優先になってしまいます。チャンネル権も子ども、食事も子ども好み、お酒を飲むとイヤな顔をされる、みたいなことが続くと、居心地が悪い=居場所がない、と感じてしまいます。男性は居場所がないと感じると、その場からキョリを置いたり、自分の居場所を探す傾向がありますが、今、ココでキョリをとってしまうと、妻から「家族に関心のない冷たい夫」と思われてしまい、あとあと後悔することもあります。
自分の居場所は、妻に作ってもらうものではありません。忙しい妻の姿を、ちゃんとみることによって、自分にできることを探して、父親業にチャレンジしてみましょう。家庭は参加することに意義があるのです。
ひとりの時間が欲しい、というのは、忙しい仕事から解放され、家に帰ってきたら、家事や子育てなど、次から次へとやることが出てくる。お互いに忙しいから、ついついお互いにイライラしてしまう。そんな、イライラした妻を見て夫は「妻のペースを乱して、妻をイライラさせてしまうなら、ゆっくり帰ったほうがいいだろう」などと、自分にとって都合のよい解釈をして、あたかも、そうすることが夫婦円満の秘訣のように思い込んで、フラリーマンになってしまうこともあります。
時間に追われてしまうと、誰もが、ひとりの時間がほしくなったり、のんびりしたくなるものです。でも、よく考えてみてください。夫婦2人いるのに、時間に追われて、忙しくてしょうがないのに、夫がいないと、夫の分まで、妻が大変になってしまうことは、一目瞭然です。このような場合、子どもさんが小さければ夫婦会議、子どもさんが参加できそうなら家族会議をすることをおすすめします。効率的な家事分担や、家族で協力し合えることなど、男性がリーダーシップをとって決めていくといいでしょう。
大変な時に、家事や子育てに関わらないと、子どもさんがだんだんと、手がかからなくなってきた頃、男性は、家庭内で孤立してしまうこともあります。
若年フラリーマンの行き着くおそれは、家庭内孤立だけではありません。帰宅恐怖症や、離婚へと発展してしまうこともあります。
では、なぜ、若年フラリーマンから帰宅恐怖症や離婚へと発展してしまうのでしょうか?妻は、自分が大変なとき、夫は何をしてくれて、何をしてくれなかったかを、ず~っと覚えています。覚えているというよりも、忘れられないのです。そのため、夫にイラッとしたときなど、芋づる式に、今までのことを思い出してしまい、妻は夫に対して、責め口調になったり、攻撃的になったり、不機嫌な態度をとったり、ということを繰り返してしまいます。すると夫は、妻=家、が怖くなり、帰宅恐怖症になってしまう場合もあるのです。
また、妻が夫のことを諦めてしまった場合、夫を無視したり、相手にしなくなり、家庭内別居状態になり、寂しい老後を送ることになったり、いずれ離婚に発展してしまうこともあります。夫が何気なくとった行動、良かれと思ってとった行動が、妻に誤解されてしまうこともあるのです。

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家事や子育てが、ものすごく大変な時期は、期間限定です。その数年を、まずは、乗り切ることだけを考えましょう。どちらか一方の、負担が大きすぎた場合、必ずひずみが出てきます。また、時間に追われ、ひとりで頑張らなければならない状況になると、女性は心に余裕がなくなり、子育ても完璧を目指すようになり、より子どもに厳しくなる傾向があります。子育てを、夫婦2人で協力することによって、心に余裕が生まれ、のびのびとした子供に育つのです。
お互いに惹かれ合い、ご縁があって結婚しました。たとえ、今、若年フラリーマンであっても、まだまだ、間に合います。お互いの考え方の違いを理解し合い、コミュニケーションの取り方を工夫すれば、きっと、家庭に帰れる幸せを、手に入れることができるでしょう。

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