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いざ!韓国大学入試 今年は"様変わり"も

高野 洋  解説委員

韓国では11月16日、日本の大学入学共通テストにあたる、年に1度の試験が行われます。
学歴重視の傾向が強い韓国にあって人生を左右するとも言われる韓国の大学入試、今年は少し様子が違うようです。

Q 韓国の大学入試、どういったものなんでしょう?

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A 正式名称は「大学修学能力試験」、毎年11月に実施されています。
韓国は、ソウル大学、コリョ(高麗)大学、ヨンセ(延世)大学のアルファベットの頭文字をとって「SKY(スカイ)」と呼ばれる3大学に象徴される名門大学を卒業して大企業に入るのが「成功の道」とも言われるほどの学歴社会。試験当日は国を挙げた支援が展開されます。
大勢の警察官が動員され会場周辺の警備や交通整理にあたるほか、試験の開始時刻に遅れそうな受験生をパトカーやオートバイで送り届けます。また、英語のリスニングの試験に合わせて、会場付近の上空を飛ぶ航空機の運航制限まで行われる予定で、国全体がピリピリとした空気に包まれることになります。

Q この試験、今年は少し様子が違うということですか?

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A そうなんです。高校の授業では扱わない超難問、通称「キラー問題」がなくなります。
韓国の子どもの多くは幼い頃から複数の塾に通って厳しい受験競争に臨みます。名門大学を目指す受験生たちはわずかな得点差でふるいにかけられるため、この「キラー問題」の攻略がカギでした。
その結果、学習塾への過度な依存を余儀なくされ家計を圧迫してきたと言われます。
高校生1人あたり、塾通いなどにかける教育費は、去年、全国平均で日本円にして月およそ8万円。首都ソウルでは30万円以上を支出する家庭もあるとされ、収入を教育費が上回る「教育貧困」という言葉も生まれました。
1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」が去年0.78と、7年連続で過去最低を更新した韓国。重い教育コストが急速に進む少子化の一因だという見方もあります。
そこでユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は今年6月、今回の入試から「キラー問題」を出題しないよう異例の指示を出したんです。

Q 超難問の「キラー問題」をやめたことで状況は変わりそうですか?

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A そう単純ではないようです。
一定の理解を示す声はあるものの、本番5か月前の急な方針転換に、受験生や保護者には戸惑いが広がりました。韓国教育省は、「キラー問題」は入試問題全体のごく一部で試験そのものが大きく変わるわけではないとしていますが、受験生の心理にダメージを与えるとか、かえって平均点が上がって競争が激しくなるといった批判も聞かれます。
一方で、構造的な問題も指摘されています。たとえば韓国の大企業は、1か月の平均賃金が中小企業の2倍以上ですが、その数は全体の0.3%と狭き門。大学への進学率が高い中で慢性的な就職難です。非正規雇用の労働者が増え、所得の格差は広がるばかり。過熱する受験競争を見直すべきだという声はかき消されがちです。
いかにして韓国の若者たちの将来への不安を解消するのか。雇用の創出や社会福祉の充実など先送りできない「難問」が立ちはだかっています。


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高野 洋  解説委員

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