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「相次ぐ企業不正 問われる経営力」(視点・論点)

弁護士 久保利 英明

 東芝が不正会計と巨額債務超過で大揺れしている最中、日産自動車、スバル、神戸製鋼所で大規模且つ長期間にわたる不正行為が頻発しています。

一体何が起きたのでしょうか。
一つは車両の完成検査の不正です。
完成検査とは国に代わって、各社の熟練の検査員による性能検査のことで、大量生産を可能にしています。
ところが、日産もスバルも、完成車の検査資格を持たない者が有資格者の印鑑を押印して、検査完了を装っていました。スバルも日産も呆れるほど長期間です。
 3年間に限っても、日産が116万台で費用は250億円と見込まれます。スバルも25万5000台のリコールを予告しています。今後さらに拡大することが予測されます。
二つ目は神戸製鋼所の製品データの偽装です。
 アルミや鉄鋼の世界的メーカーである神戸製鋼所で10月8日、製品の強度などを示すデータの改ざん問題が、発覚しました。アルミ、銅、鉄鋼、機械事業部門や子会社などにも拡がりました。銅製品の一部では日本工業規格(JIS)の認証が取り消されました。アルミ部門では現場だけでなく、管理職も、過去の複数の役員も、不正を認識していたことが報道されました。組織ぐるみで何十年も不正が黙認されていたのです。
製品の出荷先は、国内外のおよそ500社。新幹線や航空機、内外自動車メーカー、火力発電所、ウラン濃縮工場の部品に至るまで、不正が報告された製品は際限がありません。
海外では、アメリカの司法省が神戸製鋼所に対し、罰則付き召喚状を求めたと言われ、ヨーロッパ航空安全局は安全性が確認されるまで神戸製鋼所製品を使用しないよう航空会社などに勧告しました。

それでは、不正の本当の原因は何なのでしょうか。
第1は経営力の劣化と現場力の衰退です。
 30年も、40年も昔の慣行を改めずに、前例踏襲を続ければ、社会やマーケットの要請と乖離が起きます。これを認識せずに、ルールの改変を怠り、新しい内部統制システムを構築しなかった経営層の怠慢が真因です。さらに、日本企業の現場力も、短期利益重視に起因するコストカットにさらされ、正規雇用者の高齢化と非正規雇用の増大により、衰退しています。
第2はサラリーマン全体主義の蔓延です。
これらの事象は東芝の会計不正や三菱自工の燃費偽装同様に、経営陣が実力以上の経営目標を現場に課した結果です。上司の命令とそれに従おうとする仲間の同調圧力に抗しえず、データの偽装を現場の工夫として編み出したと言えるでしょう。人事異動もない、タコツボ的な職場構造が不正の温床となっているのです。この構図は、かつてカネボウや社会保険庁、化血研等で繰り返し摘発された不正行為の発生原因と同じです。
 現場では内部通報制度は無視され、取締役会の監視・監督が機能せず、コンプライアンス違反の情報は仲間内で隠蔽され、経営層には伝わりません。自業自得ですが、経営者は裸の王様になるのです。
第3は行政への甘えと依存体質です。
完成車検査の仕組みはメーカーの“性善説”が大前提です。しかし、利益確保のためコストカットを目指すメーカーは、自動車の安全性というミッションを忘れ、大量の正規検査員を育成する経費を惜しんで、完成検査の印鑑さえあれば良いと考えました。不正検査が何十年と通用したのは行政庁の監督能力不足のせいです。企業は行政から叱られなければ、検査が正当でなくても、社内基準を満たさなくても、気にしない偽装体質に変化しました。神戸製鋼所に至っては、昨年、JIS法違反で痛い目に遭っていたのに、データ偽装を多数の工場で行っていたのです。不正行為は大きく企業の信頼性を損ない、企業価値を損なうという当たり前の損得勘定さえもできない近視眼経営と言わざるを得ません。

さらに批判されるべきは誤った広報対応です。
日産は発覚を避けるため隠蔽し、公表を先延ばししました。
今年8月に社内調査で発覚しているのに、国土交通省に通知したのは9月の末でした。社長が「9月20日以降は正規の検査員が100%行っている」と言った後も、不正検査が行われていましたが、それを認めたのは、10月の三連休明けで且つ新聞休刊日の後でした。神戸製鋼所も8月末にはアルミ製品のデータ改竄を把握していながら、公表したのは10月8日でした。開示の先延ばしは実質的な隠蔽であり、会社のコンプライアンス意識の欠如を示しています。

また大事を小事に見せかける広報偽装も行われています。
日産は無資格検査について9月29日の最初の会見は2人の部長クラスだけでした。騒ぎが大きくなり、10月2日に至り、横浜本社で西川廣人社長が会見し、無資格者による検査の常態化を認め陳謝しましたが、『西川社長は会見で頭を深々と下げることはなく、「謝罪会見」とは一線を画した』と評されています。発言内容も「検査そのものは確実に行われており、安心・安全」というものでした。「無資格検査」だが、クルマの安全性にはなんの問題もないというのです。それなら、なぜリコールするのでしょう。車の購入者や250億円以上のリコール費用を負担する株主へも謝罪しないというのでしょうか。公の席で、些細な手続きミスに過ぎないと強弁するのは、企業の価値をますます毀損することになります。
 神戸製鋼所の副社長の「コンプライアンス違反やJIS法違反はない」との発言は虚偽でした。契約違反という明らかなコンプライアンス違反があり、銅管の秦野工場ではJIS法違反で認証を取り消されました。嘘をついたり、事実を隠してもすぐに発覚するので、会見は正直が一番なのです。

それでは各社は今、何をなすべきでしょうか
まず第三者委員会を設置すべきです。
 どのケースも、日本取引所自主規制法人の定めた「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」によれば、独立性・中立性・専門性を備えた「第三者委員会」の設置が求められるケースです。神戸製鋼所が設置するものは社内調査の評価で、自らが調査をする委員会とは言えません。日産、スバルはまだ設置さえしていません。
次ぎに、コンプライアンスとは法令遵守ではありません。誠実に社会や顧客・株主の期待に応えることこそがコンプライアンスです。
 神戸製鋼所は2016年のJIS認証取消に懲りて、企業理念の改定や行動指針まで作り替えたはずなのに、取り組みの基本を間違えていました。欧米諸国と同様にコンプライアンスに全責任を持つ、副社長クラスの腕利きの弁護士をゼネラルカウンセルとして採用するべきです。
最後に内部通報者を歓迎し、感謝し、厚遇し、情報提供を求める制度の新設です。日本にはそんな会社が少ないから、社長は裸の王様になり、恥をかくのです。 現場の不正防止には現場の声をきくしかありません。内部通報制度の抜本的改革が急務です。 
会社の浮沈はトップの経営力と決断力にかかっています。

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