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"核の威嚇"で険しさ増す核軍縮の道

津屋 尚  解説委員

長崎に原爆が投下されてから78年。被爆地の願いとは正反対に、ロシアが核による威嚇を繰り返すなど核軍縮をめぐる現実は一層厳しくなっています。危機的ともいえる現状について国際安全保障担当の津屋解説委員の解説です。

Q1:多くの障害物が「核軍縮の道」をふさいでいますね?

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A1:NPT・核拡散防止条約は崩壊の危機。アメリカとロシアの間に唯一残された核軍縮条約「新START(戦略兵器削減条約)」も風前の灯火。さらに中国はハイペースで核戦力の増強を続けています。核軍縮は、国の安全保障を“核の抑止力”に頼る比重を減らしていくことが第一歩ですが、むしろ“核抑止力への依存”が強まっています。中でも最大の懸念は、ウクライナ侵攻を続けるロシアです。核兵器の使用をちらつかせ“核による威嚇”を繰り返しています。

Q2:核兵器は使われてしまうのでしょうか?

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A2:その可能性を議論しないといけないこと自体、現状の異常さをあらわしていますが、核を使用した場合に起こりうる事、例えば、NATO軍の直接介入や核の使用に反対する中国との関係悪化など様々なリスクを考えれば、ロシアが核を使う可能性は非常に低いとみられます。しかし、さすがにしないだろうと思われていたウクライナ侵攻に踏み切ったように、プーチン大統領の判断は民主主義国家の尺度では推し測れない面もあります。このため欧米は、プーチン大統領を刺激することに慎重になり、そのことが、ウクライナが強く求めてきた武器供与の遅れにもつながってきました。その一方で、ロシアへの対応が及び腰になれば、核で威嚇した側が得をする結果になってしまいます。問題を起こしているのが核保有国である故のジレンマに国際社会は直面しているのです。

Q3:この厳しい現実。どうしたらいいのでしょうか?

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A3:いま最低限必要なのは、長崎が核兵器使用の最後の地であり続けるよう、ロシアに核を絶対に使わせないことです。万一、核を使えば、国際的孤立などロシア自身が大きな代償を払うことをあらためて理解させ、核の使用も威嚇も決して許さないという国際世論を高めていくことが重要です。そのために唯一の戦争被爆国日本が果たす役割は大きいと思います。


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津屋 尚  解説委員

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