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「住宅セーフティーネット制度の目指すもの」(視点・論点)

一般財団法人高齢者住宅財団 特別顧問 髙橋 紘士

何らかの事情で住まいの確保が困難な人々への対策が先月から始まりました。
これは、平成18年に成立した「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(通称住宅セーフティネット法)を先の国会で大幅な改正が行われ、先月施行されたのです。
住宅確保要配慮者とは、単に低所得者および低所得世帯のみならず高齢者や障害者、子育て世帯、災害の被災者、また、外国人を始め住宅確保が様々な理由で難しい状況に置かれている人々を広く対象としています。
従来、このような人々には、公営住宅などで直接住宅を供給する政策がとられてきましたが、これまでのやり方だけでは十分なニーズに応えることが難しいこと。さらに、近年、空きが増加している民間の賃貸住宅や、戸建ての空き家を活用して住宅確保のニーズに応えようとしたことが今回の制度改正の特徴です。
きょうは、新たに始まった住宅セーフティーネット制度のねらいと課題について考えます。

今回の制度の注目すべきところは何でしょうか。
ひとつは、都道府県・市町村が住宅確保に配慮が必要な人たち向けの賃貸住宅の供給促進計画を策定することになっています。
また、具体的な制度の運用で大きな役割を果たすのは、都道府県、市町村に組織される「居住支援協議会」です。これは、不動産関係団体、NPOや社会福祉法人などの居住支援団体、住宅部局、福祉部局の双方の地方公共団体の三者が構成員となり、入居の支援や居住支援活動を行い円滑な入居支援を可能にする活動を行います。
このような体制の整備を前提に大きく三つのしくみが導入されます。

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第一に、住宅確保に配慮が必要な人たち、要配慮者の入居を拒まない住宅の登録制度ができます。登録された住宅は広くインターネットなどで公開されることになっています。
そして、登録できる住宅には、従来の賃貸むけ住宅に加えて、最近急増している空き家を有効に活用できるようにすることを狙いとして、共同居住住宅、一般的にはシェアハウスと呼ばれる、一戸建ての住宅に共同で住むことを可能にしたことです。これは今回の改正の一つの目玉ともいえるものです。
第二に、これらの住宅の改修費用を補助するしくみが導入され、耐震性の確保、必要なバリアフリー工事、スプリンクラー設置などができ、安心して住むことができるよう、住宅の質の確保が可能になります。
これに加えて、家賃の軽減や入居の際の家賃債務保証制度を利用しやすい措置がとられます。このことによって経済的負担の軽減とともに、保証人が得られない場合でも、入居が容易になるようにしました。
第三に、住宅確保に配慮が必要な人たちに、多様な居住支援が行えるようにするため、経済的支援のみならず、生活支援に係る支援を行う団体も含め、居住支援法人の指定制度が導入されました。
具体的には、居住支援法人は家賃債務保証を行う事業者から、入居支援、生活支援まで居住支援にかかる多彩な事業を営利、非営利を問わず実施する組織を想定しています。
このような多様な居住支援が用意されることは、先に述べた貸主の住宅を貸す事への拒否感をなくすことにも役に立つし、様々な事情があっても安心して居住を継続する条件を入居者にも提供することになります。

今回の住宅セーフティーネット制度の改正は、今後益々増大する住宅確保を必要とする方々への対応への処方箋ができたということを意味します。これまでの賃貸住宅市場から排除されやすかった、住宅確保要配慮者を賃貸住宅の入居を妨げている要因を緩和し、いままでに比べて賃貸住宅を借りやすい環境の整備が可能になりました。
さらに人口減少、家族規模の縮小などの環境変化が、住宅にも及び、賃貸住宅の空き、一般住宅の空き家が目立つようになって社会問題化しています。住宅政策の立場からも、新築住宅の整備だけではなく、既存住居の活用が大きな課題ですが、今回の制度はこのような既存住宅の活用の道を開きました。

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さらに、住宅確保に配慮が必要な人たちには、高齢者、障害者、生活困窮者、子育て世帯など、福祉政策の対象となる方々が多く居られます。福祉政策としては、これらの方々の居住確保が問題となったとき、施設に依存するという政策しかありませんでしたが、住宅政策の側からこの問題に対処できるようになると、文字通り、居住の確保により、地域での支援体制の構築が容易になり、国が進めている「地域包括ケア」あるいは、「地域共生社会」の構築への有力な援軍になります。その意味で住宅政策と医療介護福祉政策の協働が可能になったことを意味するわけです。

 では、この仕組みがしっかりと各地域で機能していくためには、何が必要なのでしょうか。
いままでは、一部の施策で、住宅行政と福祉行政の協力が行われてきたとはいえ、地方自治体のレベルでは、まだまだ不十分です。また、この制度では居住支援協議会が大きな役割を果たしますが、都道府県の大半では設置されているものの、市町村ではまだ少数に止まります。さらに、この協議会が期待される役割を果たすためには、住宅行政と医療福祉行政の密接な協力体制が必要ですが、まだ、この点への自治体の理解が不十分なようです。

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入居を拒まない住宅の登録制度が動きだし、インターネットサイトが稼働しはじめましたが、まだ、登録件数は一件もありません。早急に地方自治体での体制づくりを進める必要があります。
幾つかの先進事例を見ると、社会福祉法人やNPOの見守りの体制があることが、家主さんが安心して住まいを貸し出すための条件とした大きな役割を果たしていることが不動産業者の方々からも評価されています。さらに、福岡市では社会福祉協議会が居住相談の機能と各種の生活支援サービスを一体的に利用できるようにして、大きな成果をあげています。このことで、だれでもが地域で住み続けることが可能になるのです。このような仕組みが全国に普及して欲しいと思います。

この制度はこれからの住まいと社会保障の新しい関係を作る、重要な第一歩です。そのためのとり組みを地方公共団体、そして地域のレベルで展開するために、行政、関係団体の理解を深め、具体的な実践が始められる必要があります。
セーフティーネット住宅を地域のなかに展開し、その中核にサービス機能を置き
居場所も併せてしつらえるなどの工夫をすると、様々な人々が共生する地域を形成することになり、今後の超高齢・少子社会の地域づくりにも連なる制度として、この仕組みを育てていきたいものです。

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