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プーチン大統領が誇るロシア宇宙産業 意外な"弱点"とは

安間 英夫  解説委員

ロシアのプーチン大統領はことし9月、北朝鮮のキム・ジョンウン総書記を招いてロシアの宇宙産業の高い技術力をアピールしました。
このほど、その意外な“弱点”が浮き彫りになったというのですが、安間解説委員に聞きます。

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Q)プーチン大統領がキム総書記に自慢しているようですね。

A)
はい、プーチン大統領はことし9月、ロシア極東にあるボストーチヌイ宇宙基地にキム総書記を招き、みずから案内して、ロケットや宇宙開発の技術を誇って見せました。
こうした宇宙関連の技術は、ミサイルや偵察衛星など軍事分野にもつながり、両国の協力が進むのかどうかが注目されました。
ところがそれから1か月あまりたった先月(10月)下旬、プーチン大統領は、宇宙産業を舞台裏で支える関係者と懇談を行ったのですが、この席で大統領には耳の痛い率直な意見が相次いだのです。

Q)どんな意見だったのでしょうか。

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A)
出席者からは、
・給料が平均より低く、チームの4分の1が転職するなど、人材流出が深刻なこと、
・若い技術者は住宅ローンも組めないこと、
・キム総書記も訪れた宇宙基地は人里離れて生活基盤が整っておらず不便で、週末には車で4時間かけて買い出しなどに行かなければならないこと、
・若者には不人気で退職してしまう人もいることなど、具体的な不満の声が次々とあがりました。

Q)それでプーチン大統領はどのように答えたのですか。

A)
プーチン大統領も懇談の直前に、技術者の給料の額を知らされたそうですが、意外で驚いたと応じ、その場で対策を命じました。
大統領は現場の声に直接耳を傾け、問題に対処する指導者像を演出したかったのかもしれませんが、はからずも、最先端産業の“弱点”、人材面の切実な課題がはっきりしてしまいました。
さらに別の課題も浮き彫りになりました。

Q)それはどんなことですか。

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A)
ロシア宇宙産業の体質です。
プーチン大統領は懇談で、宇宙産業に民間の参入を促して活性化をはかる方針を強調しました。
ただこの分野では、国家、とりわけプーチン大統領の意向が色濃く反映されます。
どれくらい意向が反映されるかについて、懇談で大統領自身が明らかにしたところによると、衛星システムの名前を大統領が演説で言い間違えたところ、大統領の言ったとおりに変更されてしまったほどだそうです。
またロシアはことし、およそ半世紀ぶりに月面への無人探査機を打ち上げたものの、着陸に失敗したのですが、その背景には過剰な規制や官僚主義があるとも指摘されました。
民間の参入を促すのなら、こうした体質の改善が必要でしょう。

ロシアと北朝鮮の間では、9月の首脳会談を受けて、今週も11月15日に両国の経済や科学技術の協力の拡大について話し合う政府間の委員会が行われ、双方が議定書に署名したと伝えられています。
ロシアは宇宙開発技術をひとつのカードとして北朝鮮の関心をひきつけたいようですが、その内実は決して盤石とは言えないようです。


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安間 英夫  解説委員

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