ロシアが一方的に併合したクリミア半島の軍港セバストポリにウクライナ軍の攻撃が続いています。石川専門解説委員に聞きます。
Q 軍港セバストポリとは?
A ロシア帝国がクリミア半島を自国領としたのは18世紀後半、それ以来黒海から地中海へと進出するロシア海軍の拠点となってきました。ソビエト連邦崩壊後もウクライナから条約で貸与を受け、そのままロシア黒海艦隊の基地となっていました。
ウクライナは、水上ドローンなどでセバストポリの攻撃を続け、先月イギリスから供与されたミサイル・ストームシャドーで黒海艦隊の司令部を爆撃、司令部が黒煙をあげて破壊される様子はSNSで広く拡散しています。ウクライナ側には軍事的意味とともにロシア社会に精神的なショックを与える意味があるかもしれません。
Q なぜ精神的なショックを与えるのでしょうか?
A ロシアにとってセバストポリは、幾度も敵の包囲に英雄的な防衛戦を行った場所としていわば愛国主義のシンボルとなっているからです。
特にイギリス製のミサイルでの攻撃は19世紀半ばのクリミア戦争の記憶と結びつきます。ロシアとオスマントルコ・イギリス・フランスなどの戦争で、英仏連合軍がセバストポリを一年にわたって包囲、砲弾を浴びせ続け、陥落させました。ロシアの文豪トルストイはこの攻防戦に従軍し、英仏連合軍の砲弾が降り注ぐ塹壕での従軍体験を描いたセバストポリ物語のある場面では、砲弾が爆発する2秒の間に将校の一人は死に、一人は生きる、その生死を冷徹に描き戦争の残酷さを示しています。
イギリス製ミサイルによる攻撃は、セバストポリ防衛戦の愛国心とともに英仏に対して事実上敗北した苦い記憶を呼び起こすかもしれません。
Q プーチン大統領への影響は?
A 2014年のクリミアの一方的な併合は、ロシアでは熱狂的に歓迎され、プーチン大統領の支持を押し上げました。それだけにクリミアへのウクライナの攻撃が強まることは、プーチン大統領にとっては政治的に打撃で、支持基盤を揺さぶることになるかもしれません。
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