反転攻勢の作戦開始から3か月。ウクライナ軍は、ロシア軍の強固な防衛ラインの一部を初めて突破し、前進を続けていますが、作戦は“時間との闘い”になっています。反転攻勢の現状と課題について国際安全保障担当の津屋尚解説委員が解説します。
Q1: ゼレンスキー大統領は“日程”を気にしているようですね?
A1: 作戦の進展が当初の想定よりも大幅に遅れているからです。ウクライナ軍は、地上部隊がアゾフ海の沿岸まで一気に進撃することを狙っていましたが、地雷原などで幾重にも築かれたロシアの強固な防衛ラインに前進を阻まれて、3か月にわたり膠着が続いてきました。
Q2: ここにきてようやく戦況が動き始めたということですね?
A2: その通りです。先月末から今月初めにかけてウクライナ軍は、南部のザポリージャ州など複数の地点でロシアの第一防衛ラインを突破し、その後も少しずつ前進を続けています。これに続いて第2・第3の防衛ラインも突破して、これまで温存してきた欧米製の戦車などの大規模部隊を投入できれば、“蟻の一穴”のように一気に領土の奪還が進む可能性があります。
Q3: 思惑通りに進みそうでしょうか?
A3: 課題は、何と言っても時間が限られていることです。雨で地面がぬかるんで地上部隊の前進が難しくなる季節が迫っていますし、その後には厳しい冬もやって来ます。アメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、「ウクライナ軍が戦いやすい天候は30日から45日程度残されている」と述べています。つまり10月後半までにどこまで前進できるかです。具体的には、交通の要衝である重要都市トクマクまで奪還できるかが一つの鍵になるでしょう。
そして、ウクライナ側には成果を急ぐもう一つの理由があります。
Q4: それは何でしょう?
A4: 最大の支援国アメリカの動きです。来年の大統領選挙に向けた政治状況や
世論の動向次第では、この先、軍事支援が縮小される可能性もぬぐえません。ウクライナとしては、確実に支援が受けられる今のうちにできる限り領土の奪還を進めたいところです。これも“時間との闘い”です。
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