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リビア洪水 被害拡大の背景

出川 展恒  解説委員

北アフリカのリビアで、11日に発生した大規模な洪水は、犠牲者の数が増え続けていて、最終的に2万人を超えるおそれがあるという見方も出ています。被害が拡大した背景について、中東・アフリカ情勢担当の出川解説委員です。

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Q1:
これだけ被害が大きくなったのはなぜですか。

A1:
通常は雨が非常に少ないリビアですが、台風のような大型の低気圧が局地的な大雨を降らせ、干上がった川に流れ込んで、短時間で大規模な氾濫を起こしたのが直接の原因です。これに加えて、リビアの政治の混乱がもたらした人災の側面もあると指摘されています。

Q2:
政治の混乱による人災、どういうことですか。

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A2:
リビアでは、2011年、カダフィ大佐の長期独裁政権が、「アラブの春」とも呼ばれた民衆の抗議行動で崩壊し、その後、内戦に陥って、国が東西に分裂しました。西部の首都トリポリを拠点とする暫定政府と東部の軍事組織が、それぞれ別の首相を選び、対立しています。今回、洪水に見舞われたのは、東部の都市デルナを中心とする一帯で、暫定政府の統治が全く及んでいません。このため、救助や捜索活動が難航し、被害の全容をつかむことさえできていません。気象警報や防災システムが機能せず、事前に住民の避難が行われなかったこと。老朽化が指摘されながら、補修されずにいた2つのダムが決壊したこと。これらの原因で、大変な数の犠牲者が出ましたが、いずれも、国内の政治対立が影響していると、内外の専門家は指摘しています。

Q3:
さらに被害が拡大するおそれもありますね。

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A3:
はい。国連によりますと、被災地全体で4万人以上が住む場所を失い、避難生活を強いられていますが、じゅうぶんな支援の手が届いていません。衛生環境は劣悪で、清潔な飲み水さえ確保できず、多くの子どもたちが感染症にかかることが心配されます。一度助かった命を、何としても守らなければなりません。大部分の国は、東部を支配する軍事組織の政府を承認していませんが、政治的な問題はいったん棚上げにして、国連や赤十字などの国際機関を通じて、被災者に、水や食料、医薬品などを届ける大規模な緊急支援を行う必要があると考えます。


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出川 展恒  解説委員

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