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「『技能実習法』施行 外国人労働者受け入れは」(視点・論点)

首都大学東京 教授 丹野 清人

11月1日から「技能実習生法」が施行されました。これまで、実習生をめぐっては、パスポートの取り上げ、強制貯蓄、不払い、さらにはセクハラやパワハラなどの問題があるとされてきました。覚えていらっしゃる方もおられるかと思いますが、2013年3月には広島のかき養殖業で、技能実習生が日本人の経営者と従業員を殺傷するというような事件も発生しています。これまでにも技能実習生が実習先経営者を殺傷するという事件は複数発生しており、これらの事実からは外国人技能実習生が厳しい環境のもとで実習という名の労働に就いていることがうかがわれます。

その外国人技能実習制度が新しいものとなりました。今回の注目ポイントはおもに3つあります。第一に、一度帰国したあと、再来日して2年間の再技能実習が可能となりました。第二に、これによって、これまで3年までとされてきた最大実習期間が5年まで可能となったこと。そして、第三に、「介護」にも技能実習生が入ることが可能になりました。今後日本側のニーズに応じて新たな職種の拡大についても明記されているため、介護職での技能実習生の受け入れを皮切りに、これまで技能実習生が入ってこなかった対人サービス業にも広がっていくことが予期されます。

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近年の日本で働く外国人労働者動向を示したのがこちらです。リーマンショックが起きた2008年、この頃は「派遣切り」という言葉が吹き荒れ、非正規雇用の大量解雇が社会問題になりました。これは日系人労働者にも顕著に見られました。そこで国は2009年4月から1年間、「失業した日系人労働者に対する帰国支援事業」を行い、労働者には最大30万円、扶養家族には最大20万円を出して出身国に帰す施策を進めました。この制度を通じておよそ2万3,000人が出身国に帰しています。

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しかし、こちらをみると、この時期も、実は日本で働く外国人労働者の数が増え続けていたことが分かります。昨年は初めて日本で働く外国人労働者数が108万3,769人と、100万人を突破しました。
その在留資格別の内訳ですが、厚生労働省によれば、表のようになっています。主なカテゴリーで言うと、第一に専門的・技術的分野の在留資格が20万994人、第二に技能実習生が21万1,108人、第三に留学生が大部分を占める資格外活動が23万9,577人、そして第四に、永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者、そして定住者として在留資格を有する人たちで、日系人が多くを占めるこのカテゴリーが41万3,389人です。もちろん、日系人や日本人と国際結婚した配偶者として在留資格を有する人々や留学生の滞在は労働が目的ではありません。技能実習生も、労働者になる技能を学びに来た人でまだ労働者にはなっていないと位置づけられています。国も技能実習生の受け入れは外国人労働者の受け入れではない、としています。このことは国の出入国管理政策を公示した出入国管理基本計画にも、明示されています。日本で働く外国人労働者のおよそ8割の人々が労働者として受け入れられた人々ではありません。日本の経済は、労働者として受け入れたのではない人々が大量に労働市場に参入することで、回っているという現実があるのです。
その背景に、少子高齢化社会があります。来年2018年からは、急速に18歳人口が減少し始めます。これは「2018年問題」と呼ばれています。2018年問題は大学などの教育機関における急速な定員割れの増加としてまず現れ、その4年後には新規労働市場参入者の急減問題になります。大卒新卒者が減るわけです。国にはそれが分かっているので、技能実習生を活用していくという姿勢を示そうとしているのです。それが、今回の技能実習法の施行であり、業種を拡大するという姿勢になっているのでしょう。
11月1日から、技能実習法の施行にともない技能実習生の滞在が3年から5年に期間を延ばすのですから、技能実習の絶対数は確実に増えるでしょう。再技能実習も認められます。しかしながら、今後の人口動態を考えれば、毎年、前年より多くの外国人に来てもらう必要があります。どんな仕事でもそうですが、入って4、5年までは、仕事を覚えてもらう段階、技能を身につけている段階です。働く者として事業所の戦力になるのはその後ですが、戦力になったとたんに技能実習生は帰国してしまうのです。
日本が迎えている少子高齢化社会に対抗するには、生産性の上昇は欠かすことができません。だからこそ、「人づくり革命」をキャッチフレーズとした人材投資が重要なテーマと言われています。しかし、こと技能実習生について見てみると、国が外国人労働者を労働力の量として確保していくことは考えていても、日本の生産性上昇に必要な人的資源と捉えているのかどうかは疑問です。
また、長期的に外国人労働力を確保し続けることが可能かどうかの懸念も残っています。日本で外国人労働者として働いている者の出身国と日本の経済格差は急速に縮まってきています。

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こちらの図はブラジル人やペルー人などの日系外国人労働者と現在の外国人技能実習生(当時は外国人研修生)が入管法上も位置づけられるようになった1990年から2015年までの一人当たりGDPでみた日本との経済格差を表したものです。かつて70倍の経済格差があった中国とは、現在ではほぼ5倍程度に縮まってきています。実際、急速に経済格差が小さくなった中国の技能実習生人口に占めるウェイトは見る間に小さくなっています。リーマンショックのあった2008年の技能実習生に占める中国人は77.3パーセントを占めていましたが、2016年には40パーセントにまで減少しています。さらに、270倍の格差があったベトナムとも15倍程度にまで縮まってきています。このようなことから、量として外国人労働者を確保していくために、近年、外国人労働者の多国籍化が顕著になっています。今後も労働力輸出国サイドの経済成長は確実に続いていくでしょう。短期的には、日本滞在年数を延ばせば量を確保できるかもしれませんが、中長期的にはきわめて困難になることは目に見えています。
日本では出生数の回復が見込めない時期が長期にわたって続いていくことでしょう。日本の総人口も、労働人口も減っていくことは火を見るよりも明らかです。このような状況を考えれば、外国人労働者を量として確保するだけでなく、生産性の上昇にも貢献してもらえる労働資源として考える。そのためには、一定期間を過ぎたら日本の労働市場から退出させることだけを重視するのではなく、長期にわたって外国人に日本で能力を発揮してもらえる社会を構想することも必要なのではないでしょうか。そしてそのような意図からの労働政策・生活者政策の方に力点を置くことも選択肢の一つのはずです。新しい外国人を迎え入れることも重要なことですが、既にいる外国人にいかに活躍してもらうのかも同時に考えていきたいことです。

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