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ウクライナ・反転攻勢とコサック自立の地

石川 一洋  専門解説委員

冬が近づく中、ウクライナ軍は南部ザポリージャ方面で反転攻勢を続けています。この地域はウクライナの自立の歴史と深く結びついています。石川専門解説委員に聞きます。

Qザポリージャの重要性は?

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Aウクライナ南部ドニプロ川流域から黒海に至る州でクリミア半島につながる要衝で、ウクライナ反転攻勢にとって最重要な目標です。ウクライナ側が徐々に前進しつつありますが、ロシアの防御も非常に頑強です。

Qそこがウクライナの歴史にとっての意味とは?

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Aウクライナの形成に重要な役割を果たした自立武装農民集団コサックと深く結びついています。ザポリージャのドニプロ川の流域には、16世紀から18世紀にかけてザポリージャ・コサックといわれる一大拠点がおかれ、北西からのポーランド、東からのロシア帝国、南からのオスマントルコという列強がしのぎを削る中、コサックの自治と自由を守り、今のウクライナの源流の一つとなりました。ウクライナ国歌「ウクライナは死なず」の中にも、「われらが自由のために魂と身をささげ、われらがコサックの氏族であることを示そう」とうたわれています。

Q自由ということが重要なのですか?

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Aその通りです。ウクライナにとって自由は特別な意味を持っています。自由が失われたという喪失の歴史でもあるからです。ザポリージャのコサックは、18世紀後半にかけて、ロシア帝国の拡大によって飲み込まれ、自治と自由を喪失しました。この喪失したコサックの自由を再び回復しようという思いが19世紀以降の独立を求めるウクライナの民族運動を支えてきました。その歴史が今の戦いとも重なっています。
去年2月プーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻を始めてから、
ロシア軍と戦うウクライナ人の間に愛唱されている歌に愛国歌「草原の赤いカリーナ」があります。20世紀初頭に生まれ、失われたザポリージャ・コサックの自由を復活させウクライナの独立を希求する歌です。

ザポリージャでの反転攻勢は自由の回復という歴史における意味も持っているのです。


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石川 一洋  専門解説委員

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