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ASEANと包括的戦略的パートナーシップ"名は体を表す"か?

髙橋 祐介  解説委員

ASEAN=東南アジア諸国連合との「戦略的パートナーシップ」について、髙橋解説委員とお伝えします。

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Q1.
けさのイラストは、ASEANの屋根の下、看板の架け替えですか?
A1.
岸田総理大臣は先週、ASEANの議長国・インドネシアのジョコ大統領らと会談し、日本とASEANの「戦略的パートナーシップ」をあらゆる分野に広げて「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意しました。
一方、アメリカのバイデン大統領はASEANとの一連の首脳会議を欠席しましたが、インドで開かれたG20サミットのあと、ベトナムを就任後初めて訪問し、両国の「包括的パートナーシップ」に「戦略的」の文字を書き加え、こちらも「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意しています。

Q2.
そもそも「包括的戦略的パートナーシップ」って何のこと?
A2.
政治や経済、安全保障や環境対策、インフラ整備に至るまで、国どうしが“あらゆる分野”で“共通の利益”を得るために協力関係を築くことを指します。東西冷戦の終結後、新興国の台頭や経済のグローバル化に伴って、各国の間で盛んに使われるようになりました。様々な政治体制が混在し、内政不干渉を原則とするASEANの加盟国にとって、受け入れやすい言葉でもあるのです。
現に、中国はおととし既にASEANとの関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げしています。いまの東南アジア外交には「包括的」「戦略的」といった言葉があふれ、少々インフレ気味になっています。

Q3.
なぜいま、そうした言葉があふれている?
A3.
従来の多国間協議が、アメリカと中ロの対立を背景に、しばしば機能不全に陥っているからです。しかし「大国どうしの争いには巻き込まれたくない」それが多くのASEAN加盟国の本音でしょう。
日本とASEANはことし12月、特別首脳会議を東京で予定しています。そこで双方の“共通の利益”のため“対等な互恵関係”を築けるか?肝心の中身が伴わず、単なる仲間集めにとどまれば、名は体を表さず、「包括的戦略的パートナーシップ」は看板倒れになる恐れもありそうです。


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髙橋 祐介  解説委員

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