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イギリスで「AI安全サミット」開催 その焦点は

税所 玲子  解説委員

イギリスは、急速に開発が進むAI=人工知能の安全について話し合う「AI安全サミット」が、1日から2日間の日程で開かれます。

Q1)「AI安全サミット」は、イギリスのスナク首相の肝いりの会議のようですね。

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A1)その意気込みは会場選びからも伝わってきます。
スナク首相が立っている場所は、コンピューター科学の父と言われるチューリング博士が、第2次世界大戦中にナチスドイツの暗号解読に従事した邸宅です。
この由緒ある場所で開かれるサミットに、首相は大いに力を入れてきました。
ここで欧米や日本など、30近い国の閣僚や政府高官、AI企業、研究者などが議論を交わします。

Q2)「安全対策」がテーマということですが、具体的にはどのようなことが話し合われるのでしょうか。

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A2)サミットを前に世界ではさまざまな動きが出ています。
アメリカでは、先月30日、バイデン大統領が、一般公開前のAIのテストに厳格な基準を設けることなどを盛り込んだ大統領令に署名しました。
G7=主要7か国でも、開発者を対象にした行動規範と指針についての合意がまとまりました。
また、EU=ヨーロッパ連合でも人権保護に重きをおいた法案のとりまとめに向け、協議が進んでいます。

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こうした中、イギリスは新しい提案を用意しています。
それは国連のIPCC=「気候変動に関する政府間パネル」を参考に、新たな枠組みを作ろうというものです。
欧米では、非常に能力の高いAIのモデルは、対応を間違えれば、生物・化学兵器の製造やサイバー攻撃に使われたり、最悪、人類がAIの制御を失う可能性があったりするとの懸念が出ています。
こうした事態を防ぐために、科学者の知見を借りてAIの開発状況を調査していこうというのです。

Q3)イギリスのイニシアチブの狙いはなんでしょう。

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A3) AIの開発でアメリカと中国が先を行く中、規制の分野では国際的な存在感を発揮したい思惑だと思います。
そのためにスナク首相は、今回のサミットをできるだけ大きな枠組みで開こうと、中国にも招待状を送りました。

イギリスは、EU離脱でアメリカとEUの「かけはし」となるという外交の軸を失いました。離脱後の新たな国家戦略のキャッチフレーズは「グローバルブリテン」。その言葉通り、AIの分野でも世界に打って出ようとしているようです。


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税所 玲子  解説委員

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