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イスラエルのガザ攻撃でどうなる?ウクライナ情勢

津屋 尚  解説委員

イスラエルがパレスチナのガザ地区で行っている大規模な攻撃は、反転攻勢が重要局面にあるウクライナ情勢にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。
どのような影響があるのか、津屋尚解説委員の解説です。

Q1:ゼレンスキー大統領が心配そうに情勢を眺めていますね。

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A1:はい。その視線の先にあるのは、バイデン大統領です。その背後では、プーチン大統領がほくそ笑んでいます。ウクライナにとって最大の軍事支援国のアメリカは、
イスラエルに対しても“揺るぎない支持”を表明し、2つの戦争に同時に関与しています。反転攻勢の作戦が重要局面にあるウクライナにとっては、アメリカからの支援が今後どうなるのか、気が気でない筈です。

Q2:バイデン大統領はイスラエルの方を気にしているようですね?

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A2:そうなんです。アメリカは、ユダヤ系ロビーが大きな影響力を持っていることに加えて、自国民もハマスの人質になり、テロの犠牲者もでているという事情もあります。アメリカ議会は、イスラエルへの積極的な軍事支援では一致しているのに対して、ウクライナをめぐっては対立が続いています。ウクライナの軍事支援に十分な予算が確保できなくなるかもしれません。ガザ地区に関する報道があふれる中で、ウクライナ情勢への関心が薄れて、これまでのような支援ができなくなれば、領土の奪還が進みつつある反転攻勢がとどこおって、侵略を続けるロシアを利する結果になりかねません。
そして、もう一つ、懸念されることがあります。

Q3:それは何でしょうか?

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A3:イスラエルが進める軍事作戦が国際人道法に明らかに反していることです。
戦時下の文民や病人などの保護について定める国際人道法は、非戦闘員や病院や学校など民間施設を標的とすることを禁じています。ガザ地区での空爆は、事実上の無差別攻撃で、連日、多くの市民が犠牲になりました。ハマスとは無関係な人たちの命が危機に瀕しています。地上侵攻が始まればさらに甚大な被害は避けられません。アメリカは住民の避難ルートに関する交渉など一定の対応をみせてはいるものの、本気でイスラエルを止めようとしているわけではありません。ウクライナで市民を標的にした攻撃を続けるロシアを強く非難する姿勢とは対照的です。こうした首尾一貫しない姿勢は、国際人道法に関する主張の説得力を失わせ、ガザでもウクライナでも事態を悪化させかねないと思います。


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津屋 尚  解説委員

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