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中国 処理水めぐり振り上げたこぶしは

宮内 篤志  解説委員

東京電力福島第一原発にたまる処理水の放出をめぐり、中国が強く反発しています。
その背景について解説します。

Q、反発をあらわにする中国ですが、背景には何があるのでしょうか?

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A、日本が科学的根拠に基づいた対応を求めているのに対し、中国は「核汚染水」という強い言葉を用いて日本への批判を繰り返しています。

そもそも中国が本格的な批判を始めたのは、日本政府が処理水を放出する方針を決定した2年前の春ごろとみられています。当時、中国に対しては新疆ウイグル自治区の人権をめぐり、日本を含む国際社会から懸念や非難が相次いでいました。
さらに安全保障面でも日米が連携を強める中、日本に対するけん制のカードとして使い始めたのではないかと日本政府関係者や専門家は指摘しています。

そして放出のタイミングが近づくにつれて、中国側は国営メディアなどを通じて、批判の度合いを強めていきました。

Q、なぜ中国は日本側の説明に耳を傾けようとしないのでしょうか?

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A、中国政府としては、大々的に日本を批判してきただけに、今、弱腰の姿勢を見せれば、国内世論の矛先はむしろ自分たちに向かいかねないと懸念しているのだと思います。
振り上げたこぶしは、簡単には下せないのかもしれません。
だからといって、中国から日本国内に嫌がらせの電話がかかったり、中国にある日本人学校の敷地に石が投げ込まれたりする状況は、看過できるものではありません。

Q、中国の強硬な姿勢はいつまで続くのでしょうか?

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A、現時点ではなかなか見通せません。
ただ、中国では「ゼロコロナ」政策終了後も景気回復の勢いが鈍いこともあり、習近平指導部も本音では日本との経済面での協力を進めたいのではないかという見方もあります。
一方で中国側は、日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことで、みずからハードルを上げてしまったともいえます。

来月にはインドネシアでASEAN、インドではG20の首脳会議などが予定されています。
こうした場で日中の首脳の対話が実現するかどうか予断は許しませんが、中国側には、これ以上事態を悪化させないための冷静な対応が求められます。


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宮内 篤志  解説委員

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