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「気候変動 COP23の成果と課題」(視点・論点)

国立環境研究所 社会環境システム研究センター 副センター長 亀山 康子

地球温暖化問題、あるいは気候変動問題への国際的な対応を話し合うため、今月11月 6日から17日までの2週間、ドイツのボンで、COP23、国連気候変動枠組条約第23回締約国会議が開催されました。今日は、この会議の概要や、気候変動問題の今後の見通しについてお話しします。

気候変動枠組条約ができてから23回目の締約国会議という意味ですから、もう20年以上も議論を続けてきたことになります。
この間、気候変動という問題に関する知識や、以前と比べて確かに集中豪雨などの被害が増えたような気がするといった実感は、国内でも広まっています。しかし、今でも対策は不十分で、このままでは将来深刻な状況に至る可能性が高いという危機感は、いまだ十分に共有されていないように思われます。

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進行し続ける気候変動に対処するために、2年前の2015年にパリ協定が採択され、1年前に発効しました。パリ協定は、親条約である気候変動枠組条約の下に位置づけられます。今からちょうど20年前に京都で開催されたCOP3で採択された京都議定書は、当時主要排出国だった先進国だけに温室効果ガスの排出削減義務を課していました。しかし、その後、アメリカが京都議定書への不参加を決め、また、多くの新興国が経済成長とともに排出量を増やしたため、すべての国が参加する新たな枠組みが必要となりました。この結果として、2020年以降はパリ協定の下ですべての国が対策をとることになりました。

パリ協定は、取り組みにむけた第一歩とはなりましたが、これで問題が解決したわけではありません。すべての国が気候変動問題を喫緊の国際問題と認識し、対策に向けて努力するということには合意していますが、今までの対策が不十分だったために、気候変動はすでに進行しつつあり、もはや、被害を完全に避けることはできない水準まで来てしまっているためです。今、話し合われているのは、気候変動を食い止められるか否かではなく、温かくなり続ける速度をどれほど遅らせられるか、また、すでに生じてしまった気候変動による被害をどれほど抑えられるかという点です。

人類や地球上の生態系にとって危機的な被害とならない水準として、パリ協定では、200年前の産業革命前からの気温上昇幅を2℃あるいは1.5℃以内に抑えることを目標としています。しかし、今年の1月から9月までの世界の平均気温は過去30年の平均より0.5℃近く高く、産業革命前と比べると約1.1℃上昇しています。結果、今年は、過去最高を記録した昨年に次ぐ2位か3位の高温となる見込みです。

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こちらは、UNEP、国連環境計画がCOP23直前に公表した報告書に示されたグラフです。
図中の網掛けの部分は推計値の幅を示しています。この図にあるように、世界の温室効果ガス排出量は、増加傾向にあり、何も対策を取らなければ今後も増え続けると予想されています。現行の対策をとり続けた場合でも、その傾向はほとんど変わりません。気候変動の悪影響を抑えるために必要な水準である、産業革命前と比べた気温上昇幅を2℃や1.5℃に抑えるという目標に至るためには、今からすぐにでも世界の総排出量を減少傾向に変えていかなくてはなりません。パリ協定に基づき各国が自ら設定した2030年近辺の目標値を合計した総排出量は、少しは減りますが、2℃目標に至るために必要な削減幅と比べるとまだ不十分ですし、1.5℃目標に至っては、ほぼ達成不可能に近い状況にあります。

このように不十分な状態への対応を来年のCOP24で話し合うことが決まっていたのですが、その場で話し合うだけでは効果的な結論に至らないため、今後、いつ、誰がどのような情報を踏まえて話し合うかという工程表がCOP23の議題となりました。その結果、来年1月から定期的に話し合いを進め、COP24では閣僚級会合を開催することが決まりました。

今回のCOPで注目されたのは、アメリカの対応です。トランプ大統領が気候変動問題に懐疑的であることは以前から知られていましたが、予想どおり、今年6月1日、パリ協定からの離脱を表明しました。パリ協定の規定上、正式に離脱が可能となるのは2020年11月、次の大統領選挙の翌日となりますので、その選挙ではパリ協定が争点の一つとなると予想されています。
アメリカ政府代表団の人数は大幅に減りましたが、交渉には参加し、発言もしていました。パリ協定からは離脱しても、その親条約には加盟し続けていますし、3年後の選挙の結果次第では、離脱しない可能性もあるため、交渉に参加し続けているということになります。

他方で、より多くの関心を集めたのは、アメリカの中でもパリ協定を支持し、排出削減対策を推進していくべきだと考えるグループの参加でした。

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トランプ大統領がパリ協定離脱を表明した直後から、離脱に反対する声が国内のあちこちから聞かれるようになりました。パリ協定に残るべきだと考える自治体や企業、大学などが「we are still in 」、私たちはまだ参加している、という団体を構成し、国とは別の道を歩み始めました。COP23では、主な交渉会議場の外に独自の大きなパビリオン会場を建て、毎日多くのイベントを開催していました。この活動の中心となっている人物の一人、カリフォルニア州ブラウン知事は、「州や都市や企業の協力で、やるべきことを実行できる」と主張しました。いまやこの団体には、20の州、110の都市、1400を超える企業など合計2500以上の主体が参加しています。全部あわせるとアメリカの人口や経済規模の半分以上を占めることになり、日本やドイツを大きく上回る規模となっています。

今回のCOPは、人間社会の基盤であるエネルギーが過渡期にあることが示された会議だったといえます。20世紀は、石油や石炭などの化石燃料を大量に消費してゆたかになった時代でした。このような人類の生き方が、地球環境にとっては持続可能でないことを示したのが気候変動問題です。
21世紀に入り、再生可能エネルギーなどの新しいエネルギーを基盤とした社会に切り替えることで、新たな経済活動を生み出すという考え方が広まり始めました。「今世紀末までに排出量を実質ゼロにする」というパリ協定の目標が合意された背景には、このような流れがあります。ただ、アメリカ大統領の支持基盤に象徴されるように、現在ではまだ20世紀型の社会基盤に依存し続けている国や地域があり、21世紀型社会への転換にブレーキをかけているのが現状です。
来年COP24は、ポーランドのカトヴィツェという石炭の産地でもある工業都市で開かれます。ポーランドはエネルギー消費量の多くを石炭に依存し、欧州の中でも気候変動対策に消極的な国です。このような国があえて自国の炭鉱の町にCOP24を招致するのは、厳しい対策を求める決定を回避するよう働きかけるためとも言われています。
このように、気候変動対策が有利に働く人々と、不利になってしまう人々との間のせめぎあいは、今後もしばらくは続くでしょう。しかし、長い目で見れば、温暖化は確実に私たちの生活に被害を及ぼすようになっていますし、温暖化対策は確実に私たちに新たな機会を与えてくれるようになっています。
日本でも、長期的な展望から気候変動対策を議論する必要があるのではないでしょうか。

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