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「自殺願望 ~交流サイトの闇~」(視点・論点)

フリーライター 渋井 哲也

神奈川県座間市のアパートの一室から男女9人の遺体が発見され、そのアパートに住む白石隆浩容疑者が死体遺棄と殺人の疑いで逮捕されました。被害者の中には、高校生もおり、自殺願望があったと言われています。大半の人たちとはTwitterを通じて知り合ったと言われています。

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2014年くらいまで、ユーザーは急速に増大し、いまや全世界で3億3千万人、そのうち、日本では4500万のユーザーがいると言われています。
Twitterは、一人で複数のアカウントを持つことができます。例えば、家族や、学校・会社の友人とつながるためのアカウントがあります。それを「本垢(あか)」とか、「表垢」などと呼ばれます。日常の場面を投稿します。  それに対して、友人らにはなかなか見せられない話をつぶやくアカウントがあります。「裏垢」と呼ばれています。コアな趣味を持っている人は「趣味垢」でつぶやきます。今回のように、「死にたい」などとつぶやくのは、「病み垢」と呼ばれるアカウントです。
では、「死にたい」にはどんな意味があるのでしょうか。死にたい自分をどうにかしてほしい、という気持ちから、話を聞いてほしいというSOSの叫びだったりします。あるいは、勉強で疲れたという意味であり、自殺願望とは遠い気持ちの表現もあります。言葉にできない不安を「死にたい」に託すこともあります。

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「死にたい」や「自殺」といったキーワードを検索して、つながることもできます。そして、より広くつながるためには「#=ハッシュタグ」と呼ばれる記号をつけます。検索をしなくても、ハッシュタグをつけた文字をクリックすると、同じ文字を書いている人を見つけることができます。
いずれにせよ、「死にたい」は、発信者の中にある、生きづらさを示しています。生きづらさを表現する人たちが欲するのは「共感」です。気持ちを理解してくれると思える誰かとつながることで「つらいのは自分だけじゃない」と安心したり、癒やされるのです。また、交流することで気持ちが整理されることがあります。友達や恋人になったり、結婚する人もいたりします。
ただし、Twitterを含むSNS・ソーシャルネットワーキングサービス上で、どんな相手と巡り合えるかは偶然の要素が大きいのです。ナンパや犯罪目的など、悪意のある人が近づいてきた場合は、途中までは判断できません。なぜならば、悪意のある人たちも共感をよそおって近づいてくるからです。

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インターネットをきっかけとする犯罪被害は、出会い系からSNSに移っています。18歳未満の子どもが犯罪の被害にあうのは、出会い系サイトが多かったのですが、平成20年以降、コミュニティーサイトに起因する被害が増えています。最も多いのがTwitterと言われています。
今回の事件では、被害者は容疑者に会いに行きました。被害者が何を期待していたのかはわかりません。しかし、話を聞いてくれる人として、共感してくれた人として、あるいは、目的を果たしてくれる人として、一定の信頼感を得ていた可能性があります。
なぜ信頼することができたのでしょうか。Twitterには、他のユーザーには見えない形で、特定のユーザー同士でやりとりができるダイレクトメール機能があります。そこで直接やりとりし、個別の事情や気持ちを聞くことができます。また、そのやりとりが多ければ多いほど、つながりを感じることができます。短時間でつながる「即レス」では、よりつながることが実感できます。「死にたい」とつぶやく人は、日常で孤独を感じている場合があります。孤独があるほど、共感して、つながっている相手には気を許してしまいます。信頼関係が生まれるのです。ただし、危険と知りつつ、容疑者と会いに行った人もいるかもしれません。自殺願望を持っている人の中には、自分を大切にできない心情があるために、自らを危険にさらすことがあるのです。自傷行為に似ています。
今回、容疑者と接点のある女性を取材することができました。その女性は、小学生のときに初めて「死にたい」と思い、何度も自殺を試みた経験がありました。精神科にも通いましたが、相性のよい主治医に出会えませんでした。そんな時、Twitterで白石容疑者とつながりました。しかし、入院中と伝えたために、白石容疑者は彼女を誘わなかったのです。また、性的被害を受けて、自殺願望を抱いているときに、つながった10代の女性もいました。二人ともまだ自殺願望が強く残っています。
これまでも、自殺をめぐるインターネット関連事件がありました。

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1998年には、毒物配送事件がありました。メンタルヘルスの相談に乗っていた男が、重度のうつ病の人に対し、青酸カリを配送しました。「今すぐ死ねる薬があれば、すぐには死なない」と思っていたからです。しかし、配送した人のうち、一人の女性が飲み、亡くなってしまいました。それを知った男も服毒自殺しました。集団自殺を呼びかける「ネット心中」も社会問題になりました。一番最初は2000年に起きたとされていますが、連鎖したのは2003~2004年のときでした。その中でも、2004年10月に、男女7人が亡くなった自殺がありましたが、呼びかけ人の女性のことは以前から私が取材をしており、集団自殺を呼びかけていることを直前に告げられたことを覚えています。2005年には、自殺願望者を利用した殺人事件が起きます。死にたいと思っていた男女3人を呼び出し、殺害したのです。自殺系掲示板を犯罪目的で悪用した事件として、社会に衝撃を与えました。SNSで「死にたい」と書いたことで殺人事件に発展したことがありました。07年、SNSの一つであるモバゲータウンの日記で女子高生が「死にたい」と書きました。それを読んだ男と実際に何度か会って、殺害されたのです。そして今年9月、Twitterで知り合った男女3人が集団自殺を計画。女性2人は死亡しましたが、男は意識がもうろうとした状態で発見され、自殺ほう助で逮捕されました。

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事件が起きるたびに、ネットを規制すべき、との話が出てきます。そのため、自殺や犯罪を助長すると判断できた場合、書き込みやサイトそのものを自主的に削除することになりました。また、SNSで直接やりとりができる「ミニメール」で個人情報のやりとりを規制したのです。Twitterは、こうした取り組みがなされたあと、特に、震災後にユーザーが増えたSNSでした。もちろん、規制には賛否両論があります。Twitter社は、今回の事件を受けて規制を強化しました。理想的には、「死にたい」と言える社会がよいですが、実際には自殺を口にすることがタブー視されています。言えたとしても、必ずしも適切な対応を取ることが難しいのが現状です。一方で、はけ口として、関心がある人同士がつながり、癒やされることもあります。ただし、悪意のあるユーザーを見極め、排除することは難しいかもしれません。それでも、私は、「死にたい」と言える場の確保はしたほうがよいと思っています。
昨年、自殺対策基本法が改正されました。今回の事件では若年世代が犠牲になりましたが、学校でも自殺予防教育を推進することになっています。子どもたちのSOSの出し方教育が注目されています。と同時に、周囲の大人がSOSをどう受け止めるかも問われているのです。

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