NHK 解説委員室

これまでの解説記事

クラスター爆弾めぐる波紋

津屋 尚  解説委員

反転攻勢を続けるウクライナ軍に対してアメリカから初めてクラスター爆弾が供与され、国際的な波紋が広がっています。この問題について、国際・安全保障担当の津屋尚解説委員が解説します。

C230719_1.jpg

【アメリカの供与に国際的非難相次ぐ】
Q1:アメリカの供与に対しては国際的な批判が出ているようですね?

C230719_4.jpg

A1:はい。クラスター爆弾は、砲弾から数多くの小さな爆弾がばらまかれ、かなりの数が不発弾となって、戦後長期にわたって市民を危険にさらすとして、2008年、「オスロ条約」で製造や保有、使用などが禁止されました。現在、日本を含め110か国以上が批准していますが、ロシア、アメリカ、ウクライナは非加盟です。
アメリカの供与は法的には可能ですが、国際人権団体は「“禁止条約の精神”をないがしろにするな」と強く非難しました。懸念を示したアメリカの同盟国もあります。

【供与の軍事的狙い】
Q2:なのになぜアメリカは供与に踏み切ったのですか?

C230719_6.jpg

A2:ウクライナの反転攻勢は今、ロシア軍の強固な防衛ラインを突破できるかが大きな課題になっているからです。ウクライナ軍は砲弾が不足し、供給するアメリカも生産能力が追いついていない中で、一度の砲撃で広範囲を破壊するクラスター爆弾は、塹壕に陣取るロシア軍への攻撃に大きな効果があると、アメリカは主張しています。
それに、アメリカの供与の有無に関わらず、ロシア・ウクライナ両軍によってすでに使われているという現実もあります。

【戦争の厳しい現実】
Q3:ロシア軍も使っているのですか?

C230719_10.jpg

A3:はい。アメリカの供与決定を受けてロシアは「自分たちも使わざるを得ない」とけん制しましたが、実は侵攻開始直後からクラスター爆弾を多用し、都市部への攻撃を繰り返していて、多くの民間人が犠牲になっています。
一方、ウクライナは、都市部では使わないことや、不発弾を処理できるよう全ての使用を記録するなどの方針を明らかにしました。
ウクライナからすれば、使用を控えた結果、敗北を喫し、ロシアの侵略が続くことは決して受け入れられないとの立場です。しかし、禁止条約が存在する兵器はどんな理由であれ使うべきでないという意見が国際的に根強いのも事実で、そうした兵器に頼らざるをえないところに、ウクライナが直面するこの戦争の厳しい現実があるように思います。


この委員の記事一覧はこちら

津屋 尚  解説委員

こちらもオススメ!