ミャンマーではクーデターで実権を握った軍が今月、民主派指導者アウン・サン・スー・チー氏に対する刑期を短くする「恩赦」を与えたと発表しました。軍のねらいは何なのでしょうか。
Q)
イラストではミャンマー軍が国際社会に対して「恩赦」のカードを示していますね。
どのようなカードなのでしょうか。
A)
軍はおととしクーデターを実行した際にスー・チー氏を拘束しました。
その後、汚職などさまざまな罪に問い、裁判所は合わせて33年の刑期を言い渡しています。
軍は「恩赦」により、このうちの6年を免除するとしています。
ただスー・チー氏は現在78歳です。
刑期が減っても、これを終えるのは100歳を超える年齢になります。
事実上終身刑のような状態に変わりはありません。
Q)
軍は何をねらっているのでしょうか。
A)
国際社会の圧力を弱めようという意図がうかがえます。
クーデター以降国外からの支援や投資は激減し、欧米諸国の制裁措置でミャンマーの財政は困窮を極めています。
このため国際社会が求めるスー・チー氏の解放に向けて歩み寄るような姿勢を見せて圧力を和らげたいというわけです。
Q)
6年という年数で国際社会は動くでしょうか。
A)
今回の軍の措置を評価する声はありません。
逆に「形ばかりの恩赦だ」という批判が相次いでいます。
軍はこれまで国際社会の声に耳を傾けず、民主派に対する弾圧を続けてきました。
国際社会の認識とは大きなずれがあり、その反応を見誤っている可能性があります。
しかし軽く見てばかりいられない局面も出てくるかもしれません。
軍は今後も小出しにカードを切って駆け引きをしてくるおそれがあります。
「やがてはスー・チー氏の解放につながるかもしれない」と期待を抱かせるように誘導していくわけです。
実際に軍はスー・チー氏をカードとして使う動きをほかにも見せています。
Q)
どのような動きでしょうか。
A)
ミャンマーも加盟するASEAN=東南アジア諸国連合を分裂させるためくさびを打ち込むような一手です。
ASEANを代表する特使には一切認めてこなかったスー・チー氏との面会を先月突然、隣国タイの外相に許可したのです。
タイはミャンマー軍に融和的な国の一つです。
その後の外相会議では軍には厳しい態度で臨むべきとする国々からタイの単独行動に批判の声があがり、議論が紛糾しました。
ミャンマー軍の側には「足並みを乱せばASEANの厳しい姿勢をそぐことができる」という計算がありそうです。
軍は今後もスー・チー氏をカードとして使う可能性があり、国際社会は冷静に対応していくことが求められます。
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