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「習近平政権下の中国経済の現状と課題」(視点・論点)

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 瀬口 清之

10月下旬に北京で開催された第19回中国党大会で第2期習近平政権の主要人事が固まり、新体制がスタートしました。この新政権では習近平主席の政治基盤が一段と強固なものとなり、内政外交両面において政策運営の自由度が高まります。
日中関係は歴史問題や領土問題など政治リスクが高いため、従来から中国の指導者層の言動において、とくに慎重な配慮が必要でした。今もその状況は続いていますが、今回の党大会を経て、習近平主席の政治基盤が強化され、政策面でのフリーハンドが強まったことにより、以前に比べて日中経済関係を発展させやすい環境となりました。

そこできょうは、中国経済の現状と、今後の日中両国の経済の行方について考えたいと思います。

現在、大多数の中国国民が中国共産党による統治を受け入れている基本的な理由は、長期にわたり経済発展をリードしてきた政策運営に対する信頼にあります。したがって、今後も政権の安定基盤確保のためには経済の安定確保が非常に重要な前提条件となります。
日本企業はこれまで長期にわたり、技術移転、雇用確保、税収拡大等を通じて中国経済に大変重要な貢献を果たしてきており、今後もその役割に期待が寄せられています。中国経済は今後徐々に経済成長率が低下し、2020年代半ばには高度成長時代が終わり、経済が回復する力強さが低下します。そうなると、海外から大きな経済ショックを受けると経済停滞が長期化する可能性が高まります。それを防ぐ上で、経済の安定に大きく貢献する日本企業の存在はますます重要になっていくと考えられます。
一方、中国経済が順調に拡大し続ければ、日本から中国向けの輸出や投資、あるいは中国人旅行客による日本での消費拡大など、日本に巨大な需要拡大効果をもたらします。今後中国経済はますます拡大し、2020年には日本の約3倍、2030年には日本経済の4~5倍の規模となり、米国経済と肩を並べる存在となる可能性が高いと思われます。
中国は日本にとってもますます重要な存在となっていくわけです。
このように日中両国経済は互いにウィン・ウィンの関係にあります。どちらか片方だけが発展するということはなく、発展する時にはともに発展し、停滞する時もともに停滞するという関係です。つまり、相手国の経済発展に貢献すれば、それが自国の経済発展につながるわけです。こうした関係は2010年以降、急速に強まってきています。

さて、現在の中国経済ですが、この数年間には見られなかったほど安定感を増しています。中国の日銀にあたる中国人民銀行は、足元の中国経済を表現するキーワードとして、夏場以降しばしば「穏中向好」という表現を用いています。以前は「平穏」つまり安定という表現でしたが、最近は安定しつつ良い方向に向かっているという言い方をし始めています。
では足元の中国経済の安定要因について説明しましょう。
まず、輸出は、一昨年から昨年まで2年間減少傾向が続きましたが、今年に入って、世界経済の回復を背景に、プラスに転じています。
次に、投資ですが、2010年以降、非効率な設備を削減するため、中央政府の指導の下、過剰投資の抑制を続けてきました。ようやくその減量効果が現われて設備過剰の状況が改善し、徐々に投資の伸び率が下げ止まりつつあります。投資抑制の効果は様々な産業の需給バランスの改善をもたらし、製品価格が上昇して企業収益の回復につながり、輸出の回復と相まって、投資意欲を高める一因となっています。
最後に、消費ですが、以前の中国経済は輸出と投資が主力のエンジンでしたが、投資抑制を強化した2011年以降は消費が主力エンジンとなっており、現在は経済成長率の3分の2を消費が牽引しています。その消費堅調の主因はサービス産業の拡大です。

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この図をご覧ください。これはGDPに占める産業分野別のウェイトの推移を示したものです。このようにここ数年、投資抑制を背景に製造業の伸びは低下していますが、都市化の進展を背景に、サービス産業は急拡大しています。サービス産業は雇用創出力が高いため、これが雇用を安定させ、賃金を上昇させ、所得を押し上げ、消費拡大をもたらしています。
それに加えて、この1~2年、大都市部ではスマホで注文も支払いも簡単にできてしまうeコマースが急拡大し、生鮮食料品やレストランからのお料理までが30分程度で自宅やオフィス等に配送されるようになりました。また、これまでお店が少なく買い物が不便だった農村でもeコマースのおかげでスマホを介したショッピングを楽しめるようになりました。これらの急速な利便性向上も消費意欲を盛り上げています。

このような中国経済の活性化は日本企業にも大きな恩恵を与え始めています。これまで、とくに2012年の尖閣問題発生以降、日本の国民の間に反中感情が一段と強まったこともあって、一部期待も込めて、中国経済の失速やバブル崩壊リスクなど悲観論を強調する風潮が続いていました。しかし、最近の中国経済の安定した状況を見ると、さすがにネガティブな材料が見つかりにくくなっています。
中国に進出している日本企業も、自動車、ロボット、建設機械、半導体、液晶、日用品など様々な分野で好調な業績が続いています。このため、ずっと中国ビジネス拡大に慎重だった日本本社でも、ついに重い腰を上げて、ちょっと中国で何かやってみるかという姿勢が見られ始めているという話を、10月末前後に中国に出張した時に、何度か耳にしました。これはこれまで数年間、ほとんどなかったことです。

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この図をご覧ください。これは中国の代表的な賃金水準の推移を示すグラフです。現在の賃金水準は、以前多くの日本企業が対中投資に熱心だった2000年代前半の5倍以上、2010年と比べてもほぼ2倍に達しています。この賃金上昇によって、2010年以降、中国国内でものすごい数の中間所得層が生まれています。
中国の中間層の人口は2020年には人口全体の約半分に達し、2010年からの10年間で10倍以上になると考えられます。この中間層の人々こそが日本企業のお客さんです。ですから日本に来るインバウンドの中国人旅行客が増えるのも当然なわけです。

このように中国経済の持続的な高成長は日本経済にも大きな恩恵をもたらしています。では、これはいつまで続くのでしょうか。
私は2020年まではほぼ確実に安定した状態が続きますが、2025年前後には高度成長時代が終わりを告げ、2030年代に入ると、リーマンショックのような外国で起きる経済危機によって引き起こされる不況から回復する力、いわゆるレジリエンスが低下し、長期の経済停滞に陥るリスクが高まると見ています。
その頃には日本経済と中国経済の関係は一段と緊密化していますので、もし中国経済が停滞すれば、日本経済も大打撃を受けます。まだかなり先の話ですが、今後中国経済のリスクを軽減することは日本にとっても重要課題となります。
中国経済の持続的安定をどうすれば実現できるか。
これが今後の日中両国の長期的な共通課題になっていくと思います。

 

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