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イスラエルのガザ攻撃 国際人道法はなぜ守られないのか

津屋 尚  解説委員

国際人道法違反と指摘されるイスラエル軍のガザ攻撃をなぜ止められないのか。この問題について国際安全保障担当の津屋尚解説委員が解説します。

Q: イスラエルに対して国際社会から批判が強まっていますね。

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A: イスラエルのガザ攻撃による犠牲者は1万1000人を超え(11月14日現在)、ガザ地区の人道状況は極度に悪化しています。国連のグテーレス事務総長をはじめ国際社会からは「国際人道法違反だ」と強く非難する声が出ています。「国際人道法」は、民間人を標的とすることを禁じています。仮に、軍事利用されている民間施設をやむなく攻撃する場合でも、市民の被害を最小限におさえなければなりません。
しかし、イスラエル軍は、ハマスの戦闘員が潜んでいるとして難民キャンプや走行中の救急車なども攻撃しています。そして、数千人もの人たちが身を寄せるガザ地区最大のシファ病院の地下には、ハマスの司令部があるとして、病院を包囲し、攻撃を加える構えです。シファ病院は電気や水もなく病院の機能を失い、治療を受けられずに亡くなる人が相次いでいます。
人質や市民を「人間の盾」にしているとされるハマスだけでなく、イスラエルの側も、あまりに人命軽視で、国際人道法の精神を大きく逸脱していると言わざるを得ません。

Q: 市民の犠牲は回避できないのですか?

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A: イスラエル軍は、人々を避難させるためとして1日4時間、戦闘を休止していますが、時間が短すぎる上に、移動が困難なケガ人や病人は取り残されてしまいます。「人道への配慮」には疑問符が付きます。

Q: 国際人道法を守らせることはできないのですか?

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A: 違反行為があっても強制的に止めるのは難しいのが実情です。国連は機能不全に陥っています。プーチン大統領に逮捕状を出した「国際刑事裁判所」もロシアと同様にイスラエルが条約に非加盟のため、強制力には限界があります。イスラエルに最も影響力のあるアメリカの働きかけも効果を上げているとは言えません。
ハマスの脅威を取り除くという名目で市民の犠牲が見過ごされるとすれば、憎しみと暴力の連鎖が一層拡大していくだけでなく、国際法をないがしろにする悪しき前例にもなりかねません。求められるのは即時停戦です。その実現にいま最も力を発揮すべきは、やはりアメリカだと思います。


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津屋 尚  解説委員

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