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同盟70年の米韓合同軍事演習始まる

高野 洋  解説委員

日本、アメリカ、韓国の3か国首脳会談が開かれたのに続いて、アメリカ軍と韓国軍による定例の合同軍事演習が8月21日から韓国で始まりました。
核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に対し、どのようなメッセージとなるのでしょうか。

Q 米韓合同軍事演習はどういったものなのでしょう?

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A 朝鮮半島有事を想定して春と夏の年2回行われていて、8月21日から31日までの日程で実施されるのは夏の演習。「ウルチ(乙支)フリーダム・シールド」と名づけられています。ウルチとは朝鮮民族の英雄の1人とされる古代国家・高句麗時代の将軍の名前です。フリーダム・シールドは英語で「自由の盾」を意味します。
この演習は保守系のユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が発足した去年、4年ぶりに再開されました。今回は期間中、去年より大幅に多い30余りの野外機動訓練が行われる予定です。今年は米韓両国にとって、相互防衛条約に調印し同盟関係を結んでから70年の節目。ユン政権は、戦術核の先制使用も辞さないと威嚇する北朝鮮に、アメリカの「核の傘」を含む拡大抑止で対抗しようと同盟強化を最優先に掲げ、演習の拡充に力を入れています。

Q 演習に対して北朝鮮は反発しそうですね?

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A 北朝鮮は「敵視政策の象徴」だとして演習の中止を再三求めてきた経緯があり、すでに警戒感をあらわにしてけん制しています。キム・ジョンウン(金正恩)総書記は8月9日の朝鮮労働党中央軍事委員会の拡大会議で、朝鮮半島の地図の前で韓国の首都ソウルなどを指し示しながら、軍の戦争準備をさらに攻勢的に進めるとして「重大な軍事的対策」を命令。新型装備を用いた実戦訓練を積極的に展開すべきだと強調しました。
今年3月、春の米韓合同軍事演習の際、北朝鮮はICBM=大陸間弾道ミサイル級「火星17型」や短距離弾道ミサイル、それに巡航ミサイルを発射したほか、「核無人水中攻撃艇」と呼ぶ核魚雷とみられる兵器の実験を行いました。今回も訓練と称して核弾頭の搭載が可能なミサイルの発射など軍事挑発に出る可能性があると韓国の情報機関・国家情報院はみています。

Q 演習に先立って日米韓3か国の首脳会談が開かれましたね?

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A アメリカ・ワシントン郊外のキャンプ・デービッド山荘で日本時間の19日未明に開かれたのですが、日米韓の首脳が国際会議に合わせた形ではなく単独の3か国による会談のために集ったのは初めてでした。
会談後に発表された共同声明には、3か国首脳会談を定例化して毎年開催することや、自衛隊と米韓両軍による共同訓練の定期的な実施、北朝鮮のミサイル発射情報の即時共有の年内開始に向けて対応していくことなどが盛り込まれました。北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まる中、3か国の協力のレベルが「制度化」を図ることによって一段と引き上げられた形で、抑止力や対処力の強化につなげる狙いです。
その直後に行われる今回の米韓合同軍事演習は、中国とロシアを後ろ盾に東アジアの緊張を高めている北朝鮮に対し強い警告となります。


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高野 洋  解説委員

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